ツインクラス・オンライン

秋月愁

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23話:ツインの回復職

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 この日は、ゼクロス、クレイド、ローザ、ウェルトの4人が討伐クエストを担当していた。

鍛冶屋のメルは、みんな用の防具をまとめて製作中なので、忙しい。

錬金師のルーシアも、隠れ家的店の2階でアイテム合成をしているようだ。

なのでエリシャは、たまたま浮いていたライナスと一緒に行動して、まず2号店を見に行った。

アパート風の2号店は、商売用の店舗なので、定期的に商品を補充する必要がある。

エリシャは、NPC店員のエルトレイドから「店の売り上げは順調で、安定して品が回っています」と聞き、少しだけ放置気味であったこの店が上手く機能していることに安堵した。

エリシャは棚の商品の補充を行い。ついてきたライナスもこれを手伝いながら、明るい口調で言う。

「いや~、何かこういうのっていいですね。店を経営しながら、ギルドマスターも務めるエリシャさんも大変かもしれないですが、みんなで、何かするのってなんだか連帯感があって、僕は好きですね」

「みんなのおかげよ。ゼクロス達が集めたドロップアイテムで、ルーシアがアイテム、メルが武具を作ってくれているから、この店は成り立っているの。ライナスも狩りに加わっている時があるから、あなたにも、感謝しているわよ」

エリシャの感謝がこもった笑顔に、ライナスは少し照れた感じで、やや赤くなり、会話を続ける。

「そういってもらえると、嬉しいな。ところで、僕のFLのプリースト…リアルの姉なんですが、リアルでの長い旅行から帰ってきたんです。LVはそんなに高くないけど、よければ、隠れ家的1号店に連れてきていいですか?」

エリシャは上機嫌で、ライナスの提案を快諾する。

「ライナスのお姉さんなら、歓迎するわよ。隠れ家的な1号店が賑やかになるのはいい事だし、回復魔法系のプレイヤーなら、うちには少ないから、できれば狩りとかも付き合ってもらえると、嬉しいわね」

こうして、店の品だしも終了して、店員NPCエルトレイドに店を任せるとエリシャとライナスは隠れ家的な店に戻った。

                    ☆

そして、隠れ家的なロッジ風の店に、みんながいるときに、ライナスが件のリアル姉のプリーストを連れてくる。

赤い長髪の、赤い眼をした、芯の強そうな女性は、白いローブを纏って、腰にはメイスを下げている。

「ライナスの姉、リオールといいます。一応「プリースト」と「ビショップ」のツインクラスです。弟が、お世話になっているようで、ありがとうございます」

と言って、丁寧に一礼した。

「俺はゼクロス。こちらこそ、ライナスには助けられています。うちは回復魔法系のプレイヤーが少なめだから、狩りとかも、たまにでいいから、付き合ってくれると、嬉しいかな」

そういってゼクロスが進み出て、右手で握手を求める。リオールはその手を右手でしっかりと握り返す。

他のみんなも、それぞれ自己紹介と、FLの交換を終えると、エリシャの提案で、軽い宴席を設ける事となった。

エリシャは得意の唐揚げとフライドポテトを揚げて、ルーシアも慣れた手つきでサンドイッチを量産する。メルはローストビーフを作り、ローザはステーキを豪快に焼いて、大皿に盛る。

料理が出来上がると、皆、各々丸テーブルにつき、料理を楽しみつつ、楽しく歓談した。

エリシャとライナスに挟まれる感じで丸テーブルについているリオールは、エリシャには「手厚いもてなし、有難うございます」といい、弟のライナスには「こういう事になっているなら、もっと早く呼びなさいよ」と、ややきつめの態度だ。

そして、彼女は、料理を一通り口にすると、皆の料理を称賛した。

「VRで、これだけの料理を作れるのは凄いですね。唐揚げはしっかり揚がってますし、サンドイッチも丁寧に良くできていて、味のバランスも良く、バリエーションも多いです。ローストビーフも良く味が染みてますし、ステーキも焼き具合と黒胡椒がよくマッチしています」


そして、彼女はここのメンバーの職業バランスをFLから見て取ると「確かに魔法系が少し薄いですね。特に、回復系がバランス的に危ういようです」と分析して、さらに続けて、

「聖騎士のゼクロスさんは、戦いながら白魔法は使えないでしょうし、ダークプリーストのローザさんは、暗黒騎士として戦うこともあるでしょうから、もう一人か二人位、回復役がいたほうがいいですね」と論評した。そして、逆にこうも分析する。


「逆に言えば、前衛がかなりいますから、正面からの戦いではおおむね有利になります。前衛が崩れなければ、後衛は安心して支援に専念できますし、特にパラディンのゼクロスさんと、ガードナイト状態のライナスはクラス的に硬いですから、うまくPT編成すれば、かなりの戦果が出せますね」


「なかなか的確な分析だね。リオールさんは戦術的な何かの心得があるんですか?」

理論派のクレイドが、隣の丸テーブルから興味あり気に、手で眼鏡を整えて言う。これに答えたのは、彼女の弟のライナスだ。

「姉のリオールは、ファンタジー系SLGゲームもよくプレイしてますから、その影響でしょうね。戦術には少し細かいですよ。でも、ちゃんと優しい所もありますから、みなさん、仲良くしてもらえると助かります」

「回復系の魔法使いが必要な時は、FLから呼んでください。出来る限り、力になります」

「はい!その時はよろしくお願いします」

リオールの進言に、エリシャがにこやかに元気よく応えて、そして宴席が一段落すると、リオールはみんなに一礼して、この店から出て、そこでログアウトした。

…こうして「プリースト」と「ビショップ」のツインクラス、リオールが新たにこの店に顔を出すようになり、狩りと食事で交流を深めて、店の常連になり、そして、ほどなくしてギルド「ロウフルライフ」の一員になるのであった…。



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