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二十五話 ドラゴニアの呪われた王子

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 少年は大きく深呼吸をすると、ゆっくりとした口調で言った。

「俺の名前は、ダシャ・ドラゴニア。・・・一応、ドラゴニアの王子の一人なんだ。」

 ドラゴニアは竜の血を引くと言うが、ココレットはこれほどまでに竜の力をもった人に会ったのは初めてであった。

 ”聖女様”であった頃、国の威厳を示すために力の強かったココレットは、国同士の偉い方々が集まる場で挨拶をすることが何度かあった。

 その時にも何人かドラゴニアの王族に会っているが、ダシャほど力を強くは感じられなかった。

 ダシャは横たわる青年の髪を優しく撫でると、小さな声で言った。

「彼の名前はディ。俺の世話をずっとしてきてくれたんだ・・・。」

「それがどうして、こんな場所に?それに先ほど、俺のせいだと言っていましたね?」

 ココレットの言葉に、ダシャは頷くと両手で顔を覆って言った。

「・・俺は呪われた王子なんだ・・・竜人なのにもかかわらず、忌み嫌われる黒を纏って産まれた。そして二か月前・・・聖女がドラゴニアに現れないのは、俺のせいだって・・・それで、ディは俺を殺すように命じられたらしい。」

「は?」

 突然の告白に、ココレットは意味が分からず目を丸くした。


 一方その頃、ローワンとシバは森の中を進み、そしてやっと到着するだろうという頃に、周囲の異変を感じ足を止めた。

「シバ、何だ?」

「ここを見て見ろ。ここから、まやかしの魔法が駆けられている。」

 ローワンは隠すようにつけられていた魔法のリボンを見て頷くと、それを越さないように気を付けながら森の中を、静かにゆっくりと進んで行く。そして、その場を迂回して山の険しい道を一度登り、上から、病気の始まりの地を見下ろした時、息を飲んだ。

「これは・・・どういうことだシバ。」

 シバは顔色を悪うすると、意味が分からないと頭を振り、そして額に手を当てると呟くように言った。

「我が国はどうやら・・竜の怒りを買ったらしい。」

 上から見た村の近くの地形は大きく変わり、黒々とした竜の文様が大地を覆っていた。

「竜の怒り?」

 ローワンの言葉にシバは頷くと、深く息をついた。

「ドラゴニアの王は竜の血を引く竜人だ。そして王位を継ぐ者に最も力が強く継承される。それがあるからドラゴニアは王位継承でもめることはなかった。だが、百年ほど前に一度それが覆った事がある。弟が謀反を起こし、王を殺した。その時天は荒れ、竜の文様が地面を焼きつくしたという。その・・紋様が、あれだ。」

「・・・つまり、王位継承者を誰かが害した。もしくは害そうとした、ということか?」

 シバはそれに無言でうなずくと、少し考えてからゆっくりと口を開いた。

「疑問に思う事があったのだ。病は広がり、発症する者が多くなる。悪化する者も多くなった。なのに・・死者が出ていない。不可解だったが、そこに竜の介入があったとするならば・・」

 死者が出ていないという事は初耳であり、ローワンはそんな事があり得るのだろうかと眉間にしわを寄せた。

「この病を治すには、竜の怒りを鎮めなければならないのかもしれない。死者が出ていないということは、王位継承者は生きているのだろう。」

「つまり、その王位継承者を救えば竜の怒り、この病が収まると?」

「・・そう、考えられる。」

 自分の国とは違ったドラゴニアの歴史。ローワンはこの世界には様々な信じられないような現象があるのだと目の当たりにしながら、シバの言葉に頷いた。

「ならば、探すしかないな。」

「あぁ。」

 その時であった。

 突然風を裂くような音が聞こえたかと思うと、弓矢が頬をかすめる。

「どういうことだ!?」

 皆剣を抜き、弓矢を剣で振り落していく。

 ローワンもシバから借りた剣で弓矢を落としたが、矢の数が多く、急いで引くしかない。

「一旦引く!走れ!」

 シバの声に皆が一斉に森の中を駆ける。ローワンもシバの後に続き駆けていく。弓矢は次第に届かなくなり、かなりの距離を走った時であった。

「シバ!」

 シバの体がぐらりと傾き、崖下へと落ちそうになる。ローワンはその腕を掴んだものの、重さに自分事落下していく。

「っくそ!」

 どうにか崖に剣を刺し、シバの体を支えながら崖横に開く洞穴を見つけ、そこへシバの体を揺り動かして投げた。

 どさりとシバの体が転がり、ローワンもそこへ降りる。

「シバ!どうした!」

 大きな外傷はないのにもかかわらず、シバの顔色は悪くなっていく。そこで、ローワン自身もふらつき、頬に感じた熱を自身の指で撫でた。

「・・なん・・・だ・・・」

 黒い煙のようなものが指についているのを見たのを最後に、ローワンの意識は薄れていった。
 
 
 
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