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第四話 眼帯の皇帝は竜に恋い焦がれる
しおりを挟む目に焼き付けられたのは、銀色の美しい体と、澄んだ宝石のような赤い瞳。
あの日以来、夜眠るときに思い出すのはあの美しい竜の事。
初代皇帝は竜だったらしく、だからなのか分からないが、自分の心がまるで半身を求めるかのようにあの竜の事を求める。
夜、夢の中でさえ竜の事を思い、そして目覚めると恋しい竜がいない事に心が動揺する。
「はぁ、またか。」
目覚めると同時に、どうしようもない焦燥感を覚え、起き上がると水を一口飲んで窓辺に腰掛け空を見上げる。
空には大きな青い月がのぼり、美しく輝いている。
「彼女も、月を見ているだろうか。」
思わずそう呟いていた自分に愕然とし、口元を手で覆うと大きく息を吐いた。
マタイ伯爵は竜については何も口を割らず、知らぬ存ぜぬで通している。今捕えてはいるが、答えによっては自分の罪が重くなることが分かっているのであろう。口を割らない事に、皇帝はため息をつく。
「シン皇帝陛下。お加減が悪いのですか?」
傍に控えていたシンの従弟にあたる側近ラハトは、最近のシンの様子を心配していた。出来れば、どうしたのか理由を聞きたいのだが、シンは自分でも分からないのだとこの話を濁していた。
「いや、月を見ていただけだ。」
「月を?」
「あぁ、彼女も見ているかと、、、。」
「彼女?!シン皇帝陛下!まさか、意中の方がいらっしゃるので?なんとめでたい!そうと決まれば後宮の準備をしなくては!」
その言葉にシンは目を丸くすると、ばたばたと動いているラハトを止めようとしたのだが、あっという間にラハトは出て行ってしまいため息をついた。
「そんな場合ではないだろうに、、、しかも、後宮に入るわけがない。」
何せ竜だ。どれだけ巨大な後宮を用意すればいいと言うのであろうか。
いや、むしろ中庭を広くして、巨大なドーム型の小屋を作れば、、、いや、違う。ダメだ。夜中だからかきっと正常に頭が回っていないのだ。
シンは頭を振ると大きくため息をついた。
「相手は竜だぞ。これではまるで番を求めているかのようだ。」
そう自分で呟いてから、ん、と動きを止めた。
自分の心臓に手を当てて、そして首を傾げる。
「番?」
そう。竜には番がいると言う。
たまに皇帝家には先祖返りが現れる。鱗があったり、瞳の色が変わっていたり、髪の色が変わっていたりと色々と特徴があった。
そして、その特徴の一つに、番を見極める能力と言うものもあったらしい。
「まさか、、、本当に?」
今まで人に恋をしたことも、女を愛したこともない皇帝は、自分の中にある愛しい、会いたい、傍にいたいと言う感覚に動揺をしていたのだが、これが、番を求めるという事なのだろうかとはたと気づいた。
だが、気づいたところで動揺が走る。
「俺は、、、、恋愛対象は人ではなかったのか。」
その日から、皇帝は自分の番について頭を悩ませる羽目になるのであった。
もちろんそれは、側近であるラハトも共にである。
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