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十九話

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 体に広がっていく痛みと、しびれるような感覚。

 喉が焼けつくようにひりつき、目は開けていられないほどの鈍い痛みを訴える。

「ローズ!!!」

 ジルはすぐにローズに駆け寄るが、その体はまるで凍っているかのように冷たく、生きているのかさえ分からない。

 ライアンはゆっくりと立ち上がると、肩をすくめた。

「あーあ。邪魔してくれちゃって。まぁ、どっちにしろ二人とも生かすつもりはないから、いいけれどね。」

「・・お前・・・ローズに何をした・・・」

 いつもは、ほんのりと赤い、温かな頬が、今では人形のように白い。

「ん?・・・ジル。口が悪いぞ。大丈夫。直に死ぬさ。」

「・・・・・ローズ。」

 体は硬直し、まるでそこにはすでに魂がないかのような固さ。触れるたびに、ローズがローズでないような気さえして、心の中が黒く染まっていく。

「大丈夫。お前もすぐに同じところに行ける。今回の件は、お前の呪いが突如暴走し、ローズを巻き込んで、殺してしまい、それを俺がやむを得なく対処したってことにするから。」

「・・・黙れ・・・」

「兄に向って、はぁ・・可愛い弟がそんな言葉づかいになるなんてなぁ。ローズの影響か?」

「黙れと言っている。」

 ジルはゆっくりと立ち上がると、自身の中にある押さえつけていた呪いを、ローズと共にこの数年で押さえつけるすべを身に付けた魔力を、全てを解放した。

 その瞬間、部屋の中だけでなく、城全体にジルの魔力と呪いの悍ましい力が広がって行った。

 ライアンはその様子にくくくっと喉を鳴らすと、にやりと笑った。

「わざわざ自分の呪いをひけらかして、それで?・・言っておくが、その呪いはお前の身を亡ぼすもの。多少こちらに害はあっても・・」

「黙れ。」

「ふぐっ!?」

 ライアンの喉に、黒い蛇のような何かが絡みつき、それにライアンは驚き目を丸くした。

「なっ・・・なんだと?!」

「・・・僕とさローズは呪術についてかなり詳しく調べていたんだ・・だからさ、呪いの構造を理解することは、早い段階で行きついたんだ。」

 黒い蛇はライアンの首をぎりぎりと占めていきながら、口を大きく開き、その喉元に噛みついた。

「ねぇ・・呪いが何を食べるか、知っている?」

 呪いは人の命を蝕むもの。生命力といわれるものを吸い尽くそうとする。けれど生命力と魔力は似ていて、だからこそ、呪いは魔力の強い者であればあるほどに、耐えることが出来る。

 それをジルとローズは利用することにした。

 呪いに食い殺されないように、呪い事態を操る術。呪いに魔力を食わせる。

 ライアンの首元にくらいついた黒い呪いの蛇はライアン自身の魔力を吸い取っていく。自分の体の中の魔力を吸い取られる感覚に、ライアンは悲鳴を上げた。

「やめっやめろ!やめろ!」

「ローズの呪いを解けよ・・・」

「何だと・・!?で・・できない!」

「でき・・ない?」

「っくそ!くそぉぉぉ!」

 ライアンは悲鳴を上げると、自分の魔力を広げ、そして慌てた様子で術式を組むと、次の瞬間ジルの体をライアンの魔力が包み込む。

 何をされたのかはすぐにわかった。

 体が軽くなる。痛みが消える。

 焼け付くような、ひりつく様な、今まで肌から離れなかった痛みが、消えた。

 ライアンは呪いが消えた事に大きく呼吸を繰り返しながら、青ざめた顔でぞわぞわとはい回っていた呪いの感覚を消そうと腕をさする。

 自分の魔力を吸い尽くされる前に、ジルに掛けた呪いを消したライアン。いとも簡単に消したにもかかわらず、どういうことだと、ジルはライアンの首元を今度は自らの手で絞めた。

「どういうことだ・・・・」

 自分の呪いは解けたのにもかかわらず、ローズに掛けた呪いが解けない?何故?ジルの頭の中で困惑と、それと同時に怒りが込み上げる。

 呪いが解かれたその瞬間、ジルの髪は金色の美しいものへとかわり、その瞳は宝石のように美しい青色へと姿を戻した。正真正銘の王家の血筋の証。だが、ライアンを睨みつける瞳はまるで悪魔のようで、ライアンはあぐあぐと口を開けて、自らの首を絞める手を必至で外そうとあがいた。



 
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