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秋月愁

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15話:商談と宴席

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 この日は、ゼクロス達は、ツインクラスの、低めの方のLVのクラスでPTを組み、ジルドの町の東の丘陵地帯で、EXPの高いオーガ狩りにきていた。

オーガとPTが相対すると、ローザがダークプリーストの魔法「ダークネス」でオーガを盲目状態にする。

ウェルトもアサシンのスキルで作った麻痺毒の矢で、レンジャーのスキル「トリプルショット」の3連射を使い、これを全て当てて、オーガをさらに麻痺状態にする。

エリシャも同じく、メルの作った良質のロングボウで「トリプルショット」を放つ。ウェルト程の命中精度はないが、オーガが麻痺しているので、これも全て、命中する。

ゼクロスも、ホーリーナイト状態で、ルーシア作の威力2割増しのロングソードで「クロススラッシュ」での十字斬りで、これを瀕死にすると、

「止めだ!」

と勢い込んで、クレイドがこれもメル作の良質なショートスピアで「トリプルファング」の3連突きで、これに止めをさした。

「皆、低い方のLVのクラスでも、そこそこいけるね」

ゼクロスが、率直な感想を言うと、

「まあ、この人数で、皆もPTプレイに慣れてきている。クラススキルとそれぞれの役割が多少違うだけだ」

クレイドは手で眼鏡を直して、さも当然のように答える。

この後もオーガ狩りは続いて、主にローザとウェルトがオーガを盲目や麻痺にして、被害少なく戦ったので、LVUPは順調に進み、狩りが終わると、

ゼクロスはホーリーナイトLV22、クレイドはソルジャーLV18、ローザはダークプリーストLV22、エリシャはレンジャーLV23、そしてウェルトもレンジャーLV25として「トリプルパワーショット」と「トリプルエイムショット」を覚えた。

この日はこれで、翼のペンダントで首都セルフィの中央公園にワープして戻り、エリシャのロッジ風の店に戻ると、ルーシアの作ったハンバーガーを食べて、PTの皆が良質のこれを素直に褒めると、休憩して、各自でログアウトとなった。

                    ☆

そして、次の日での事。

高LVの商人とおぼしき、銀の刺繍入りの黒い衣装に平たいつばのある黒い帽子をかぶった立派な髭をした恰幅のいい中年の、やや表情の硬い、ルクバートという男のアバターが、メルを伴い、エリシャの隠れ家的なロッジ風の店を訪ねて来た。

「商人のルクバートという。メルにここの事を聞いて、一つ商談に来させてもらった」

「メルの知り合いなら歓迎ですが、商談とはどういうことでしょう」

エリシャが用向きを丁寧に聞いて応対すると、ルクバートは、一時的に、HPの上限の上がる携帯式のレーションについて聞きたいのだという。

銃士姿のメルが、少しすまなそうに「ごめん、取引中に口が滑っちゃった」といって、右手で謝るジェスチャーを店のみんなにしてみせる。

エリシャは優しく、

「いいのよメル。別に秘密って訳でもないから。ルクバートさんの言っているものはこれですか?」

といって、カウンター奥の簡易倉庫に入れていた、四角い小さい箱状の「特製のレーション」を取り出してみせる。

ルクバートは「手際がいいのはいい事だ。水で戻して食べると、HPの上限が一時的に上がるとの事だが、一食ここで食べさせてもらっていいか?」といい、

台所のルーシアが、エリシャに手渡されたそれを、ふたをあけて、水を入れて、客用の箸で入念に混ぜると、カウンター席に座ったルクバートの前に両手で置いた。

ルクバートはそれを箸で食して「ふむ、味は悪くないな」といい、自身のHP上限が若干上昇したのを確認すると、感心したように、立派な顎鬚をさすり、

「携帯性、実用性がかなり高いな。是非うちの店でも取り扱いたい。これは、どこから仕入れている?」

「こちらの「錬金師」のルーシアが、メルの助言を元に作成しました。まだ試作段階を過ぎたばかりなのと、作り方が特殊なので、大量生産は出来ませんが、便利な携帯食として、店に来るみんなに重宝されています」

質問をするルクバートに、露店で客慣れしているエリシャがはきはきと応対する。ルーシアは少しおずおずとしているが、ルクバートは気にせずに今度はルーシアに聞く。

「これは、聞いていい質問か分からないが「錬金師」のクラスがあれば、だれでも作れるものなのか?」

ルーシアは、ちらりとエリシャのほうを見る。返答していいのかわからないようなので、エリシャは優しく頷いて「いいわよルーシア。あなたの作ったものだから、あなたさえよければ教えてあげて」とルーシアの頭を軽く撫でて言った。

ルーシアは、エリシャの許可が出たので、少しおどおどしながらも丁寧な口調でルクバートに答える。

「…はい、料理の心得が少しある錬金師なら、だれでも作れると思います。ここの皆で案を出し合って作ったレシピですから、詳しくは言えないですけど、技術的にはそう高い物ではないです」

ルクバートはそれを聞き、ルーシアとエリシャにある提案をした。それは商談のような物で、

「これは、最前線で遠征、冒険しているプレイヤーには、なかなか有用になるものだ。知る限り、似たような物は、まだ露店でも売られていない。私は、これの量産体制を敷いて、冒険者プレイヤー達の遠征の助けとしたい」と言い、真剣な表情で続ける。

「メルから聞いたが、ここには客があまり一斉に来られると困る訳があるいう。よければ、生産用のレシピを取引させて、もらえないか?出来る限り、いい値を出させてもらうよ」とエリシャとルーシアに持ちかけた。

エリシャは慎重な面持ちで、

「ルーシア、メル、どうする?少なくともこれは、あなたたちがメインで作ったものだから、あなたたちの判断を尊重するわ」

ルーシアは少し考える素振りを見せて、やがて少し毅然としてこう答える。

「別に製法を独占するつもりはないです。それに他の冒険者プレイヤーの助けにもなるのなら、私は応じたいと思います」

メルも同意見のようで、

「ルクバートさんは、商人としての信用も高いですし、他の生産系プレイヤーとの横のつながりも多いですから、私もいいと思います。ゼクロス達は、どう思います?」と、丸テーブルで聞いていた、ゼクロス達の意見も求めた。


ゼクロスは「メルが信用できるなら、俺も信用するよ」と言い、

クレイドも「主に試作したルーシアがいいというなら、僕にも異論はない」と答えて、二人とも承諾する姿勢を見せた。

ローザも「私もいいわよ。でもルーシア達に、相応のGPで応じるのと、レシピが入ったからって独占じみた商法を取らないならね」と、ベテランらしく、少し条件めいたものを付け加える。

ルクバートは、立派な顎鬚をさすり、その条件を承諾すると、ルーシアに2階で作り方を教えてもらい、そのレシピも紙面でもらうと「ふむ、これは、かなり工夫をした物のようだな」と満足して、ルーシアに対価のGPを提案する。

「これなら、120万GPが妥当だとおもうが、どうかな?」と口元に笑みを浮かべて切り出した。

ルーシアはその額の高さに驚いて、あわてて1階に駆け降りて、エリシャに達に相談した。

                     ☆

エリシャは、2階から降りて来たルクバートに「そんなにGPを出して大丈夫ですか?」と少し心配気に聞いた。この「特製レーション」の価値基準が今一つわからない感じである。

ルクバートは、解説するように、

「これは高LVになればなるほど、HP回復と、HP上限の上昇効果は大きいし、遠征する距離が長いほど、携帯性で重要度が増すものだ。今は対価のGPが高く思えるかもしれないが、君たちも、さらにLVが上がっていくと、使っていてわかるはずだ」といい、今度はここの皆を安心させるように、にこやかな表情になり、続ける。

「それに、高LVのプレイヤー達は基本、資金も潤沢だ。上手くすれば飛ぶように売れて、すぐに元は取れると私は見ている。私の提示GPが高いと思っていても遠慮は無用だ」

そういって「では、GPの対価はこの額でいいかな?」と再びルーシアに聞き、彼女がこくりと頷くと、ルクバートはシステム的に120万のGPをルーシアにトレードした。

そして最後に「今日はいい取引が出来た。また何か、いいものを発明出来たら言ってくれ。適正と思える値のGPを出そう。そうしてまた取引させてもらえると、こちらも助かる」と告げて、エリシャとルーシアとFLを交わしてこの店を後にした。

大量のGPを得たルーシアは「このGPは、PTのみんなが何かの都合で「ここでGPが足りないと困る」と言う時の為に保管しておきます。ですが、みんなの案から出来たもので入ったものでもありますから、半分は皆で分配しましょう」と、愛らしくにっこりと微笑んで言った。

エリシャは笑顔で「じゃあ今日は、みんなでここで、宴席にしましょう」と提案して、料理の準備を始めた。

メルも応じて「あ、エリシャ、私も手伝います!」と、従士姿のまま、台所に入る。

ルーシアも「私も作ります。みんな携帯食ばかりでは、よくないですから」と手伝う構えだ。

ローザは「じゃあ、ウェルトも呼んであげないとね」とFLからウィスパーを飛ばして、狩りに出ていた彼を呼びにかかる。

ゼクロスとクレイドもこれを手伝おうとはしたが、女性陣で台所が埋まっているので、丸テーブルに、皿や食器を並べに入った。

やがて、準備が整い、ウェルトも到着すると、そこには、いくつもの丸テーブルに、テーブルクロスがかかっていて、色とりどりの料理が並んでいた。

エリシャが台所の鍋で揚げた鶏肉の唐揚げに、フライドポテトとオニオンリング。

メルが作ったローストビーフ。

さらに、ルーシア手製の様々な具材のサンドイッチ。

どれも、食料店のNPCからの、良質な素材から作られたもので、エリシャの店の1階では、料理のいい香りが漂っていた。

店に入ったウェルトが「何か祝い事でもあっつたのか?」と不思議そうに聞いたので、エリシャは「今日は、大きな商談がまとまったお祝いの宴席よ!」と答えた。

                    ☆
エリシャの作った鶏肉の唐揚げは、サクッとしたいい揚げ具合で、肉質もいいのものが使われていて、食感も良く、フライドポテトもオニオンリングも、カラッとあがっていて、具材の味が良く出ていた。

メルの作ったローストビーフは、程よく柔らかく、肉の味も上品であり、

ルーシアの作った様々な種類のサンドイッチは、どれも三角のパンの形と大きさが具材とのバランスに優れていて、味もほど良く、バリエーションにも富んでいたので、

宴席場と化したエリシャの店の1Fは、主に男性陣、ゼクロスとクレイド、ウェルトを喜ばせた。

ゼクロスは「うん、どれも美味いな」と、捻りはないが率直な感想を述べ、

クレイドは「メルの作ったローストビーフも品のある味だね」と如才なく褒め、

後から呼ばれてきたウェルトも、いたくこの料理に満足して、エリシャに向かって、

「…ここにくると、美味い物がよく食えて、有難い。俺のFLにも、この店に来たがっている奴が数人いるが、今度頃合いを見て、呼んでみていいか?」と聞いたので、機嫌のいいエリシャも快諾。

「もちろんよ。ウェルトのFLなら、歓迎するわ」とにこやかに答えた。

…こうして、ルクバートとの商談で大量のGPを得たエリシャ達は、宴席を開いて歓談して、これを大いに楽しんだのだった…。





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