ツインクラス・オンライン

秋月愁

文字の大きさ
上 下
28 / 39

20話:大商人との商談

しおりを挟む


 この日も、エリシャの2号店は繁盛していた。

主に、皆の集めたドロップ品から、錬金師であり鍛冶屋でもあるルーシアが作ったポーションや魔法の物品。そして、優秀な鍛冶屋のメルが作った武器、防具が並び、露店で相場に詳しいエリシャが値段を付けて、NPCの店員エルトレイドが店番をして、販売していた。

この店の賑わいぶりに、居合わせたゼクロスは、エリシャの肩に、ぽんと手を置いて、

「昔の夢が叶ったな。VRだけどね」といい、これも居合わせたクレイドが、頷いて後を継ぐように言う。

「昔、小さいころは、3人で砂場で城を作って、エリシャは「私のお城!」て言っていたな。ある意味これは、君の城だ」

エリシャは、これに応えるように、言葉を紡ぐ。

「それなら、3人の夢もかなったわね。ゼクロスは「それなら俺はこの城の騎士になる!」っていってたし、クレイドも「それなら僕は、軍師になるよ」って言ってたわよね。今なら、似たようなものじゃない?」

ゼクロスは微笑んで「そうかもね。俺たちはVRゲームで3人の夢を叶えたんだ」と言い、クレイドも「良かったな、エリシャ」と、彼女を元気付かせた。

エリシャも「PTのみんなのおかげよ。お城じゃなくて、商店だけどね」と注釈をつけながらも、嬉しそうである。

ちなみに、この場にはお客とNPC店員の他にはエリシャにゼクロス、クレイドしかいない。ローザはウェルトと狩りで、ライナスとルーシアは、隠れ家的な本店にいるはずだ。メルは基本、鍛冶依頼で忙しい。

そこに銀色の刺繍の入った黒い衣装の、立派な髭を生やした中年の男アバター、大商人のルクバートが姿を現して、3人に声をかける。

「エリシャ君が、また店を立てたそうだね。開店おめでとう。これは、私からの祝い品だ」

そういって、命中の上がる「鷹のリング」をエリシャにトレードする。

そして、受け取ったエリシャが「ルクバートさん、ありがとうございます」と一礼すると、

「いや、こちらこそ君たちと、特にルーシア君には世話になっている。ここでは高すぎて売れないアイテム等があれば、君たちさえよければ、ジルドの町のわたしが経営する店に売りに来て欲しい。ルーシア君の、鍛冶と錬金の複合術とそのLVの高さは、稀有な物だ。是非、今後も商談をよろしくと伝えて欲しい」

「はい、確かに伝えます。ルクバートさん、今後もよろしくお願いします」

と、エリシャもこれに応えた。

そして、その時は、意外早く訪れた。

                      ☆

「ここが、ルクバートさんの店か…」

首都セルフィの北東、ジルドの町の要所に、その、小さな砦のような、石造りの建物はあった。

ゼクロス、エリシャ、クレイド、そしてルーシアは、魔法のアイテムを鑑定、売却してもらうために、ここを訪れたのである。ちなみにローザとウェルト、ライナスは、隠れ家的な本店でくつろいでいるはずだ。

ルーシアがルクバートにFLからウィスパーを飛ばすと「裏口の鍵を開けるから、そこから客間に入ってくれ」との返答がくる。

ルーシアを先頭に、店の裏口に回り、頑丈そうな金属でできた扉を開けると、そこは交渉用なのか、四角いテーブルと椅子のある白い壁と床の客間になっていた。

「何かいいものでも、出来たかね?」

テーブルの向かいの椅子に座る、ルクバートが、向かいの椅子を4人を勧めつつ、ルーシアに問う。

ルーシアは、下げていた「無限のポーチ」から、少し小さめの釜のようなものを取り出して、四角いテーブルの、ルクバートの前に置く。

「これは「魔法の釜」です。通常のポーションがじわじわと湧いてくるもので、ON、OFF機能も付いています。アイテム欄での説明書きには「無限わき」となっていますが、湧く速さはそれほど早くはありませんし、急場の戦闘に対応できるものではないですから、売却したいと思います。正直、幾らになるか測れないので、ここに持ち込ませてもらいました」

「ふむ…」

ルクバートが、これの鑑定に入る。しばらく、釜を色々な角度から覗いたり、ON、OFFの機能などを確かめると「効果はそれほど激しいものではないが、無限わきは貴重だ。50万GPでどうだろうか」と切り出す。

「分かりました。それでお願いします」と、ルーシアは即答。自分の見立てより、恐らく高かったのだろう。交渉慣れしていないというのも、あるのかもしれない。

それを、見切ったのか、ルクバートは続けて、

「これで出来るものは質の普通なポーションだが、キャンプ中に使う分には問題ない。それに無限に湧くなら、初心者プレイヤーに配る事もできる。私には有効なアイテムだ」といい、ルーシア相手にGPとアイテムをトレードする。

「慈善家なんですね」

エリシャがルクバートを感心すると、ルクバートは、

「人に親切にするのはいいことだ。こちらも気分がよくなるし、時を経て、何かの形で返ってくることもある。互いのためにもなりえるから、私はこういうやりくりもしている」

だが、とルクバートは続けて、

「これは、ある程度余裕のある者がやるべきことで、自分に無理をしてやるようなことではない。君たちは、あまり無理して真似をしないほうがいい」とエリシャ達に忠告めいた言を口にする。

ともあれ、ルクバートは、50万GPでこの「ポーションの湧く釜」を買い取り、丁寧にエリシャ達を、店の外まで見送った。

「意外とあっさりな商談だったな」ゼクロスがクセのある金髪を手櫛で直して明るく言うと、

クレイドも眼鏡を手で整えて「50万GPも即座に出せるとは、さすが大商人だな」としきりに感心している。

エリシャも銀髪をさらりと手で流して「これでまたGPが潤沢になったわね。そろそろ防具もメルに鍛えてもらって、次の狩りに行きましょう」とさらなる冒険に意欲を見せる。

…こうして大商人ルクバートとの交渉で、手持ちのGPが潤ったエリシャ達は、翼のペンダントを用いて首都セルフィの中央公園にワープして、エリシャの隠れ家的本店に帰還したのであった…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

静寂の星

naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】 深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。 そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。 漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。 だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。 そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。 足跡も争った形跡もない。 ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。 「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」 音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。 この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。 それは、惑星そのものの意志 だったのだ。 音を立てれば、存在を奪われる。 完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか? そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。 極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

処理中です...