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四話
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なるほど、魔力の制御が不安定になっている。呪いの影響もあって禍々しい魔力を放っているのかと眉間にしわを寄せてしまう。
ライアンも相当な魔力の持ち主であったが、おそらくはジルはそれを上回るであろう。
だが、私は余裕の笑みを浮かべるとジルへと歩み寄り、頭にかぶっている箱に手を当てると優しく聞こえるように言った。
「大丈夫です。呪いにかかっていようと、かかっていまいと、魔力は制御することができます。いいですか、私の呼吸に合わせて、ゆっくりとですよ。手を握りますね。」
私はびくりとするジルの手をぎゅっと握る。
色白の小さな手は、驚くほどに冷たくて、緊張しているのが伝わってくる。
視線を合わせると、困惑の色が伺える。
「手の中に体の中の熱を持ってくるイメージで、私の手に魔力を流すような感じです。そう・・ゆっくり。こねるようにゆっくりとでいいですよ。」
元々要領がいいのだろう。ジルはすぐに感覚を掴んだようで、冷え切っていた手の温度がだんだんと高くなってくるのを感じた。
ライアンよりも優秀なんじゃないかなんてことを考えながら、魔力を少しずつ抑えられるように、ゆっくりと呼吸を繰り返していく。
すると、あれだけ広がっていた禍々しい魔力が、ジルの部屋ほどまでの大きさへと収めることが出来た。ジルはそれに自分で驚いたようであった。
微かに握っている手が震えていた。
怖かっただろう。自分でどうしようもない状況であっただろうし、助けてくれる者もいない。そんな中でよく耐えていたと、感心してしまう。
「さすがですね。とても上手ですよ。」
私がそう言うと、ジルは小さく息を吐いて、ベッドの上へと横になった。
おそらくはかなり疲れたであろう。魔力量が多い分制御は難しいはずなのに、それでもこつをつかんですぐにやってみせたジルの能力はかなり高い。
「・・・すごい・・な。ローズ。お前は新しいメイドか?」
「え?」
突然の言葉に、思わず気の抜けたような声が出てしまう。
「だって見た事が無い。だが、ありがとう。ローズ。お前がよければ、出来ればお前が僕付のメイドになってくれるとありがたい。」
質素な服を着てきたから勘違いしたのだろうか。移動中に煌びやかなドレスを着ているわけにもいかないと思って質素なワンピースにしたのだが、メイドに間違われるとは思わなかった。
おそらく国王陛下から来た連絡は、使用人らは伝えられないままであったのであろう。
だからこそ名を名乗っても、メイドだと勘違いしたのだろう。
早いうちに誤解は解いた方がいいであろうが、部屋の中を見回して眉間にしわを寄せて考えてしまう。
部屋の中には魔力が充満しているため、恐らく使用人らは入ることが出来ないだろう。となれば部屋に入れる私がどうにかするしかない。
けれど婚約者に世話をされるというのは、いかがなものだろう。
いくら年下だからといって、婚約者に世話を焼かれると言うのは男の人にとってどのような心境なのだろうかと考えても見るが、考えても答えは出ない。
メイドか。まぁ、メイドってことにしておいた方が今はいいかな。今の状況で自分以上にジルに近づける人物はいなさそうであるし、これも何かの運命だろう。
そう私は判断すると、にこやかな笑みを浮かべて頷いた。
「もちろんでございます。私は生まれながらに魔力が高いので、殿下の魔力もへっちゃらですからね。」
少しおどけた口調で言うと、ジルは驚いたような声を出した。
「そう、なのか?」
魔力量の多い人間はそう多くはない。ジル並みとなればさらに少なくなるであろう。
「はい。これからよろしくお願いしますね。ジル第二王子殿下。」
笑顔でそう声をかけると、ジルから少し柔らかい声で返事が返ってきた。
「ジルでいい。その第二王子ってあてつけで言われているみたいで嫌だ。」
その言葉に私は苦笑を浮かべると頷いた。
「かしこまりました。ジル様。」
こうして、私は年下の婚約者様に、メイドとして勘違いされることになったのであった。
ライアンも相当な魔力の持ち主であったが、おそらくはジルはそれを上回るであろう。
だが、私は余裕の笑みを浮かべるとジルへと歩み寄り、頭にかぶっている箱に手を当てると優しく聞こえるように言った。
「大丈夫です。呪いにかかっていようと、かかっていまいと、魔力は制御することができます。いいですか、私の呼吸に合わせて、ゆっくりとですよ。手を握りますね。」
私はびくりとするジルの手をぎゅっと握る。
色白の小さな手は、驚くほどに冷たくて、緊張しているのが伝わってくる。
視線を合わせると、困惑の色が伺える。
「手の中に体の中の熱を持ってくるイメージで、私の手に魔力を流すような感じです。そう・・ゆっくり。こねるようにゆっくりとでいいですよ。」
元々要領がいいのだろう。ジルはすぐに感覚を掴んだようで、冷え切っていた手の温度がだんだんと高くなってくるのを感じた。
ライアンよりも優秀なんじゃないかなんてことを考えながら、魔力を少しずつ抑えられるように、ゆっくりと呼吸を繰り返していく。
すると、あれだけ広がっていた禍々しい魔力が、ジルの部屋ほどまでの大きさへと収めることが出来た。ジルはそれに自分で驚いたようであった。
微かに握っている手が震えていた。
怖かっただろう。自分でどうしようもない状況であっただろうし、助けてくれる者もいない。そんな中でよく耐えていたと、感心してしまう。
「さすがですね。とても上手ですよ。」
私がそう言うと、ジルは小さく息を吐いて、ベッドの上へと横になった。
おそらくはかなり疲れたであろう。魔力量が多い分制御は難しいはずなのに、それでもこつをつかんですぐにやってみせたジルの能力はかなり高い。
「・・・すごい・・な。ローズ。お前は新しいメイドか?」
「え?」
突然の言葉に、思わず気の抜けたような声が出てしまう。
「だって見た事が無い。だが、ありがとう。ローズ。お前がよければ、出来ればお前が僕付のメイドになってくれるとありがたい。」
質素な服を着てきたから勘違いしたのだろうか。移動中に煌びやかなドレスを着ているわけにもいかないと思って質素なワンピースにしたのだが、メイドに間違われるとは思わなかった。
おそらく国王陛下から来た連絡は、使用人らは伝えられないままであったのであろう。
だからこそ名を名乗っても、メイドだと勘違いしたのだろう。
早いうちに誤解は解いた方がいいであろうが、部屋の中を見回して眉間にしわを寄せて考えてしまう。
部屋の中には魔力が充満しているため、恐らく使用人らは入ることが出来ないだろう。となれば部屋に入れる私がどうにかするしかない。
けれど婚約者に世話をされるというのは、いかがなものだろう。
いくら年下だからといって、婚約者に世話を焼かれると言うのは男の人にとってどのような心境なのだろうかと考えても見るが、考えても答えは出ない。
メイドか。まぁ、メイドってことにしておいた方が今はいいかな。今の状況で自分以上にジルに近づける人物はいなさそうであるし、これも何かの運命だろう。
そう私は判断すると、にこやかな笑みを浮かべて頷いた。
「もちろんでございます。私は生まれながらに魔力が高いので、殿下の魔力もへっちゃらですからね。」
少しおどけた口調で言うと、ジルは驚いたような声を出した。
「そう、なのか?」
魔力量の多い人間はそう多くはない。ジル並みとなればさらに少なくなるであろう。
「はい。これからよろしくお願いしますね。ジル第二王子殿下。」
笑顔でそう声をかけると、ジルから少し柔らかい声で返事が返ってきた。
「ジルでいい。その第二王子ってあてつけで言われているみたいで嫌だ。」
その言葉に私は苦笑を浮かべると頷いた。
「かしこまりました。ジル様。」
こうして、私は年下の婚約者様に、メイドとして勘違いされることになったのであった。
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