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12:ライバルとのデュエル

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 「スラッシュ・ハンド!」

 黒の短髪に紫の装束を着た、スレンダーな中性的な美女「シャドウ・アデプト」の黒蘭が、狼男「ワーウルフ」の首を、その手刀の「斬り」スキルで切り飛ばす。

 「ぬうううう…ガイア・アッパー!」

 その隣では、角刈りの、筋骨隆々とした、白い武闘着の厳つい顔の大男「ストロング・アデプト」の拳道が「溜め」からの突きあげるような拳の一撃で、虎男「ワータイガー」を、ノックアウトする。

 この「アデプト」二人による「南の森、深部」での狩りは概ね好調であった。

 …あれから、狩りを重ねてきた拳道のPTだが、この日は、カレンもロゼリーも用事でログインできていない。そして黒蘭は拳道に好意を持っている。あるいみ「危険」な状況であった。

 森の倒木に腰かけて休憩する二人。黒蘭は、拳道にたずねる。

 『拳道、キミは「誠」との決着がついたら、このゲームをやめるのかな?』

 拳道は、厳つい顔を、その表情を崩さずに、答える。

 『それは「誠」との勝負次第だな。どういう形で決着になるかは分からないが、それが一つの「けじめ」になるだろう』

 『「彼」は闘技場の常連で、実は私とフレンドでもある。キミが望むなら「対決の最高の舞台」を用意してもいい。でも、それをするには一つ条件があるんだ』

 黒蘭は、潤んだ瞳で拳道を見つめて言う。

 『キミがカレンの事を好きなのは知っている。だが、それを承知でここで言おう。私もキミが気に入っている。キミがそこで「誠」を倒したら、私とのことも考えて欲しい』

 …拳道は返答に迷った。彼は女性に免疫がほぼない。黒蘭の事も嫌いではない。それでも、彼にはこの提案は受け入れられなかった。

 『…すまない、LV的に「誠」との戦いの時は近い。黒蘭の気持ちは嬉しいが、俺は「誠」に勝ったらカレンに「告白」するつもりでいる』

 …ここの所の狩りで、拳道のLVは80に達している。「誠」ともそうLV差はないはずだ。何らかの形でコンタクトを取り、デュエルに持ち込むのは、彼の決定事項でもあった。

 『ふふ…振られちゃったね。まあいいさ、カレンに振られたらいってくれ。私がマイルームで慰めてあげるから「誠」とのコンタクトは私が取ろう。最高の舞台にはできないかもしれないけど、決闘の場は用意してあげるよ』 

 『いいのか?俺は「誠」とは多少の「因縁」がある。断られるかも知れないぞ?』

 黒蘭はしかし、極上の笑みを浮かべて答える。

 『キミが、「大勝負」に出ようというんだ。惚れた身としては、できるだけの事はしたい。例えそれが片思いであったとしてもね』

 『…すまんな。そういうことなら、素直に恩に着よう「誠」との決闘場の件、よろしく頼む』

 …こうして、黒蘭がセッティングした、ミラディの闘技場で「拳道」と「誠」の特別試合が行われることとなった…。

                     ☆

 …観客で沸き返る、首都ミラディの闘技場で、白い武闘着の厳つい、筋骨隆々とした大男「ストロング・アデプト」の「拳道」と、黒い武闘着姿で黒い長髪を後ろに流した、細身だが引き締まった長身の青年「誠」の対決が「闘技場中堅の覇者」である黒蘭の手で、半ば強引にマッチングされた。

 どこにいるかはわからないが、両者のPTメンバーも、闘技場の応援席から、これを見ているのも両者の知るところではあった。

 「…あんたがVRMMOゲームでまで、追ってくるとは思わなかったな。俺との決着がそれほどつけたかったのか?」

 「誠」は端整で精悍な顔にクールな笑みを浮かべて「拳道」にそう告げる。

 「俺に土を着けたのはお前が初めてだ。そのお前に、勝ち逃げなど、許さん!尋常に勝負してもらうぞ!」

 「拳道」もこれに答えて「誠」に告げる。

 そして、審判役の黒蘭が「では、試合を始めます!双方はデュエルドームの準備をしてください」と二人のデュエルを促す。

 「拳道」が申請して「誠」がこれを受けると、二人は半透明のデュエルドームにつつまれて、二人のデュエルが始まりを告げた…。

                    ☆

 「誠」のクラスは「フィスト・アデプト」攻守にバランスの取れた、それでいてコンボに優れたクラスである。

 「拳道」のクラス「ストロング・アデプト」は「溜め」によるパワー主体で、一撃に優れるクラスだ。

 しかし、同じ「フィスター系」の武闘家クラスであるため、そのスキルには、共通点も多い。

 …そう、こんな風に。

 『『パワーフィスト!』』

 互いが、突進系の拳でのスキルをぶつけあう。拳が重なりあって、電光を散らして、再び間合いを取る二人。

 『『スラッシュソバット!』』

 これも互いが、突進による蹴りのスキルを放ち、交錯したそれは、互いにHPを削り合って、立ち位置を逆さにして、向かい合う。

 『らちがあかないな。決めさせてもらう「エンドレス・ブロウ!」』

 「誠」が上限∞のコンボスキルを仕掛けて突進する。まともに受けて、拳と蹴りの乱打が「拳道」を襲う。

 バキ!ボコ!ベキ!グシャ!

 拳道のHPがみるみる削れる。しかし、拳道もこのままでは終わらない。

 「ストロング・アーマー!」

 …それは、打撃によるよろけ「ノックバック」を防ぎ、防御力も上がる「スキル」だった。

 そして、乱打に耐えつつ、拳道は「溜め」の態勢に入る。

 「無駄だ!俺の乱打で落ちる方が速い!」誠が叫ぶ。

 『漢を…なめるなあ!!「ガイア・アッパー!」』

 「誠」の乱打に割り込むように「拳道」の「溜め」の拳の突き上げが誠の顎に炸裂する!

 ズガシャア!

 元がSTRとAGI型で、HPは多くない「誠」は、この「錬気」混じりの「溜め」の拳道の「スキル」による突きあげる拳の一撃で、HPが0になった。この時、拳道のHPは一割以下にまで減っていた…。

 (「誠」のHP0を確認「拳道」の勝利確定を確認。デュエルドームを解除します)

 デュエルドームのシステムボイスが、拳道の勝利を告げて、デュエルドームは崩れて消えた。

 これでデュエルは終了して「誠」と「拳道」はHPとMPが回復して、互いの打撲も消え去った。

                     ☆

 「拳道!最高だよ、キミは!」

 審判であるはずの、黒蘭が、拳道に駆け寄り、思い切り抱き着く。

 「おいおい、俺はこれから彼女に告白するんだがな…」苦笑しつつ、黒蘭の頭を撫でる拳道。

 そこに「誠」が声を掛けてくる。

 『負けたよ。あんたの執念、いや、「闘志」が俺の闘技に勝った。だから、俺の持っている「称号」を、あんたに譲ろう』

 「誠」が「拳道」にステータスウィンドウを使って「称号」を贈る。

 …それは「拳を極めた者」とあり、かつて「誠」が隠しの神殿で貰ったものでもあった。

 …こうして「拳道」は「誠」に、首都ミラディの闘技場で、大歓声の中、勝利を飾った。

 …しかし彼にはまだ、別の勝負が残っていた。リアルで遠縁にあたる、黒髪の知的美人の「ハイプリースト」カレンへの告白がそれであった。彼のもう一つの締めの大一番が、始まろうとしていた…。

   
                 
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