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第八話 訪問者
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朝、日の光を浴びて大きく背伸びをした後に、泉の中に入り身を清める。
朝の泉はきらきらと輝いて見えて、水の中に潜ると光の波が美しく揺れる。
泉から上がり、体から水をはじくようにして身を震わせた時であった。
人の気配を感じそちらの方へと目を向けると、一眼だけ見た事のある、あの眼帯を付けた美丈夫が目の前に立っていた。
思わず身を強張らせると、男は両手を上げて少しだけ頬を赤く染めながら言った。
「すまない。朝、水浴びをしているとは思わなかったんだ。決して、覗こうと思ったわけではない。ただ、挨拶をしようと思っただけなのだ。いや、本当にすまない。」
こちらは竜の姿である。
だが、男の発言はまるで女性が水浴びをしているのを覗いてしまったかのような様子であり、自分が人の女だとばれているのだろうかとキャロルは思った。
「キミほど美しい竜に会うのは初めてで、、、その、多少舞い上がっているようだ。すまない。」
何に謝っているのか、いや、この男は自分を竜だと分かっている上で話しているのだ。だが、それにしても発言が何やらおかしくないだろうかと訝しげに見ていると、男は顔をまた赤らめて言った。
「私の名はシン。一度会ったことを覚えているだろうか?」
何故そこで顔を赤らめるのか、キャロルはこの男は何なのだろうかと思いながらも首を縦に振った。
すると男は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。実は、キミに会いたくて、探していたんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、キャロルはシンが自分を捕まえに来たのだろうかと一歩後ずさった。それを敏感に感じ取ったシンは両手をもう一度あげて言った。
「決してキミを捕えようとかそういうつもりはないのだ。」
本当かと訝しむように視線を向けると、シンは胸に手を当てて言った。
「自らの神に誓ってウソはないと誓おう。ただ、キミに会いたかった。」
先ほどから求婚されているような言葉が並ぶのだが、キャロルは不思議でならなかった。なぜなら自分は竜だからだ。
決して人の女の姿をしているわけではない。
あえて、もう一度言おう。
自分は竜だ。
シンにはキャロルの言わんとしていることが分かるのか、少し顔をゆがませると、落ち込んだ様子で言った。
「気持ち悪がらないでくれ。頼む。恐らくは、俺の祖先が竜であったことが関係しているのだと思うのだが、それ故なのか、はたまた元からなのかは分からないが、キミを見た瞬間に、その、キミに恋をしてしまったようだ。」
真っ直ぐな視線を受け、そう言われたキャロルは目を丸くして一歩後ずさった。
もう一度言うが、今、自分は竜である。
「逃げないでくれ。すまない。キミにあえて舞い上がっているようで、いつもの俺ではない。」
そう言うとシンは両手で自分の顔を覆い、耳まで真っ赤にするとその場で蹲り、そしてやっと落ち着いたと思ったら赤らんだ顔で上目づかいでキャロルを見た。
「こんな情けない姿を見せるつもりではなかったんだが、ダメだな。」
きゅん。
キャロルは自分の胸がそう鳴ったことに驚いた。
なんだろうか。
なんだろうか。
この胸の高鳴りは。
キャロルは初めての感覚に怖くなり、両翼を開くと空へと飛びあがった。
朝の泉はきらきらと輝いて見えて、水の中に潜ると光の波が美しく揺れる。
泉から上がり、体から水をはじくようにして身を震わせた時であった。
人の気配を感じそちらの方へと目を向けると、一眼だけ見た事のある、あの眼帯を付けた美丈夫が目の前に立っていた。
思わず身を強張らせると、男は両手を上げて少しだけ頬を赤く染めながら言った。
「すまない。朝、水浴びをしているとは思わなかったんだ。決して、覗こうと思ったわけではない。ただ、挨拶をしようと思っただけなのだ。いや、本当にすまない。」
こちらは竜の姿である。
だが、男の発言はまるで女性が水浴びをしているのを覗いてしまったかのような様子であり、自分が人の女だとばれているのだろうかとキャロルは思った。
「キミほど美しい竜に会うのは初めてで、、、その、多少舞い上がっているようだ。すまない。」
何に謝っているのか、いや、この男は自分を竜だと分かっている上で話しているのだ。だが、それにしても発言が何やらおかしくないだろうかと訝しげに見ていると、男は顔をまた赤らめて言った。
「私の名はシン。一度会ったことを覚えているだろうか?」
何故そこで顔を赤らめるのか、キャロルはこの男は何なのだろうかと思いながらも首を縦に振った。
すると男は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。実は、キミに会いたくて、探していたんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、キャロルはシンが自分を捕まえに来たのだろうかと一歩後ずさった。それを敏感に感じ取ったシンは両手をもう一度あげて言った。
「決してキミを捕えようとかそういうつもりはないのだ。」
本当かと訝しむように視線を向けると、シンは胸に手を当てて言った。
「自らの神に誓ってウソはないと誓おう。ただ、キミに会いたかった。」
先ほどから求婚されているような言葉が並ぶのだが、キャロルは不思議でならなかった。なぜなら自分は竜だからだ。
決して人の女の姿をしているわけではない。
あえて、もう一度言おう。
自分は竜だ。
シンにはキャロルの言わんとしていることが分かるのか、少し顔をゆがませると、落ち込んだ様子で言った。
「気持ち悪がらないでくれ。頼む。恐らくは、俺の祖先が竜であったことが関係しているのだと思うのだが、それ故なのか、はたまた元からなのかは分からないが、キミを見た瞬間に、その、キミに恋をしてしまったようだ。」
真っ直ぐな視線を受け、そう言われたキャロルは目を丸くして一歩後ずさった。
もう一度言うが、今、自分は竜である。
「逃げないでくれ。すまない。キミにあえて舞い上がっているようで、いつもの俺ではない。」
そう言うとシンは両手で自分の顔を覆い、耳まで真っ赤にするとその場で蹲り、そしてやっと落ち着いたと思ったら赤らんだ顔で上目づかいでキャロルを見た。
「こんな情けない姿を見せるつもりではなかったんだが、ダメだな。」
きゅん。
キャロルは自分の胸がそう鳴ったことに驚いた。
なんだろうか。
なんだろうか。
この胸の高鳴りは。
キャロルは初めての感覚に怖くなり、両翼を開くと空へと飛びあがった。
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