ツインクラス・オンライン

秋月愁

文字の大きさ
上 下
18 / 39

13話前編:特殊レーション(前)

しおりを挟む




 ある日のログイン時、この日は珍しくローザが用事でこれなくて、エリシャも大通りで露店をしたいという。

なので、ゼクロスは、クレイドと話して、鍛冶でお世話になっている、「鍛冶屋」と「銃士」のツインクラスのメルを誘って、狩りにでることにした。

これを承諾した、メルが、レイピアを腰に佩き、西洋風の軍服にマントを羽織って、緑のつば広の羽根突き帽をかぶって、ブレストプレートを着けた「昔の銃士」風の姿で店に来て合流し、迷彩服の風変わりな鍛冶屋仕様とのギャップで、店にいる皆を驚かせると、

「お待たせ!一緒に狩りに行くのは初めてだね。ゼクロス、クレイド、よろしくね」

と軽快に挨拶をした。前の一件で吹っ切れたのか、堅苦しい感じは、ほぼ無くなっている。

「メルさん、これをどうぞ」とルーシアがワープポイントに帰還できるアイテム「翼のペンダント」をメルに渡して、

ルーシアはさらに出発前に、HPの上限を一時的に上げる、ポーションと野菜スープを「合成」した「特製のスープ」をゼクロスとクレイドとメルの3人に振る舞った。

メルもこれを気にいったようで、いたって明るい表情で、

「いいですね、この料理。狩りからの生還率が高まります。味も美味しいですよ」と高い評価をする。

ルーシアは「メルさん、ありがとうございます!」と元気にこれに応えた。

この「特製スープ」を食べ終えたメルは「じゃあ、行ってくるね」と、ルーシアの頭を撫でて言い、ゼクロス達を促して街に出ると、まず狩場を相談し、北東のジルトの町に、一旦向かうことで、合意した。

                      ☆

北東の、ジルトの町は、中世風の街並みだが、他にこれと言った特徴はほぼない。だが、立地的に、狩りの中継地点として、いい位置にあるので、良質そうな装備をした冒険者プレイヤー達で賑わいを見せている。

ゼクロス達は、この町に西にある、きれいな湖のある所に向かった。ゼクロスの調べでは、三叉槍を持つ半魚人のギルマンや、その上位のギルマンソルジャーが数多くでるMAPのはずである。

ギルマンは仲間が攻撃されると襲ってくる「リンク」属性で、ギルマンソルジャーは普通に襲ってくる「アクティブ」なので、下手をすると、襲ってきたギルマンソルジャーと戦闘中にリンクしたギルマンが横槍を入れにくるという事態もある。狩りに慣れていないと、少々危険なMAPだ。

なので、パラディンのゼクロスは、「数がきたら頼むよ、クレイド」とウィザードのクレイドに言い、クレイドも「ああ、後方支援は任せておけ」と答えた。「銃士」のメルは「仲がいいのね、二人とも」と素直に感心している。

そして、3人が、ジルトの町から距離的には近い、この湖に到着すると、陽光をキラキラと反射して光る湖を背景に、ギルマンの群れとの戦いにはいった。

「初手はもらいます!」

と、勢い込んでメルが、自作の良質な5割増し威力のレイピアで、突きスキル「トリプルファング」での3連撃を、ギルマンの一体に突きこんだ。

その3連撃を全て命中させると、ギルマンはあっさり倒れ、黒くなってかき消える。

これで「リンク」属性の、周囲のギルマンが反応して、わらわらとメルに向かう。

「だいぶ数が固まってきたな。これでどうだ!」

それを見て、ウィザードのクレイドが、手に持った杖をかざして、火属性の範囲魔法「フレイムシャワー」でメルを巻き込まないように配慮した範囲で、火に弱いギルマンの群れを、降り注ぐ火の雨で大ダメージを与えて、まとめてばたばたと倒して一掃する。

範囲内の倒されたギルマンの群れは、黒くなってかき消える。

「よし、俺もやるぞ!」

ゼクロスは、少しはぐれ気味にうろついている、ギルマンソルジャーに、覚えたての「トライスラッシュ」で果敢に切り込む。

そのスキルでの3連の「スラッシュ」と、良質なロングソードの威力で、ギルマンソルジャーも、あっというまにHPが0になり、黒くなってかき消える。

オーガ程ではないが、そこそこ強いはずのギルマンを、圧倒して倒す3人。「メルは鍛冶の他にも、前衛としても優秀なんだな」と、ゼクロスが称賛して狩りを続けたが、やがて他のPTもやってきたので、狩場の独占はよくないとのゼクロスの判断で、3人はジルドの町まで、戻る事にした。

                    ☆

「クレイドは、ソルジャーより、ウィザードの方が向いてるんじゃないか?理論派だし」

町のベンチに3人で腰かけて、ゼクロスがこの戦闘で感じたことをいうと、クレイドは「いや、そういうわけでもない」と、手で眼鏡を整えて言い、こう続けた。

「装備とLVさえ整えば、スキル習得の速いソルジャーは、僕にとっても充分いいクラスだ。現に今LV15で、さっきメルが使った「トリプルファング」も覚えている。それに、このゲームは、二つの「メインクラス」で楽しむ物のはずだ。状況に応じてクラスをスイッチしたほうが、戦術の幅も広がるしな」

クレイドの言に、ゼクロスも心当たりがあるように、クセのある金髪をかいて、

「そういえば、そうだな。俺もホーリーナイトのLV18で止まっているから、後でこれも上げないとな」

横でそれを聞いていたメルが、微笑して言う。

「バランスよく、両方のLV上げるのは大事ですよ。二人とも、遅れているクラスがあるなら、それで組んでLVを上げれば、PTの戦力の潜在力を底上げすることにもなります。とりあえず、狩場も混んでいるようですから、一度エリシャの店に戻りませんか?」

「メルはまだ、今日はLVが上がってないが、いいのかい?」ゼクロスが聞くと、

「こういうのは、あまり急ぎすぎても良くはないですから。むしろ、いい狩りをさせてもらいました」とにこりとした表情で言う、メルの機嫌はよさそうだ。

クレイドは、メルの戦い方を見て「銃士」なのに「銃」を持っていないのが、少し気になったが、今はあえて聞かない事にした。「昔の銃士」は剣も使ったし、人それぞれのプレイスタイルがある。なにかの理由でこだわりがあるのかも、知れないからだ。

「じゃあ、一度、エリシャの店に戻るよ。二人とも、翼のペンダントを使おう」ゼクロスがまとめるように言う。

…こうして、翼のペンダントを使って、首都セルフィの中央公園にワープで戻った3人は、そのままエリシャのロッジ風の隠れ家的な店に帰り着くのであった…。

そしてこの後、ゼクロスPTは、メルの提案から思いがけぬ収獲を得る事になる。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

処理中です...