ツインクラス・オンライン

秋月愁

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9話後編:それぞれの手料理(後)

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 東の森で、ローザが一緒に狩りをして、エリシャの隠れ家的な店に連れて来た「ウェルト」という狩人風の男は、黒髪、黒眼で、端整な顔だが、やや細面で、体つきも細い。表情も硬めで、少し不愛想な感じである。

彼の装備はショートボウを持ち、ショートソードを帯剣して、レザーアーマーを着たもので、腰にはダガーも差している。ローザ曰く「アサシン」と「レンジャー」のツインクラスの「斥候系」のキャラだという。

ウェルトは「よろしく頼む」と簡単に、自己紹介を済ませると「いい匂いがするな。この手のゲームで、料理とは珍しい。よければ、俺にも少し分けてくれないか?」

と言い、台所のエリシャに視線を送り、目線を合わせた。エリシャは察した風で、

「いいわよ。沢山作ってるし。折角だから、みんなで食べましょう」と、にこやかにこれに応じた。

そして、唐揚げの大皿を、丸テーブルにどん、とおいて、周囲を囲むように、ゼクロス、クレイド、ローザ、エリシャ、そしてウェルトが箸を取って、「鶏肉の唐揚げ」を食べ始めた。ルーシアは、まだ合成中なのか、2階から降りて来てこない。合成は、中断すると失敗になるので、邪魔をしない暗黙の了解が出来ていた。

サクサクとした衣に、噛むと肉汁がでる、鶏肉の唐揚げはなかなかよくできていて、スキル無しのエリシャでも、料理は出来ることが判明した。どうやら「料理」では、スキルは補正がかかる位の仕様のようだ。

「これは、リアルとあまり、変わらないな。食べ慣れた味だ。スキル持ちだけ、補正がかかるんだな」

「ああ、食べると、ほっとする味だ。これもまた、美味いといえば、美味いな」

ゼクロスとクレイドが、それぞれ感想を述べると、ローザはからかうように、

「あら、二人とも、リアルでも、食べさせてもらった事があるのね。ある意味、さすがね」

といい、ウェルトにも声をかけて、

「ウェルトはどう?口に合ったかしら?」とにこやかに聞いた。

ウェルトは軽く頷いて、みんなで唐揚げを食べ終えると、

「久々に、美味い物を食べた気がする…。これは、少ないが、礼代りだ」

と言って、GPの袋を丸テーブルに置いた。それはどう見ても、唐揚げの対価にしては高すぎたので、エリシャは、ウェルトに、手でそれを押して返して見せて、

「今回のこれは、私達の厚意だから、気にしないで。でも、あなたはしっかりした人のようね。ローザのFLなら、歓迎するから、また、ここに顔を出してくれると嬉しいわ。でも、冒険中は休みになるけどね」

ゼクロスもクレイドも、これに頷き、ローザもその対応に満足したようで、

「ここの人たちは基本的に優しいから、あまり警戒しなくていいのよ、ウェルト。あなたは少し不愛想だけど、その腕と、実直な性格は信頼できるから、この3人とも、仲良くしてくれると、私も嬉しいかな」

ウェルトは、GPの袋を、自分の懐に収め直すと、3人とFLを交わして「俺の力が必要な時は、FLから呼んでくれ。出来る範囲で力になる」とこれに応えた。

…こうして、ゼクロス達は、少し不愛想な「アサシン」と「レンジャー」のツインクラスの「ウェルト」とも、食事を通じて、少し仲良くなった。

やがて、ウェルトは「今日は有難う。またくる」といい、店を後にして、その少し後に2階からルーシアが長い合成をようやく終えて、階段から1階に降りてきて、2人は入れ違う形となった。

この話を聞いて、ルーシアはこれを残念がったが、この日はこれで、解散となり、ログアウト。

                     ☆

そして、次の日のログイン後に、ウェルトは再びエリシャの店に顔をだした。大量のドロップ品の食材を持ってきて、エリシャにそれをトレードで渡すと、

「これなら礼としていいだろう?また、何か料理を作ってくれると、嬉しい」

といって、この後もエリシャの店に、顔を出すようになる。

そして、ウェルトはルーシアとも挨拶、FLを交わして、不器用ながら、すぐに仲良くなった。

「ふむ、このチョコレートのケーキも美味いな。ルーシアは料理上手だ」

「ありがとうございます。ウェルトさんの、お口に合って、良かった」

…この事は、エリシャにとっても嬉しい出来事であり、こうして、彼女の店にFLの客がまた一人増えたのであった…。




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