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12話後編:翼のペンダント(後)
しおりを挟む「しかし、結構な遠征になったな」
ゼクロスPTのクレイドがジルドの町を経由しての、丘陵地帯のオーガ狩りから、首都セルフィの街にあるエリシャの店に帰り着くと、その茶色を基調とした店の、カウンター席に座って、少し疲れたように言う。
ゼクロスは遠征慣れしてるので、疲れてはいるが、丸テーブルの椅子にもたれて、
「その分、モンスター敵のEXPも高いから、悪い事ばかりでもないけどね。ダメージもあまりこなかったし、ここはポジティブに考えよう」
そういって、ルーシアが2階から降りて作って来た、暖かい野菜のスープを受け取る。
「ゼクロスさん、これは私の新作。感想を聞かせてくれると嬉しいです」
ゼクロスは、その野菜スープを飲んで、
「うん、暖かいし、具の大きさも小さめで食べやすい。少し濃いめだけど、味もいいね」
しかし、ここでふとゼクロスは気が付いた。自分のHPが、上限を超えて回復して、2割程高くなっていることに。
このゲームの料理は、基本、味だけのもので、回復効果はないはずで、HPの上限が上がるなんて、攻略サイトにも載ってはいなかった。
ゼクロスはルーシアに「HPが回復して、上限もあがってるけど、これは何かな?」とこれについて優しく聞いてみた。
ルーシアは愛らしい笑顔で答えて、
「錬金術で作ったポーションと、野菜のスープを「合成」して料理したんです。もちろん、効果は自分で試食して試してもいます。HPの回復効果と、一時的にHPの上限を一定量を引き上げる効果があるみたいです。どうですか?」
ゼクロスは感心して「なるほど、斬新だね。味もいいし、何より、HPの上限が一時的とはいえ、上がるのは助かる。お手柄だね。ありがとう、ルーシア」
ルーシアは「それと、これも作ってみたんですが…」と、ゼクロスに一つのペンダントを渡す。
それは、青い鳥の翼を模したペンダントで、アイテム欄に入れて、ゼクロスが見ると「使用すると、街のワープポイントに帰還できる(回数制限なし)」と書いていた。
…つまり、遠征の帰りなどに、これを使うと、この場合、今のワープポイントであるセルフィの街の中央公園に、帰還できることになる。
「ちょっと頑張って作ってみました。もちろん人数分あります。これでみんなが、無事に遠出から帰れるようにと、願いを込めて、作りました。受け取ってください」
そう言って、PTのみんなにも同じものを、配るルーシア。鍛冶であまり役に立てなかったのを、引け目に思っていたのかもしれない、とゼクロスは思った。
クレイドは、特にこれに感激して、ルーシアの手を握って、
「ありがとうルーシアには世話になりっぱなしだね。今度個人的にお礼をさせてもらうよ」
といい、ルーシアも応じて「はい!楽しみにしてますね」と応えて、店は少し二人のムードになる。
そこに、エリシャの隠れ家的な店に、常連のウェルトが入って来て、
「おお、また料理を作っているのか。俺にも少しくれないか」と言ったので、
ルーシアは一旦クレイドから離れて、2階から件のポーションと野菜スープを「合成」して作ったスープを持ってきて、今度はみんなに出してみた。
HPが回復して、上限があがるのを、説明なしに、直感で気付いたウェルトは、改めてルーシアに説明を受けると、こう感想を口にした。
「これは、実用性があるな。携帯性が少しないが、HP上限が、一時的でも上がる効果は貴重だ。味も悪くない。これは、アイテムとして店で売ったら、儲かるかもしれないな」
「凄いじゃない!ルーシアは、やっぱり逸材ね」とローザも嬉しそうである。
しかし、このスープを飲んだエリシャは、これに対して、少し思案顔になった。
「う~ん、これはPTでは助かるし、売りに出せば儲かるかも知れないけど、お客が沢山来すぎると、冒険しにくくなるのよね。ウェルトの考えもいいけど、今の所は、ここでだけでのものにしましょう。ルーシアも、それでいい?」
「はい、まだわからないな所もありますので、しっかりしたものを作れるように、頑張ります!」
と、ルーシアは元気のいい口調で答えた。彼女のおどおどしていた人見知り的態度も、少し良くなったようである。
…こうして、オーガ退治でLVを上げて、新スキル「トライスラッシュ」をゼクロスが覚えて、
ゼクロスPTのみんなは、ルーシアから、ワープポイントに戻れる「翼のペンダント」を受け取り、
さらに、ルーシアの作る、ポーションと野菜スープの「合成」により、出来た料理で、HP上限を一時的に、回復、底上げできるようになり、この日は大躍進となったのである…。
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