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第十九話 目覚めたら
しおりを挟む朝の太陽の光を感じ、小鳥のさえずりを聞きながら小さく欠伸を漏らす。
まだまどろんでいたいと思うが、そろそろ目を開けなければならないだろう。
そう思って、ゆっくりと瞼を開けた。
その瞬間にキャロルは硬直する。
目の前に、美しく整った顔の美丈夫が、気持ちよさそうに寝息を立てて寝ているのである。
キャロルは口元を押さえて悲鳴を必死に堪えた。
何故、こんなところに皇帝がいるのかとキャロルは視線を泳がせるが、どう見ても自分があてがわれた部屋で間違いはなく、自分が間違えて皇帝の寝所に入ったわけではないのだという事にほっとした。
ならばどうしてここに皇帝がいるのだと思おうが、皇帝は目を開ける気配はない。
まだ起きない様子を見たキャロルは、小さく息を吐くとその顔をまじまじと見つめた。
切れ長の二重に、長い睫。
瞳の下にはくっきりと隈の跡が見えて、疲れているのだろうかと少し心配になってしまう。
大丈夫なのだろうか。
きっと国を開けていた数日間分の仕事がたまっていたのだろう。寝る間も惜しんで仕事を終わらせていったに違いない。
ちゃんとご飯は食べているのであろうか。
キャロルは手を皇帝の深い隈へと伸ばすと、指の腹でゆっくりと撫でた。
肌はすべすべとしていた。
まだ起きない皇帝に気をよくしたキャロルは、指を今度はほっぺたへと移す。
頬は柔らかく、つついてみると程よい弾力を持っていた。
指から体温が伝わってきて、ちゃんとこの人も生きている人なのだなと分かる。
「満足したか?」
キャロルはぱっとシンの目が開き、自分の手を掴まれた事で心臓が跳ねた。
「ご、ごめんなさい。」
「いや、可愛らしくて理性との戦いを強いられるからそろそろやめてもらおうと思っただけだ。」
「理性との戦い?」
首を傾げるキャロルの手を、自身の唇に当てるとにやりとシンは笑った。
「食べてしまいたくなる。」
「ひえっ!」
ぺろりと指先を舐められ、キャロルは慌てて手をひっこめると顔を真っ赤に染め上げた。
その様子に嬉しそうにシンは微笑みを浮かべた。
「ふふ。悪戯はこれくらいにしておく。すまないな。キャロルの事が心配になって寝所に入ってしまった。」
体を起き上がらせたシンと共にキャロルも起き上がると首を傾げた。
「昨日、逃げようとしたのだと聞いた。」
「あ。」
内緒にしてと頼んだのにとキャロルは思ったが、シンは真剣な瞳でキャロルに言った。
「もし、外に出たいならば、俺が一緒に出掛ける。キャロルを閉じ込めたいわけじゃないんだ。いや、傍にいてほしいと思うが、、、。」
その言葉に、キャロルはドキリとしながらも、自分の気持ちを伝えた方が好いと思い、はっきりとした口調で言った。
「私は、外に出たいの。もう、閉じ込められるのは、嫌なの。」
その言葉に、シンの顔はしゅんとなる。
「閉じ込めない。さっきも言ったが、キャロルが外に出たいなら一緒に行ってもいいだろうか?頼む。」
「え?あの、、、皇帝が勝手にほっつき歩くのは、、、ダメだと思う。」
シンはその言葉にまたしゅんとなると、悲しげな瞳で言った。
「キャロルは、番と言うものが分かっていないのだな。」
「え?」
シンはキャロルの手を優しく自分の手で包むと言った。
「番とは、一時でも離れたくないのだ。自分の手の届く範囲にいてほしいと願ってしまうものなのだ。」
「え?でも、シンは竜ではないでしょう?」
「あぁ。だが、竜の血を継ぐものだ。血には抗えない。俺の血が、キャロルの傍にいろと訴えるのだ。」
キャロルはその言葉に目を丸くし、そしてどきどきとなる心臓を抑えた。
「えっと、、、私には、、まだ分からない。だから、まずは、知る事の出来るように、、、しばらくは傍にいる。」
シンは笑みを浮かべた。
「あぁ。それでいい。」
シンのとろけるように嬉しそうな顔に、キャロルは自分が流されそうになっているのを感じた。
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