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14話:それぞれの想い
しおりを挟むエリシャの隠れ家的な店の、茶色を基調とした店内で、PTのみんなは各々好きにカウンターや丸テーブルの椅子に座っていた。
クレイドは、カウンター奥にいるルーシアの手を取って、
「ルーシア、前にも言ったけど、個人的にお礼がしたい。ここセルフィの街を、2人で色々見て回らないか?」
ルーシアもこれを受けて「はい!是非ご一緒させてください」と機嫌よく乗り気である。
店のみんなは、2人が互いに好意を抱いているようなのを知っているので、そういって店をでる、二人を暖かく見守った。
見ていたエリシャは、
「クレイドもなかなかやるわね。ゼクロス、私達も街に出るわよ。私も、あなたのヘルププレイのお礼とか、全然してないものね」
「礼にはおよばないよ。元々エリシャを助けるために、このゲーム始めたんだし。楽しいプレイができていて、お礼をしたいのは、むしろ俺のほうさ」
ゼクロスはそう答えたが、エリシャは少し納得しかねるようで、
「とにかく、街には出てみましょう。気晴らしも大事よ。大通りの露店とかも見て回りたいし」
そういって、やや強引に、ゼクロスを街に連れ出すエリシャ。
ローザの作ったサバイブ的な、熊の肉のステーキを食べていたウェルトも、何か思う所があるようで、
「青春だな。俺にはそういうのには縁がないが、PTでの狩りは楽しいと思っている。ローザ、少し東の森で狩らないか?」
ローザはふふ、と少し妖艶な笑みを浮かべて、
「ウェルトらしいわね。私も、あなたとの狩りは楽しいわ。私たちも、行きましょ」
こうして、3組の男女は、思い思いに、エリシャの店からセルフィの街に出るのであった。
☆
このゲームの初期の町にして、首都でもある、セルフィの街には、店の類は多くある。
ウィザード姿のクレイドは、青いワンピース姿のルーシアを連れて、NPCの経営する喫茶店に入った。
二人で、白を基調として黒も織り交ぜたた店内で、これも白い丸テーブルに着くと、
「僕は、こういうのはあまり器用じゃないから、少しありきたりな感じになってしまう。退屈だったら、ごめんね」
「とんでもないです。メニューには、珍しいものも沢山ありますし、こうして話すのも楽しいですよ」
クレイドの率直な言に、ルーシアは落ち着いてフォローをする。
二人は、ストロベリーのアイスフロートのジュースをそれぞれ頼み、この喫茶店で楽しく歓談した。
☆
一方、ゼクロスとエリシャは、大通りで露店を見て回っていた。賑わう大通りで、エリシャの買い物にゼクロスが付き合う感じで、それは進んだ。
やがて、エリシャが掘り出し物の、青く澄んだ宝石を買おうとすると、先にゼクロスが手にし、GPを店主に支払って、その青い宝石をエリシャに手渡す。
ゼクロスは「リアルで世話になっているからね。せめて、得意のゲームの中くらいでは、格好を着けさせて欲しい」と不器用にそういった。
エリシャも機嫌よく「ありがとうゼクロス、大事にするわ」と言い、さらに露店を巡る構えで、2人は珍しい品々を見て回った。
☆
そして、ローザとウェルトだが「東の森」は、もはや2人の独壇場のようで、
熊に対して、ウェルトが、ショートボウで、アサシンのスキルで作った麻痺毒を塗った矢を、「トリプルショット」の3連射で放つと、全て命中して、ダメージと共に、熊は麻痺して、動きが取れなくなる。
「これで、きまりね!」
そこにローザが、「スラッシュ」の2連撃スキル「ダブルスラッシュ」で威力5割増しの威力の、良質なバスタードソードで半ばオーバーキル気味にそれを倒すと「熊の肉」と「熊の毛皮」をドロップ品で入手する。
ウェルトは、ここで提案するように、ローザに言う。
「熊の肉もまた沢山取れたな。今度は俺が調理するから、エリシャの店で、一緒に食べないか?いい味付けを見つけたんだ」
ローザも応じて「いいわね、どんな味か、楽しみだわ」と答えた。
二人は、戦利品を持って、エリシャの店に戻った。
☆
そして、クレイドは、彼のとっておきの場所「星のプラネタリウム」にルーシアを誘う。
入場して、椅子に並んで座った二人を、明かりが消えると、やがて全周囲に宇宙と星々の光景が広がる。
ルーシアが「綺麗…」とその光景に感嘆すると、
クレイドは(君のほうがきれいだよ)と、言おうとしてこれをとどまった。あまりにキザすぎる台詞だったからだ。
そして、プラネタリウムから出た二人は、
「今日は楽しかったよ」
「私も楽しかったです」
と同様の感想を交わして、エリシャの店に、戻った。
☆
クレイドとルーシアが店に戻ると、ゼクロスとエリシャ、そしてローザとウェルトも既に戻っていて、
ウェルトの作った「熊の肉の鍋煮込み」を皆で食べていた。
ウェルトは、少し機嫌よく「おお、帰ったか。折角だから、食べていけ。いいのが出来たんだ」
と、いって、二人をカウンター席に呼ぶと、席に着いた二人にも、深い皿についだそれをだした。
「ああ、有難う」
クレイドが箸でそれを口にすると、良質のワインか何かを使ったのか、熊の肉はくさみもなく、やわらかくて食べやすい。肉にも、他の具材にもスパイスの良く味が染みていた。
「ウェルトも料理が上手なんだな…」
クレイドが感心するとウェルトは謙遜するように、
「何、ルーシアやエリシャに比べれば大雑把なものさ。だが、これも悪くないだろう?」と言った。
一緒に食べていたルーシアも「はい、とても美味しいです!」と元気に答えた。
これを食べ終えた、店のみんなは、しばらく、丸テーブルの椅子に、思い思いの位置で腰かけてまったりとすると、やがて、各自でログアウトした。
…この日は大過なく、割と平和な一日で、ゼクロスのPTも楽しく過ごした感じであった…。
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