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「明日へ」

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 邪竜ボルヴェルグを倒した「ブレ―ドシスター」一行だったが、ここで大きな問題が発生した。

 大技をつかったミラリアが、倒れてしまったのだ。

 「管理者」ルガートの見立てでは、「聖術」と「魔の力」の合わせ技を使い続けたつけがまわって来たのだという。そして、自分にもどうにもできないとも。

 元々は未熟な「聖術」と「前世の名残の魔の力」は、その力を使い切ると、ミラリアの「魔剣士ヘルヴァルド」としての記憶を奪い、ミラリアの面の断片だけが残された。

 かつての「賢者の石板」のように、ピースの欠けたパズルのようになってしまったのだ。

 それは、ミラリアの日常の生活にすら、わずかに支障をきたしたので、エルバドルのシルヴァンの館で、静養することとなった。

 セリーヌは「これで私がシルヴァン様を取ったら、まるで悪人みたいですわ。お幸せにとは言えませんが、ミラリアをよろしくおねがいします」といい、

 シグフォードも「結局私は何も出来なかった…。今さらだが、己を鍛え直すつもりだ」といって、去っていった。

                     ☆

 「ミラリア…。私は、君を守る事ができなかった…。そして、その借りの一片たりとも返すことはできなかった…」

 車椅子に座ったミラリアは、ただの少女の顔で、車椅子を押すシルヴァンをみやり、不思議そうに首を傾げる。

 「…何の話?シルヴァン、私は貴方のもとで、充分幸せよ?」

 …そこには「ブレードシスター」としてのミラリアの姿は無かった。

 ただ、断片的に記憶を失った、女性の姿があるだけであった…。

 -人は全てが幸せに生を全うできるとは限らない-

 -人は全てが望む形で生きられるとは限らない-

 それでも、シルヴァンは、この結末を容認する事はできなかった。

             ☆

 「ロイザード、件の霊薬は手に入ったようだな」

 館の薄暗い一室で、シルヴァンが手品師兼盗賊の「トリックスター」ロイザードに確認する。

 「ああ。これをつかえば、「魔剣士ヘルヴァルドの魂」も戻って、記憶を取り戻した「ブレードシスター」のミラリアに戻るはずだよ。でもいいのかい?今のままなら「君を一途に慕う普通の女性」としてのミラリアは、君の手の内だというのに」

 これに、シルヴァンは多少の怒気をはらんだ声で答える。

 「見損なうな、ロイザード。今の姿のミラリアを手にした所で、私は嬉しくはないよ。霊薬を渡してもらおうか」

 「凄まない、はいこれ、きっちり貸しにしておくよ」

 一瓶の、銀色の液体の瓶を机に置くと、ロイザードは、館の部屋の窓を乗り越えて、去って行った。

                     ☆

 シルヴァンは、グラスに注いだ「霊薬」を車椅子のミラリアに手渡した。

 「…これが霊薬だよミラリア。さあ、これを飲んで元の君に戻ってくれ…」

 車椅子のミラリアは、キョトンとして問い返す。

 「これは何ですか、シルヴァン?」

 「気付けの薬さ。さあ、飲んでごらん、眠り姫」

 そして、何の疑問も持たずに霊薬を飲む、車椅子のミラリア。

 すると、その目は、かつての生気を取り戻して…。ミラリアは、車椅子からおもむろに起きて、シルヴァンに向き直る。そこにはかつての活発なミラリアの姿があった。

 「ありがと、シルヴァン、目が覚めたわ。修道服と私の黒太刀「黒牙」はどこ?あれがないと落ち着かないわ」

 …まぎれもなく、それは「ブレードシスター」ミラリアの姿であった。シルヴァンは、その膝元で、泣きに泣いた。

                    ☆


 シルヴァンは、この「元の姿を取り戻した」ミラリアに、最初は壊れ物を扱うように接したが、それで止まる彼女ではなく、シルヴァンを連れて、セリーヌとシグフォードと合流すると、再び冒険の旅に出た。

 …しかし、その後の冒険での活躍は、断片的な記録しかなく、その全容は謎の部分も多かった。だが、どの記録にも、その結末は、仮面の白騎士シルヴァンと修道女剣士ミラリアの結婚という形で幕引きされていると記されていたという…。

「ブレードシスターと仮面の騎士」(完了)




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