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ルカの商店
しおりを挟むラクティア王国の南端に位置する、エマの村。
特に名物もなく、一言でいえばへんぴな農村です。
そこに、彼女はやってきました。
錬金術士ルカ。サラサラの長い金髪が特徴的な碧眼の彼女はフードを外した赤いローブ姿で、短髪の黒髪黒眼の熊のように体格のいい大男、皮鎧を着た剣士リュークを引き連れて。
彼女は引っ越しを済ませると、従者であり幼馴染でもあるリュークに言いました。
「ここ、いいわね。物価も安いし、怪物も弱い。森も湖も近いし、錬金術にはもってこいね」
これにリュークは嘆息して、
「で、また俺もお前の護衛で、材料取りに行かされるのか?ちゃんと給金払ってくれよな」と答えました。
ルカは村長に店を開く許可をもらうと、商店から食材を買い、料理を始めました。リュークはそれを見て呆れたように声をかけます。
「なあルカ、錬金術の店にするんじゃないのか?スープやパンじゃあ、食べ物屋じゃないか。
リュークの疑問に、ルカは「甘いわね」と前置きして、
「まずは村人となじむ事が先決よ、いきなり高価な薬を作って出しても売れないでしょ。店に親しんでもらわないとね」と答えました。
「この策士、まあいいや、出来たら俺にも食わせてくれよな」
「もちろんよ、毒見役は必要だし」
「それをいうなら味見だろ、頼むから毒は入れないでくれよ」
彩の良い、パンやスープは村人達の目を引きます。
「なじむのが目的」のルカは、比較的良心的な値段を付けていましたので、
「あら、このパンきれいでいいわね。一つ頂戴」
と、若奥さんが、赤い具を挟んだパンを買うと、
「面白い色のスープだね。試しに一つ、貰おうかな」
と、若い男が桃色のスープを容器に入れてお買い上げ。
意外と味覚のいいリュークが味見してくれているので、パンもスープもなかなかの評判ですが、ルカの本命はこれではないので、店の休みの日にはリュークを連れて、森や湖で材料を集めます。
「なるべく離れないで怪物が出たら守るのよ」
命令口調でリュークに告げるルカ。
リュークはルカに惚れていますし、ルカもそれを知っていました。
「はいはい、惚れた弱みってやつだな。我ながら難儀な事だ」
この日は森で、大きな熊と遭遇しますが、
「せいっ!」
と気の入った声とともにリュークが剣を一閃させると、熊を一撃で仕留めます。
強い分には強いのですが、ルカにはてんで弱いリュークは帰りには荷物も持たされます。
「で、取ってきた薬草だかキノコだかはどうするんだ?」
「解毒の薬や軟膏を作るわ。それが売れれば香水や虫よけの類もね。こっちのほうが日持ちがいいから、少しずつ商品を入れ替えていく予定よ」
「へいへい」
スープやパンと違い、薬類の売れ行きはよくありませんでしたが、あるとき村の子供が蜂に刺されました。毒をもつ蜂であったので、子供はたちまち重体。聞きつけたルカが駆けつけます。
解毒の薬と軟膏を持ってきて、傷に軟膏を塗り、解毒の薬を飲ませると、子供は一命を取り留めます。
子供の母親は感謝して、度々店を訪れるようになり、さらにこの話は広まると、村の外からも見に来る客が来るようになり、香水などもたまに売れるようになりました。
ある、店の休みの日。いつものように材料集めに行くことになっていましたが、リュークが気だるげにしているのに気付いたルカは、
「少しお店を休業にして、町に出ましょう。買い物に付き合いなさい」
といい、リュークをレダの町に連れ出します。
エマの村とは違い、中央に近いこの町は珍しいものでいっぱいです。
久々に町に来たルカとリュークはベンチで果物のジュースを飲みながら朗らかに談笑したり、ルカの装飾品の買い物に露店を回ったりと楽しい時間を過ごしました。
夕食をきれいな調度のレストランでとりつつ、ルカが聞きます。
「リュークは私と組んで後悔してない?」
リュークはなにをいまさら、といった感じで、
「してねえよ、というか俺がいないと困るだろ?」と言い、ルカも微笑みを返して、
「そうね、そういうことにしておいてあげるわ」と答えました。
そうして、数日の滞在の後、二人はエマの村に戻りました。
村に戻ると、ルカは町で買い付けた材料で上質の特効薬を作ります。
「少し高いけど、大抵の病気ならたちどころに治るわよ」
とリューク相手に自慢気にいいます。
その薬は値段の高さからなかなか売れませんでしたがルカは店の目玉商品としてそのまま並べ続けました。
あるとき、初老の貴族風の男が店にやってきます。
「妻が病気で、この特効薬が欲しいのですが・・・」
初老の貴族は、こう、ルカに歯切れが悪く聞いてきました。
ルカが話を聞くと、没落した貴族の家で、この特効薬を買うには路銀が足りないとのことでした。
それを聞くと、ルカは店内から一枚の札を持ってくると、
「これを貼るの忘れてたわ」
といい、特効薬の瓶に張り付けました。札には「特別半額品」と書かれていました。
初老の貴族は、その特効薬を買って去りました。
そしてやがて、病の癒えた妻と共に、エマの村に移住してきました。
ここでリュークはふとした疑問をルカに投げかけます。
「商売は順調でいいが、お前、錬金術の修行は進んでいるのか?」
「いいのよ、役に立っているんだから。どんなに知識を貯め込んでも、使わなかったら意味ないでしょ」
「そうか・・・それもそうだな」
ルカの持論に、リュークは一応の納得をしました。
次第に店は評判になり、様々な品が売れるようになりましたがルカはパンやスープもこまめに並べました。
村の人々との交流のためです。
やがて、有力貴族がルカを召し抱えに来ます。
「貴殿の知識を、私の元で役立ててもらいたい」
錬金術士は、有力な貴族をスポンサーにして研究を深めるのが一種のステイタスのような職業なので、村の誰もがルカはこの話に乗って、行ってしまうと思いました。
しかし、村人達は引き留めようとはせず、村を挙げての送別会のサプライズの準備をします。
首都にある、有力貴族の館での話し合いが終わって村に戻ったルカに村人たちは、
「おめでとう」
「今までありがとう」
と口々に言い送別会を開きますが、ルカは、
「何を言っているのよ。丁重にお断りしたわ。私がこの村を見捨てる訳がないでしょう」
と言ったので、送別会は、盛大な宴会に変わりました。
数年が過ぎ、この村は活気に溢れて人の往来も盛んになりました。
ある日、リュークはルカに聞きます。
「錬金術って賢者の石を作るのが目的のはずだろ?いいのか?」
リュークの問いに、ルカはこう答えます。
「いいのよ、多くの錬金術師がその目的に到達することを目指すけど、私にとってはこの村でみんなと豊かに暮らすほうが、性に合っているわ」
「じゃあこの村で、俺と一緒になってくれないか」
リュークが意を決して言うと、ルカは目を伏せてある秘密を打ち明けます。
「嬉しいけど、あなたのその気持ちは、実は本当の物じゃないの」
どういうことかとリュークが聞くと、
「幼いころ、私はあなたが軽い病気の時、看病中に、惚れ薬を飲ませたのよ。あなたの事はもちろん好きだけど、今はそれが後ろめたくて、でも他の誰にも渡したくなくて・・・本当にごめんなさい」
リュークはため息をつき、
「そうか、それでお前は俺を、そのまま雇用していたんだな」
と何か悟ったように言い、そして別の事を聞きます。
「その惚れ薬、もう一瓶作れるか?」
ルカは店の奥に行くと、一本の瓶を持って来きました。
「在庫があるわ。とっておきに強力なものが。これを使えば、あなたは私なんかより、気立てのいい子に恋が出来るし、その子の心を虜に出来るわ。反則だけど、これが私の罪滅ぼし」
リュークはそれを受け取ると、おもむろに瓶の栓を抜き、それを一対のグラスに注ぎます。
「もしこの気持ちが、お前の薬での物なら、お前には責任取ってもらわないとな」
そういって、片方のグラスをルカに渡して、もう片方のグラスをを手に乾杯の仕草を取ります。
ルカは少し戸惑いましたが、その意を汲むとおなじく合わせてグラスを掲げます。
「確認するわ。私でいいの?」
「ああ、俺がいないと困るんだろ?」
リュークは音頭を取ってさわやかな表情で言います。
「俺たちの将来に乾杯だ」
そして、二人同時にグラスを傾けて中身を飲み干しました。
そして二人は、そのまま見つめあいます。お互いの顔を真っ赤に染めて。
「これは少し、効きすぎってもんじゃないか」
「言ったでしょう、とっておきに強力だって」
二人はそのまま抱き合って、熱い口づけを交わしました。
この後、村はこの二人の店を中心にますます栄えてたといいます。
(おわり)
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