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20話:大商人との商談
しおりを挟むこの日も、エリシャの2号店は繁盛していた。
主に、皆の集めたドロップ品から、錬金師であり鍛冶屋でもあるルーシアが作ったポーションや魔法の物品。そして、優秀な鍛冶屋のメルが作った武器、防具が並び、露店で相場に詳しいエリシャが値段を付けて、NPCの店員エルトレイドが店番をして、販売していた。
この店の賑わいぶりに、居合わせたゼクロスは、エリシャの肩に、ぽんと手を置いて、
「昔の夢が叶ったな。VRだけどね」といい、これも居合わせたクレイドが、頷いて後を継ぐように言う。
「昔、小さいころは、3人で砂場で城を作って、エリシャは「私のお城!」て言っていたな。ある意味これは、君の城だ」
エリシャは、これに応えるように、言葉を紡ぐ。
「それなら、3人の夢もかなったわね。ゼクロスは「それなら俺はこの城の騎士になる!」っていってたし、クレイドも「それなら僕は、軍師になるよ」って言ってたわよね。今なら、似たようなものじゃない?」
ゼクロスは微笑んで「そうかもね。俺たちはVRゲームで3人の夢を叶えたんだ」と言い、クレイドも「良かったな、エリシャ」と、彼女を元気付かせた。
エリシャも「PTのみんなのおかげよ。お城じゃなくて、商店だけどね」と注釈をつけながらも、嬉しそうである。
ちなみに、この場にはお客とNPC店員の他にはエリシャにゼクロス、クレイドしかいない。ローザはウェルトと狩りで、ライナスとルーシアは、隠れ家的な本店にいるはずだ。メルは基本、鍛冶依頼で忙しい。
そこに銀色の刺繍の入った黒い衣装の、立派な髭を生やした中年の男アバター、大商人のルクバートが姿を現して、3人に声をかける。
「エリシャ君が、また店を立てたそうだね。開店おめでとう。これは、私からの祝い品だ」
そういって、命中の上がる「鷹のリング」をエリシャにトレードする。
そして、受け取ったエリシャが「ルクバートさん、ありがとうございます」と一礼すると、
「いや、こちらこそ君たちと、特にルーシア君には世話になっている。ここでは高すぎて売れないアイテム等があれば、君たちさえよければ、ジルドの町のわたしが経営する店に売りに来て欲しい。ルーシア君の、鍛冶と錬金の複合術とそのLVの高さは、稀有な物だ。是非、今後も商談をよろしくと伝えて欲しい」
「はい、確かに伝えます。ルクバートさん、今後もよろしくお願いします」
と、エリシャもこれに応えた。
そして、その時は、意外早く訪れた。
☆
「ここが、ルクバートさんの店か…」
首都セルフィの北東、ジルドの町の要所に、その、小さな砦のような、石造りの建物はあった。
ゼクロス、エリシャ、クレイド、そしてルーシアは、魔法のアイテムを鑑定、売却してもらうために、ここを訪れたのである。ちなみにローザとウェルト、ライナスは、隠れ家的な本店でくつろいでいるはずだ。
ルーシアがルクバートにFLからウィスパーを飛ばすと「裏口の鍵を開けるから、そこから客間に入ってくれ」との返答がくる。
ルーシアを先頭に、店の裏口に回り、頑丈そうな金属でできた扉を開けると、そこは交渉用なのか、四角いテーブルと椅子のある白い壁と床の客間になっていた。
「何かいいものでも、出来たかね?」
テーブルの向かいの椅子に座る、ルクバートが、向かいの椅子を4人を勧めつつ、ルーシアに問う。
ルーシアは、下げていた「無限のポーチ」から、少し小さめの釜のようなものを取り出して、四角いテーブルの、ルクバートの前に置く。
「これは「魔法の釜」です。通常のポーションがじわじわと湧いてくるもので、ON、OFF機能も付いています。アイテム欄での説明書きには「無限わき」となっていますが、湧く速さはそれほど早くはありませんし、急場の戦闘に対応できるものではないですから、売却したいと思います。正直、幾らになるか測れないので、ここに持ち込ませてもらいました」
「ふむ…」
ルクバートが、これの鑑定に入る。しばらく、釜を色々な角度から覗いたり、ON、OFFの機能などを確かめると「効果はそれほど激しいものではないが、無限わきは貴重だ。50万GPでどうだろうか」と切り出す。
「分かりました。それでお願いします」と、ルーシアは即答。自分の見立てより、恐らく高かったのだろう。交渉慣れしていないというのも、あるのかもしれない。
それを、見切ったのか、ルクバートは続けて、
「これで出来るものは質の普通なポーションだが、キャンプ中に使う分には問題ない。それに無限に湧くなら、初心者プレイヤーに配る事もできる。私には有効なアイテムだ」といい、ルーシア相手にGPとアイテムをトレードする。
「慈善家なんですね」
エリシャがルクバートを感心すると、ルクバートは、
「人に親切にするのはいいことだ。こちらも気分がよくなるし、時を経て、何かの形で返ってくることもある。互いのためにもなりえるから、私はこういうやりくりもしている」
だが、とルクバートは続けて、
「これは、ある程度余裕のある者がやるべきことで、自分に無理をしてやるようなことではない。君たちは、あまり無理して真似をしないほうがいい」とエリシャ達に忠告めいた言を口にする。
ともあれ、ルクバートは、50万GPでこの「ポーションの湧く釜」を買い取り、丁寧にエリシャ達を、店の外まで見送った。
「意外とあっさりな商談だったな」ゼクロスがクセのある金髪を手櫛で直して明るく言うと、
クレイドも眼鏡を手で整えて「50万GPも即座に出せるとは、さすが大商人だな」としきりに感心している。
エリシャも銀髪をさらりと手で流して「これでまたGPが潤沢になったわね。そろそろ防具もメルに鍛えてもらって、次の狩りに行きましょう」とさらなる冒険に意欲を見せる。
…こうして大商人ルクバートとの交渉で、手持ちのGPが潤ったエリシャ達は、翼のペンダントを用いて首都セルフィの中央公園にワープして、エリシャの隠れ家的本店に帰還したのであった…。
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