ツインクラス・オンライン

秋月愁

文字の大きさ
上 下
15 / 39

11話後編:風変わりな鍛冶屋(後)

しおりを挟む



 凄いじゃない!いい腕しているわね。代金のGPは、幾ら払えばいいのかしら?」

迷彩服の「鍛冶屋」と「銃士」のツインクラス、メルの作ったバスタードソード改(完成度50%)を受け取って、ローザが対価のGPを聞く。

「鍛冶代は、バスタードソードでこの出来で、素材と作業場はそちら持ちでしたので、バスタードソードの基礎値の1000Gと、完成度の50%を踏まえて、5000Gになります」と笑顔で答えた。

その額に、ゼクロスは少し驚いた。しかしそれは代金のGPが高いのではなく、逆の意味でだった。

「威力が5割増しになる大剣で、それは安いね。メルさんさえよければ、時期を見てまた、色々作ってくれると、助かるよ」

「はい、了解です。その時は、エリシャを通じてまた呼んでくださいね」と機嫌よく言って、ローザから代金のGPを受け取るとメルはこの店を出て、立ち去った。

元気そうに受け答えしていたメルに、見ていたクレイドは「彼女は「訳あり」というわりには平気そうだが、いつもこうなのか?」と聞いた。

エリシャは「私からは言えないわね。聞くなら本人から聞いて。もちろん、無理に聞き出すのは駄目よ」と、少し複雑な事情があるように、答える。

この日はこれで、みんな、ログアウト。


そして後日のログイン時、ソルジャー用の槍を作ってもらおうと、エリシャに彼女を呼んでくれるよう、クレイドが頼むと、エリシャはメルに、またウィスパーモードで話しかける。

そしてしばらく話した後…。

(…そう、気を落とさないでね。気が晴れないなら、私の店にきてくれて、いいわよ。もちろん、商売関連抜きで)

と締めくくって、エリシャは、ウィスパーモードが、向こうから切れたのを確認すると、店のみんなに言った。

「メルがゲーム内でトラブルに遭って、気を落としてるから、ここに来たら優しくしてあげて、もちろん、商売の話もNGで」

「何があったかは知らないけど、俺たちで出来る事なら、するよ」ゼクロスが言うと、クレイドも、

「人間関係のトラブルなら、深刻だ。みんなで、元気づけてあげないとな」と、これに答えた。

やがてメルが、泣きながらこのエリシャの「隠れ家的な」店に来ると、カウンター席に腰かけて「何か、冷たい飲み物を頂戴。頭を冷やしたいわ」と、言った。

そして、果実のジュースをエリシャが出すと、メルは軽くそれを飲むと、エリシャに向かって語るように言った。

「私、リアルの彼にゲーム内から、振られちゃった。この迷彩仕様の装備が気にいらなかったみたい。私は、ミリタリーマニアだから、そこもマイナスだったのかも…」

エリシャは、慰めるように、ことさら優しく声をかける。

「詳しい事情は分からないけど、趣味が合わないから別れるっていうその男の人も、少しあれね。本当に好きなら、その位は汲んであげないと、なのにね」

「いいのよ、無理に慰めてくれなくても。これで、気楽なソロになったと思えば、ある意味、これ以上気を遣わなくて済むし。折角だから、2階の作業場、貸してくれない?気晴らしに、鍛冶に打ち込みたいの」

「分かったわ。好きなだけ使って気を晴らして。ルーシアも、いいよね?」

会話を振られたルーシアは、

「はい。メルさん、好きに使っていいですから、早く元気になってくださいね」

と、答えた。メルは、荷物のリュックを背負って2階に上がった。

キーン、キーン、キーン…。

しばらくメルが、鍛冶をする音が、1階にも響いたが、ゼクロス達は、誰も文句は言わなかった。

むしろ逆で、メルが元気になればいい、と、みんなで話し合ったくらいである。

                    ☆

やがて、気が晴れたのか、晴れ晴れとした、表情でメルが2階から降りてきて、皆に言うには、

「おかげですっきりしたわ。ありがとね。エリシャも、他の皆も。2階で作ったものは、お礼代わりにあなた達にあげる。大丈夫、手は抜いてないから、安心して」

そういって、ゼクロス達とも、改めてFL交換をすると、メルは、迷彩のリュックを背負って、この店を後にした。

2階の作業場には、強力そうな、剣や槍、弓や斧などが乱立していて、どれも手に取ると、かなりの高性能のものばかりで、あった。

「…気晴らしで、これを作れるというのも、大した物だね」

「ああ、彼女には、これからも世話になりそうだ」

ゼクロスとクレイドがそれぞれ、しみじみというと、エリシャは、

「これは彼女の厚意でもらったものだから、使ってもいいけど、簡単に売っちゃ駄目よ。経緯はともかく、戦力がまた上がったのは確かね」と言って、この場をまとめた。

こうして、メルの作った装備品は、ゼクロスPTの戦力をかなり底上げして、気が晴れた後の彼女も、度々店を訪れて、鍛冶を引き受ける役を、担う事になるのであった…。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

現実的理想彼女

kuro-yo
SF
恋人が欲しい男の話。 ※オチはありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

Solomon's Gate

坂森大我
SF
 人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。  ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。  実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。  ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。  主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。  ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。  人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

交換日記

奈落
SF
「交換日記」 手渡した時点で僕は「君」になり、君は「僕」になる…

処理中です...