35 / 39
26話:邪神の影
しおりを挟む2つ目のエリア、ディルドラ王国で、場違いに強いデーモン系のモンスターが出没するのが、高LVのサモナーやテイマーの仕業らしいと、白髪、青眼の「グッドラッカー」シレネスの情報で知ったゼクロス達。
錬金師の少女ルーシアの作った「高LVモンスターが近くに来るとアラームの鳴る」という魔法のアイテム「エネミーサーチ」のテストも兼ねて、そのサモナーやテイマーを追い詰めるべく行動を開始した。
ディルドラの町、レストの北にある空のどんよりとした、岩場のMAPで、アクティブのアーマーオークを狩りつつ、ゼクロスPTはその機を待った。
6人PTのその面子は、ゼクロスにクレイド、ローザにエリシャ、ライナスとリオールで組まれていた。
このときウェルトは「俺は今回、他にすることがある」と別行動を取っていた。
「みんなできるだけ、SP、MPは温存して、使った分はまめにポーションで回復しましょう」と戦術家肌の回復役、「ビショップ」と「プリースト」のツインクラスのリオールが言い、
しばらくは、やや手加減気味の狩りとなったが、エリシャの腰に下げている「エネミーサーチ」が、やがてピーピーと音を鳴らす。
「近くに高LVモンスターがいるわね。例のサモナーのデーモンかしら」
エリシャ達が音源を辿るように、音の大きくなる方に向かう。やがて、ビービービーと音が大きくなり、翼をもった馬頭の、大鎌をもったデーモンが飛行してきて、PTの前に着地する。
「エネミーサーチ」は上手く機能しているようで、エリシャは鳴り続けるこれをOFF状態にして、魔弓「エイムスナイパー」を構える。そしてまずは、とレンジャーの弓スキル「トリプルショット」での3連射を見舞う。
その鉄の矢は全て命中して、馬頭デーモンはエリシャに大鎌を構えて飛び掛かろうとする。
「させるか!」
パラディンのゼクロスが「モンスター特効2倍」効果を持つシャインソードでの剣スキル「トライスラッシュ」を用いた3連斬で、高ダメージと共にターゲットを取ると、
「ターゲット取りは僕に任せて!」
と、さらにガードナイトのライナスが、ブロードソードで、ターゲットを取るヘイト上昇の突きスキル「ドレッドノート・アタック」を当てて馬頭デーモンの目標を彼自身に向ける。
「麻痺や毒は効かなそうね。ステータスを下げるわよ!」
ローザはダークナイトの固有スキル「暗黒剣EX」での斬撃で、馬頭デーモンの防御力を下げつつダメージを与えて、
ウィザードのクレイドも「分かった。ステータス下げは僕もやる!」
と、魔法「ステータス・ブレイク」でさらにその防御を大幅に下げる。
「じゃあ、私は守りを固めましょう」
ビショップのリオールは、ライナスに「シールド」の魔法をかけて、その守備力を上げる。
馬頭デーモンは、ライナスに大鎌で斬りかかるが、鍛冶屋のメル作の頑強な鎧兜に大盾をもったライナスは「シールド」の魔法よる防御UPの効果もあって、1割弱のHPダメージでこれをしのぐ。
PTの連携がうまくいっているので、ゼクロスが味方を鼓舞するように、
「いけるぞみんな!一気に決めよう」
といい、ゼクロス自身も、パラディンからホーリーナイトにクラススイッチして、固有スキル「聖光剣」での斬撃で、この馬頭デーモンのHPを大幅に削り、移ったターゲットは、ライナスがブロードソードでの「ドレッドノート・アタック」で自分に向かうよう戻させた。
さらにリオールの回復魔法にクレイドの弱体化系魔法、ローザの「暗黒剣」そしてエリシャの「魔弓エイムスナイパー」による「ハイパワーショット」が唸って止めとなり、この馬頭のデーモンは、「グォォォォォ!」と断末魔を上げて、黒くなって、かき消えた。
「LVUP!」
PTメンバーのLVがあがり、HP、SP、MPが全快する。
「なんとかなったな……おや?」
ゼクロスの元に、ウェルトのFLから救援要請が来る。リオールが「何か掴んだようね」といい、ゼクロス達は、FLの座標のウェルトの元に向かった。
☆
ウェルトの元に行くと、そこには、予想外の光景となっていた。
真っ赤な色の髪と眼に紫の肌。妖艶だが邪悪な笑みを浮かべた、きわどい黒い衣装の女アバターに、ウェルトが倒されていて、その足元に転がっている。このゲームでは、普通にPKは出来ない仕様なので、このアバターは「プレイヤー」ではない事になる。
この女性アバターは、少しエコーのかかった声で「私を付け回すからこういうことになるのよ。あなたたちも、こうなりたいかしら?」とゼクロス達を、挑発するように言う。
ゼクロスは「お前、プレイヤーじゃないな。何者だ!」と誰何して、この女性アバターが答えるには、
「このゲームの設定画像も見てないのね。私はセレーヌ。あなたたちの言う「邪神」になるわね」と嘲るように言った。
クレイドは「このゲームでは「セレーヌ」はこの地に魔物の出る装置を置くだけで、直接は何もしないストーリーだ。そんな事はありえない」と反論する。
しかしセレーヌは、やれやれと首を振って「おやおや、良くも知らないで決めつけるのは、感心しないわね」と答えて、続けて言うには、
「ところがあるのよ、隠しルートで。私が教えるのもつまらないから、その気になったら調べなさい。今回のこれは、このルートに誰もこない私の暇つぶしを兼ねた、挑戦状ね。この手を使うにのにはもう飽きたから、次は別の形にするわ」
そういって、瞬間移動で姿を消すセレーネ。ウェルトもセーブポイントへ死に戻りなので、ゼクロス達は「一旦戻ろう」と翼のペンダントで、ギルドの拠点に戻った。
☆
ウェルトは、デスペナルティでEXPを幾分か失い、各ステータスも一時的に低下して、少し青ざめているようにも見えるが、貴重な情報を入手したので、これに一応の満足をしつつ、ギルド拠点の家屋のベッドで休憩していた。
エリシャは、少し納得いかないようで、ウェルトに向かって問いかける。
「どうして、あんな無茶をしたの?邪神相手に一人で勝てるつもりだったの?」と聞いた。
ウェルトはまさか、と首を軽く振って、曰く、
「こういうのは、密かに探らないと分からないものだ。ぞろぞろと連れ立っていては、大元は見つからない。おまけにこれには俺が一番の適任だ。だから、一人で探らせてもらった」
そして、真顔で続ける。
「件のサモナーとテイマーはもう運営にログイン停止処分をされていたとも聞いていたからな。なのに事件は続いていた。だから探ってみたらああなったというわけだ。デスペナルティは受けたが、得た情報からすれば安い物だ」
リオールは、これに一応の納得をしたようで、
「確かに、ここのみんなの性格だと「一人で探る」といったら、絶対反対されますよね。だから、一人で行ったと」と確認して、少し厳しい口調で続ける。
「理論上はそれが一番の手で、功を奏して情報も入手できましたが、こういうのは、これきりにしてくださいね。皆が心配しますから」
ウェルトも、これは分かっているようで、
「ああ、俺もこういう無茶は普段はしない。必要だから、やったまでだ。俺が調べた所によると、その隠しラスボスの邪神は高度なAIで造られていて、今回のこれは、来訪者のいない、その邪神が暇つぶしでしたことらしいな」と答えた。
この言に、クレイドはその邪神に憤慨して、
「だとすると、また、別の形で何かやりかねない。隠しルートがあると、セレーヌは言っていた。なら、それに行くのも、選択肢に入れないといけないかもな。僕たちはまだそれほどLVが高くはないから、先の話になるかも知れないけど」
ライナスは、少し場をまとめるように、言う。
「とりあえず、MPKデーモンの件は、これで一段落ですよね?向こうも「この手は飽きた」って言ってましたし。しばらくは、元の状態になると思いますから、LVを上げつつ、対策も練りましょう」
ゼクロスもこれに同意して、
「とりあえずは様子見だね。俺たちは冒険者プレイヤーだけど、スーパーヒーローじゃない。出来る事はするけど、勝ち目の少ない無茶な戦いはしたくはないね。とにかくみんな、お疲れ様」とPTのみんなをリーダーらしく労った。
そうして、各自時間でログアウト。ただゼクロスとローザはその場に残り、話を続ける。
「今の台詞は、主にエリシャの為に、でしょう?ゼクロスは、他のゲームでは、デスペナなんてものともしない無茶するじゃない。今回はウェルトが独走してやられたけど、このPTが今までほとんど大きな被害が出てないのは、あなたがエリシャを気づかって上手くバランスを取っての事じゃないのかしら?」
ローザの言い分に、ゼクロスは、少し照れくさそうに頬をかいて、
「そうかもな。俺はエリシャに、ここで不愉快な思いをして、ゲームを嫌いになって欲しくないのかも知れない。そしてもしこれが、隠しラスボスAIの邪神の仕業なら俺が高LVになって、きっちり落とし前をつけるさ」
ローザは少し羨ましそうに、黒い長髪を手で後ろに流して、
「幼馴染って、いいわね。恋人でもないのに、そこまで想われるなんてね。少し妬けちゃうかも」
と、いたって真面目な顔で言ったので、ゼクロスは少し顔を赤くした。
「別に幼馴染じゃなくたって、守りたい人ってのは誰でも大概いるだろう」
「ゼクロスのそれには、私は入ってないのかしら?」ローザが今度は微笑してからかうように言うと、
「お前、俺よりプレイヤースキル上だから、守るまでもないだろ。こっちが守って欲しいくらいだ」
とローザの言を真逆に返して、さらにゼクロスは続ける。
「しいていえば、俺とローザは、VRでの「戦友」だ。剣を取って互いの敵を倒すものだ。だから、大事なのには、変わりないさ」
ローザはここで、彼女のロールプレイらしい妖艶な笑みを浮かべて、
「ふふ、素直じゃないわね。じゃあ、邪神なんかに負けないように、お互い、もっとLVを上げて強くなりましょう」と、言ったので、
「ああ、そうだな、本当に……」とゼクロスも、しみじみとこれに同意した。
そうして、会話は途切れて、二人は互いを見合って、頷き合って、そしてそれぞれログアウト。
…こうして「デーモン系モンスター」を用いて行われたテロ的MPKは、邪神を名乗る謎めいた女の心変わりで、一応の終わりを見せて、ディルドラ王国のエリアには、当面の所、場違いに強いモンスターは出現しなくなったのであった…。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。
タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜
ぬこまる
ファンタジー
仮想世界にフルダイブすることが当たり前になった近未来。30代独身のツッチーはVRMMO【プロジェクト・テルース】の追加コンテンツを見るため土魔導師になるが、能力不足のため冒険者たちから仲間ハズレに。しかし土魔法を極めていくと仲間が増え、彼女もできそう!? 近未来ファンタジーストーリー、開幕!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。
運極さんが通る
スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。
そして、今日、新作『Live Online』が発売された。
主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる