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三十三話
しおりを挟むローズは、自分自身に掛けられたのが、自分のことをしゃべれなくする呪いだという事を結論付けた。つまり、ジルに自分の口では、自分が本物のローズだとは伝えられないのである。
このままであれば、女中のローズと、婚約者のローズとが一致しないまま、終わってしまう。
どんな手段を使っても、ジルに自分が本物のローズだと気づいてもらわなければならないと、考えていた。
翌日の朝、ローズはメイド長にジル殿下じきじきの指名で、ローズを自分のメイドとしてつけてほしいとの話があったと聞き、驚いた。
「わ、私がですか?」
思わずメイド長に尋ねると、メイド長はにやりといやらしい笑みを浮かべて言った。
「ふふふ。隣国の王子様も好きものだねぇ。まぁ、あんたに拒否権はないけれどね。」
その言い方だと、ジルが厭らしい目的の為に、自分を求めていると言われているようで、ローズは苛立ちを感じた。
ジルはそんな邪な子ではないと言い返したくなった。
けれど今、ローズは、心の中でそんなまさかと悲鳴を上げたくなった。
ジルの部屋へと到着するやいなや、ローズはジルに、自分の専属のメイド服を着てほしいと言われ、とても可愛らしいふりふりのメイド服を着せられていた。
スカートの丈も、普通の物よりもやや短めのような気がして、ローズは顔を真っ赤にして、ジルの前に立っていた。
「うん。ぴったりだね。じゃあ着替えの手伝いからお願いしてもいい?」
ジルにそう言われ、ローズは依然していたように着替えの手伝いをしようとして、思わず顔を赤らめてしまう。
久しぶりにジルに近いからか、はたまた、この一年でジルが男らしくなっているからかは分からない。
ただ、ジルから、とても良い香りがした。
「手が震えているけれど、大丈夫?」
顔を覗き込まれ、ローズはうっとのけぞりそうになる。
おかしい。ジルはこんなに他人と距離を近くとるような子だっただろうかと思わずにはいられない。
「いえ・・大丈夫です。」
「そう。ありがとう。あぁ、髪にゴミがついているよ?」
優しい手つきで、髪の毛を撫でられるようにされたローズはそのまま固まってしまった。
この一年足らずの間に、ジルが、あの可愛らしかったジルがたらしになってしまっている。
ローズはその事に少なからず衝撃を受けた。
だが、考えても見ればジルも、もう年頃の男の子である。ローズが居なかった日々を、様々な女性を相手していてもおかしくはない。
まだ、まだ子どもだと思っていたのに。
ローズは自分の中に渦巻く感情に混乱しながらも、傷ついている自分に気付いた。
ジルの横にはずっと自分がいると思っていた。なのに、ジルはそうではなかったのだろうか。いや、そりゃあそうである。
ジルにとって自分はただのメイド。
メイドに、そんな感情をもつことなどない。
そう思うと、ローズの瞳からは自然と涙が溢れた。
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