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第七話
しおりを挟むワイアットはすくすくと成長をし、一歳になると、混沌の闇の事を”だぁ”と呼んで、どこに行くにもすぐに後ろからついてくるようになった。
「だぁ!だぁ!」
「ワイアット。我は少しばかり独りになりたい。」
こんなことを混沌の闇は生まれて初めて思った。
つい数か月前までは動かなかったからこそ、混沌の闇は少しは一人になる時間があった。だが、一歳になりよちよちと歩けるようになったワイアットは、どこにいくにも四六時中混沌の闇に引っ付いてまわるのであった。
混沌の闇の姿が見えなくなった瞬間に、天地がひっくり返るのではないかと言うほどの雄叫びを上げだすので、混沌の闇はどこにも一人で行けなくなった。
「ワイアット。心配せずとも、どこにも行かん。」
つい昨日、少しくらいならばいいかとワイアットが昼寝をしている間に森に狩りに出た。
それがいけなかった。
時間にして三十分もたっていなかったのだが、家に帰ると、ワイアットが号泣し、嗚咽し、おう吐し、顔から涙やら鼻水やらおう吐物やらをまき散らしながら抱き着いてきた。
「うわゎっゎぁぁぁっぁっぁぁぁっぁ。」
「わ、ワイアット。ど、、どうした?おい。」
「ばぁばぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!」
「なんだ?お前、吐いたのか?!大丈夫か?!え?何で泣いている?」
「ばぁぁばぁばぁばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その必死さに混沌の闇は、自分が悪い事をしたのだという事を悟り、必死になってワイアットを宥めようとしたのだが、その後は一切離れなくなったのだ。
混沌の闇が一歩でも動こうものならば脚に引っ付き、絶対に逃がさないとばかりに潤んだ瞳でしがみついてくる。
「ワイアット。すまなかったと言ったろう?もう置いていかないからな。」
そう言うと、”もう騙されるものか”という視線が返ってくる。
さすがの混沌の闇もこの視線に参った。
「そんなに一人が嫌だったのか。我はそんなことは思ったことはないのだがなぁ。」
「だぁだぁばぁばぁ。」
「お前、それ、バカってもしかして言っていないか?」
「だぁ?」
可愛らしい顔で小首を傾げられ、つい大きなため息が漏れてしまう。
赤子という生き物がこんなにも四六時中引っ付いて離れないものだとは知らなかった。
だが、それを、嫌だと思わない自分がいることに混沌の闇は少なからず驚いていた。
最近は、できる事がとにかく増えた。
初めて歩いた時には感激のあまりワイアットを十メートル以上も高くまで高い高いをして褒め称えた。
ワイアットは嬉しそうにきゃっきゃと声を上げて笑い、その姿に心がもぞもぞとした。
またある日はワイアットが初めてご飯の事を「まんま」と呼び、離乳食をすべて食べきった。
何と言う天才だろうかと思い、天才にはさらに美味しい物を食べさせなければならないと山盛りいっぱいの離乳食を食べさせた。
またある日は、ワイアットが自分のまねをして万歳をしたり、頭を下げたりしたのに驚き、剣を振ってみた。するとワイアットも剣を振る真似をして機敏な動きを見せたので、その日のうちに子どもサイズの剣を作り、混沌の闇はワイアットにプレゼントした。ワイアットは喜んでそれを振り回して木をなぎ倒した。
混沌の闇は、人間の子どもの成長とはすばらしい物だと感じながら、次第にワイアットを愛おしく思っている自分に気が付いたのであった。
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