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13話後編:特殊レーション(後)
しおりを挟む「おかえりなさい、3人とも」
エリシャの隠れ家的ロッジ風の店にゼクロス、クレイド、メルの3人が帰り着くと、大通りでの露店商売を終えていたエリシャが、カウンターの奥で3人に、にこやかに迎えるように、言った。
ルーシアも台所にいて、帰ったときにと用意していたのか、チキンカツのサンドイッチをカウンター席に座る3人にお皿にのせて、労うように出した。
ゼクロス達が「ただいま、エリシャ。ルーシアもありがとう」と、これに答えて、サンドイッチを口にする。
それは、パンの形はもちろん、カツも薄めで食べやすく工夫されており、味付けのソースも濃すぎないように薄く塗られており、いいバランスで作られていた。
さらに味のほうも、パンとカツの衣と肉の味をしっかり出していて、かなりの出来栄えだと、ゼクロス達には感じられた。
「相変わらずルーシアの作るものは美味しいね」と簡潔にゼクロスが褒めると、ルーシアも「合成スキル補正のおかげです。リアルでは、こんなに上手じゃないですよ」と少し赤くなり謙遜する。
クレイドも、何か上手に褒めようと考えていたが、メルが先に、ある提案を発言する。
「ふと思ったんですが、出発前に出してくれた、あのHPの上限が上がるスープは「レーション」みたいに出来ると面白いかもしれないですね。味は多少落ちるかも知れませんが、携帯性がかなり上がりますよ」
「レーションって何?」聞きなれない単語に、エリシャが小首を傾げて、不思議そうにメルに聞く。
これに、答えたのはメルではなくクレイドである。彼も知識的には色々と詳しい。
「レーションは、軍とかでもよく使われる、携帯用の保存食のようなもので、インスタント食のような感じのものだね。確かにそれ風に加工できれば、携帯性は上がるとはいえるな」
それを聞いて、エリシャが今度は案を出す。
「セルフィの街で売っている、食料店でも、麺類に使う乾麺は売っているわ。細くてやわめのものもあるから、それをベースにするといいかも知れないわね」
ゼクロスも「それならその乾麺に味付けして、ポーションを粉末状にすれば、いけるんじゃないか?」と
同調するように言う。
ルーシアも、それを聞いて、何かのスイッチが入ったかのように、
「2階で色々やってみます。出来れば、メルさんも手伝ってくれると助かります」と言い出した。
メルも、乗り気のようで「じゃあ、少し試作してみましょうか」と、ルーシアに続いて2階に上がる。
…こうして、HPの回復とその上限が上がる、特製のレーション作りが始まった。
☆
…そして、数回の試作と試食の後、それは出来上がった。
それは、水やお湯でほぐして食べるタイプの物で、味付けした、細くて柔い乾麺と、粉末にしたポーションを混ぜて、小さな四角い箱に詰めたものであった。
試しにそれを、ふたを開けて、水を入れて入念に箸でほぐして、その箱に入ったまま箸を使ってゼクロスが食べると、それは、少し濃いめの醤油ベースの冷麺のような味がして、とびきりうまいというわけではないが、それなりにいい味を出しており、ゼクロスがそれを食べ終えると、HPの回復に加えて、HPの上限が1割強あがったので、ゼクロスはそれも確認すると、メルに向かってその手を握ってみせて、
「成功だね。若干効果は落ちるけど、味も悪くないし、携帯性が確かに上がってる。またこれで、一層冒険が楽になるよ。ありがとう、メル」と言ったので、エリシャがすかさず間に割って入る。
「ゼクロス、メルは失恋中なんだから、その美形のアバターで迫っちゃダメよ」
と言い、今度はメルに、笑顔で応えて、
「何はともあれ、お疲れ様。メル、ありがとうね」と言いメルも、
「私のミリタリー知識が、少しでも役に立って嬉しいわ。狩りも、鍛冶も、また必要なら呼んでね」
そういいつつも、少し疲れた様子で店を出るメル。
「ルーシアもお疲れ様。いつも助かるよ。大変だったろう。きょうはもう休んだほうがいい」
クレイドはルーシアを称賛して労わった。ルーシアは丸テーブルの椅子にもたれるように座って、
「携帯食も便利でいいですけど、普通の料理もきちんと食べてくださいね。偏ると、体に悪いですよ…」
と、疲れのせいか、これがVRゲームであることを、半ば忘れたような発言をする。
…ともあれ、メルの知識で、携帯用の、HPの回復とその上限が一時的に上がる「特製レーション」が出来上がり、遠征の際も、食事でのHP回復と、上限の一時上昇が出来るようになった、ゼクロスのPTであった…。
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