ツインクラス・オンライン

秋月愁

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10:隠しダンジョン

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 「ローザ、ゼクロス、少し面白いものを見つけた。手伝ってくれないか?」

茶色を基調としたエリシャのロッジ風の店内で「アサシン」と「レンジャー」のツインクラスのウェルトが、そう言って。居合わせた二人を、東の森に誘う。

狩りのお誘いの類なのだろうと、ローザもゼクロスも思って、ついていったが、東の森エリアの入り口で、ウェルトが二人に内緒話をするように、顔を近づけて話すには、「隠されたダンジョン」を見つけたと言うのである。

「ダンジョンねえ、他のみんなは誘わなくて、いいの?」

ローザが思案顔で言うと、ウェルトは慎重な面持ちで、

「情報サイトに上がってないダンジョンだ。正直、何が起こるかわからない。純粋なエリシャや、まだビギナーのクレイド、戦闘力のないルーシアは連れてはいけない」とこれに返答した。

「けど、黙って行ったら、後で俺たち、怒られないかな?」

ゼクロスがエリシャ達の文句を言う姿を想像してそういうが、ウェルトの意思は固いらしく、

「これは、俺の個人的な判断での、頼みだ。そういう事で納得してくれると、助かる。もちろん、これが気に入らないなら断ってくれても構わない」

「まあ、俺たちも、ソロで狩ってる時もあるから、その延長だと思えば、いいか」

「そうね。あの子たちに、情報のない所に連れて行って、あまり無理はさせたくもないわね」

こうして2人が了承すると、ベテランプレイヤー3人は、隠しダンジョン攻略に乗り出した。

この時、ゼクロスはパラディンLV20、ローザはダークナイトLV21、ウェルトはアサシンLV25であった。

                     ☆

そこは東の森の深部にあり、巧妙に草と木の板でカモフラージュされていた。そして、ウェルトがそれらをどけると、地下への階段がそこに姿を現す。

「一応、ポーションの類は、俺が多めに持ってきている。必要になったら言ってくれ」

ウェルトがそう言って、先頭をきって階段を降りる。ゼクロスもローザもそれに続いた。

ダンジョンの中は、薄暗い、少しカビのにおいがする、石造りの通路になっており、ウェルトが左手に松明を持って、先頭をすすみ、ゼクロス、ローザと後につづく。

ダンジョンには罠もあり、吊り天井、落とし穴、そして、宝箱に偽装したモンスターまでいたが、ウェルトはそれらを、アサシンの10LVスキル「トラップファインダー」で目ざとく看破して、それらを空振りに終わらせた。

宝箱に偽装した、モンスターは、強さ的にはそれほど強いものでは、なかったので、ゼクロスの「クロススラッシュ」の連打で、あっさりと壊れて、黒くなってかき消えた。

通路の先の、所々にある小部屋では、石のゴーレムが1体ずつ、先を塞ぐように配置されていて、3人はこれを連携して倒しつつも、攻撃スキルを多分に使わされる。

毒も麻痺も効かないので、アサシンのウェルトとダークナイトのローザには、これは少々相性が悪いとも、言えたが。

「けっこう、きついな、このダンジョン…」

ロングソードでの「クロススラッシュ」の使い過ぎで、SPの切れかかったゼクロスが、ゼエゼエと息を切らして、そう言って、ウェルトからスタミナポーションを受け取ると、それを飲んで回復させて言う。

プレートメイルにシールドもつけたパラディンのゼクロスは、防御も硬く、HPの消耗はそれほどでもない。反面、ショートソードにレザーアーマーの軽装のウェルトは、多少手痛いダメージをうけていたが。

バスタードソードにブレストプレート、レッグガード装備のローザは、その中間といった防御力だったが、立ち回りが巧く、それほどダメージは受けていない。キャラ能力ではなく、プレイヤースキルの問題なのだろう。とゼクロスとウェルトは、少し感心した。

それらのダメージは、ゼクロスが戦闘終了後に「ヒール」の魔法で回復させた。「パラディン」と「ホーリーナイト」のツインクラスのゼクロスは、両方のクラスで、白魔法がつかえるのだ。


通路の先の小部屋を、5部屋程通過した3人は、やがて両開きの大きな扉の前にでる。5体の石のゴーレムと戦った後であり、ゼクロスもそうだが、ローザもウェルトも、手持ちのポーションのほとんどを使いきっている。

「明らかにBOSS部屋のようね。どうやって入る?」

ローザが聞くと、一応のPTリーダーになっているウェルトが、

「…BOSSがいたら、俺とゼクロスで前を張る。ローザはダークプリーストにスイッチして、支援に回ってくれ。もしBOSS部屋に毒や麻痺を使う敵がいたら、回復させる役がいないと危ないからな」

ベテランらしい、その意見に、ローザも納得した様で「クラススイッチ」して、メイスとチェインメイル、そしてシールドを持ったダークプリーストの姿になる。

「じゃあ、少し後ろからの支援になるけど、状況しだいでは、白兵もするわよ」

ゼクロスとウェルトは頷き、ウェルトが両開きの扉の鍵を解除して、右手にショートソードを、左手に松明を持って、中に入る。中は、松明で全部は照らせない位の大部屋であった。

…そして、そこには、先ほどのゴーレムの、2倍は背丈のある、鈍く光る、鉄とおぼしき金属のゴーレムが、待ち受けていた…。

                     ☆

「うわ、鉄のゴーレムかよ!マジで固いぞ、こいつは」

ウェルトに続いて、大部屋に入ったゼクロスが驚きを隠せずに言う。

ローザも後ろで「これは少し手ごわそうね」と、こちらは少し冷静である。

もちろん、支援役が、冷静でないとPTでは、困ることになるのだが。

「……」

無言で、迷いなく、先手を取って斬り込んだのは、ウェルトで、アサシンの斬りスキル「クリティカル・スラッシュ」で鉄のゴーレムに斬りつける。

高確率でクリティカルが発生するこの斬りスキルで、ウェルトは鉄のゴーレムにクリティカルによるダメージを与える。

しかし、元が技系の、力のステータスがあまり高くないないアサシンのショートソードでの物である。鉄のゴーレム相手に、それほど大ダメージとは、いかなかった。

「しょうがない、やってみるか!」

ゼクロスも「クロススラッシュ」で斬り込んで、できるだけウェルトにターゲットがいかないように、ダメージを与える。鉄のゴーレムは、ゼクロスにターゲットを移して、蹴りを入れる。

「ぐはっ!」

それは高HPのパラディンのゼクロスの、HPバーの半分を減らし「危ない!」とローザがすかさず「ヒール」をかけるが、ダメージが大きいので、全快とはいかない。

戦闘は、一撃は強いが、空振りも多いゴーレムに対し、回避はあるが打撃力に劣るウェルト、HPと防御は高いが、武器の基礎ダメージが普通のロングソードのゼクロス。ダークプリースト状態で回復に回ってるローザの持久戦になった。

鉄のゴーレム相手にじりじりと劣勢に追いやられる、ゼクロス達3人だが、そこに、狩人姿のエリシャと、杖とローブの魔法使い姿のクレイド、そして、厚手の服を着た、ルーシアまでが駆けつける。

「みんな!なんで、ここに?」

ゼクロスがゴーレムと対峙しつつ尋ねると、ウェルトが戦闘中なので、簡潔に説明する。

「…俺がFLのみんなに、位置MAP情報と共に、救援要請を出した。すまない」

そして、ウェルトが、少しさがって、この「援軍」にPT招待の申請を飛ばすと、エリシャ達もこれを受けて、鉄のゴーレムへの猛攻撃が、始まった。

「固いなら、防御力を下げれば!」

密かにウィザードのLVも上げたクレイドが、杖を振るって、ウィザード10LVで覚える「ステータス・ブレイク」の魔法でゴーレムの防御力を大幅に下げると、

「これだけ大きい的なら「エイム系」スキルに頼らなくても当たるわ!」

と、エリシャもロングボウで、比較的、威力の高い弓スキル「ダブルパワーショット」での2連射で、ゴーレムのHPを削る。

さらに、ルーシアが、密かに合成で作っていた、丸い大きめな時計状の消費系魔法アイテム「刻の止まった時計」をかざすと、ゴーレムは、完全ではないが、極度の速度低下状態になって、ほぼ攻撃も出来ない程、その動きが鈍くなった。「刻の止まった時計」は砂のようにサラサラとなり、無くなった。

これで、ゼクロスとローザも息を吹き返したように白兵に入り、この総攻撃で、鉄のゴーレムはついに、ガラガラと崩れ落ちて、黒くなって、かき消えた。後には、大量の鉄類の、レアドロップが残された。

この奥の部屋には、宝箱もあり、ウェルトが鍵を開けると、大量の青いジェムが入っていたのでPTで、これを入手すると、もう何もないであろう、このダンジョンから、東の森に出て、首都セルフィの、エリシャのロッジ風の店に、帰還した。

                   ☆

「全く、私達をあまりのけものにしないで欲しいわね。救援要請来た時はこれでも心配したのよ」

エリシャが少し拗ねたように言うと、クレイドも若干機嫌を損ねたようで、手で眼鏡を整えつつ同調する。

「僕たちが、まだ未熟なのはわかるが、せめて相談の一つもしてくれてもいいだろう。そんなに僕たちは頼りないか?」

ルーシアは、純粋に皆の無事を安堵したように、

「でも、みんなが無事で、よかった…」と、嬉しそうに言う。

この隠しダンジョン攻略の臨時PTリーダーで、FLに救援要請も出したウェルトは、

「すまなかった。最初から、皆に相談してからにするべきだった。救援に来てくれて、ありがとう」

と言い、ゼクロスもローザも顔を見合わせて頷き合って、ウェルトと共に頭を下げて、

「内緒にして悪かった。ヘルプする側が助けられてなんか面目ない」

「私も、自分の腕を過信しすぎたわ。みんな、ありがとうね」

とそれぞれ言ったので、クレイドとエリシャは表情をやわらげた。

「まあ、鉄類も沢山入ったし、ルーシアもこれで鍛冶が本格的にできる。そういうことにしておこう」

クレイドがそれでもう普段通り、という感じで言うと、エリシャも同調して機嫌を直して、

「ジェムも沢山入ったから、そろそろ武具の強化に入ってもいい頃ね。だから、ルーシア後でお願いね」

ルーシアも愛らしい顔で素直にうなずいて「はい、頑張ります!」と、鉄類を使って鍛冶に入る構えだ。


…こうして、東の森の隠しダンジョンはなんとか無事に、攻略済みとなったのであった…。


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