11 / 39
9話前編:それぞれの手料理(前)
しおりを挟む新たにゼクロス達の拠点になった、エリシャの「隠れ家的な」ロッジ風の店で、丸テーブルの椅子に腰かけて、ルーシアが作り置いていた、果実のジュースを飲みがてら、クレイドが、ふと、
「なあ、ローザは料理とかはしないのか?」
と、カウンターの奥にある簡易倉庫で倉庫整理をしているローザに聞いてみた。
ローザは妖艶な笑みを浮かべて、
「あら、私の手料理が食べたいの?2階で合成をしているルーシアに後で言っちゃおっかな~」
とからかったので、クレイドは頭痛をこらえるように、額に手を当てて、
「頼むからそれはやめてくれ。そういう意味で言ったんじゃない。どんなのを作るのか、あまり想像できなかっただけだ」
そこにいあわせて、同じく丸テーブルでジュースを飲んでいたゼクロスは、フォローするように、
「ローザもVRゲームで料理はできるぞ。ただ、お前の口には少々合わないかもな」
と平然として言ったので、クレイドは「どういうことだ?」と不思議そうに尋ねた。
ローザはそのやりとりを見て、やれやれと言った感じで肩をすくめてみせて、
「じゃあ、久々に腕を振るってみましょうか。でも、口に合わなくても文句は無しよ」
といい、1階のカウンター奥の簡易倉庫を開けて、そこから「自分の倉庫欄」を間接的に開いてステーキ状の「熊の肉」を数枚取り出す。
そして、台所に立つと、ローザはフライパンに薄く食用油を引いて、コンロを使うと、熊の肉をフライパンに敷いて、調理酒をかけて、豪快に焼き始めた。
そして、肉が程よくレア気味になったところで、調味料のブラックペッパーをかけて、さらに火を調節して熊の肉を焼く。
「おい、これはもしかして…」
クレイドがゼクロスに向かって曖昧に聞くと、察したゼクロスもこれに応じて、答える。
「ああ、ローザの料理は、サバイブな、キャンプ的料理だ」
そして、またもフォローするようにゼクロスは少し真面目な表情で言葉を続ける。
「だけど、決してマズイ訳じゃない。お前も食べてみれば、わかるさ」
ローザが、ブラックペッパーで味付けした「熊の肉のステーキ」を3人分焼き上げると、彼女は食器棚から、大皿とフォークとナイフを人数分とりだして、丸テーブルに座る二人の所に持っていく。
「はい、出来たわよ」
と、ちゃっかり自分の分も用意して、3人で丸テーブルを囲った。ちなみにエリシャは街の大通りで露店を出して外出中で、ルーシアは2階でポーションの合成中である。
クレイドが、ナイフとフォークで熊の肉を丁寧に切り分けて、口に運んで、歯ごたえのある肉をよく噛んで食べると、少し顔をほころばせて、素直な感想を口にする。
「確かに、少し固めで大味だが、黒胡椒がよく効いてるし、肉汁も良く出てるから、これはこれで、悪くないな」
「だろう?上品なものだけが、料理の形の全てじゃない。だから、俺もこれは、気にいってる」
ゼクロスも、そういって、熊の肉のステーキをナイフでやや大雑把に切り分けて、フォークで口に運ぶ。
ローザはうふふ、と口元に笑みを浮かべて、
「気にいったみたいでなによりね。まあ、何にせよ、やり方は人それぞれって事ね」
と、自らもステーキを食べ終えると、場をまとめるように言った。
☆
そこに、ローザの前に、メールのアイコンが浮かび上がる。ローザがステータスウィンドウを開くいてそのゲーム内メールを見ると、どうやらフレンドのプレイヤーからの、狩りのお誘いのようである。
「私のフレンドからの、個人的な狩りのお誘いね。東の森で「ダークナイト」のクラスになって、少し手伝ってくるから、2人はまったりしてていいわ。悪い人ではないから、ここに連れてくるかも知れないけど、その時はよろしく頼むわね」
そういって、ローザは「ダークナイト」にクラススイッチして、剣士風の装備になると、東門から森エリアに向かうべく、このロッジ風の、エリシャの店から出た。
☆
店に残ったゼクロスとクレイドは、2人で、食べた後の食器類の片づけをした。
リアルと違い、大雑把に水であらうだけでいい仕様なので、手間自体はそれほど大変なものではないが。
そこに、露店での商売を終えたエリシャが帰ってきて、丸テーブルでまったりしているふたりを見つけて、先ほどのやりとりを聞きつけると、意外そうな表情になった。
「ローザも料理、できるのね。これはなかなかあなどれないわ」
と、言いなにやら対抗意識らしきものをもやし始めた。
「いや、エリシャも普通にリアルで料理できるから、別に張り合う必要はないよ」
少し気圧された感じでゼクロスが頬をかいて言うと、クレイドも同調して、
「そうそう、エリシャの作る料理の良さは、僕たちも良く分かっているから」
と、言ったが、エリシャは少し不満げな様子で、
「でも、ルーシアは合成スキル持ちだから出来るのは分かるけど、ローザはスキル無しで出来たんでしょ?私も少し、試してみたいな…」
…こうしてエリシャも、セルフィの街にある食材屋に行き、鶏肉を始めとする、幾つかの材料を仕入れてくると、いたって普通に、鶏肉を使って料理を始めた。リアルで料理をする彼女には、モンスターの肉を使って料理をするという発想は、まだない。
包丁で鶏肉をひとくち大に切り分けると、調味料に漬けて、料理粉をまぶして、底の深い小さな鍋で、油を立てて、揚げ始めた「唐揚げ」を作る構えのようだ。
程よく色がついたあたりで、さいばしでとりだして、大皿に盛ったエリシャが、さあ唐揚げを2人に出そうかというところで、ローザが狩人風の男プレイヤー連れて、狩りを終えて、戻ってきた。
…そしてこの後、ローザがその狩人風の男プレイヤー、ウェルトをエリシャ達に紹介して、みんなで食事をとる事になるのであった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
不遇職「罠師」は器用さMAXで無双する
ゆる弥
SF
後輩に勧められて買ってみたVRMMOゲーム、UnknownWorldOnline(通称UWO(ウォー))で通常では選ぶことができないレア職を狙って職業選択でランダムを選択する。
すると、不遇職とされる「罠師」になってしまう。
しかし、探索中足を滑らせて落ちた谷底で宝を発見する。
その宝は器用さをMAXにするバングルであった。
器用さに左右される罠作成を成功させまくってあらゆる罠を作り、モンスターを狩りまくって無双する。
やがて伝説のプレイヤーになる。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
また、つまらぬものを斬ってしまった……で、よかったっけ? ~ 女の子達による『Freelife Frontier』 攻略記
一色 遥
SF
運動神経抜群な普通の女子高生『雪奈』は、幼なじみの女の子『圭』に誘われて、新作VRゲーム『Freelife Frontier(通称フリフロ)』という、スキルを中心としたファンタジーゲームをやることに。
『セツナ』という名前で登録した雪奈は、初期スキルを選択する際に、0.000001%でレアスキルが出る『スーパーランダムモード』(リセマラ不可)という、いわゆるガチャを引いてしまう。
その結果……【幻燈蝶】という謎のスキルを入手してしまうのだった。
これは、そんなレアなスキルを入手してしまった女の子が、幼なじみやその友達……はたまた、ゲーム内で知り合った人たちと一緒に、わちゃわちゃゲームを楽しみながらゲーム内トップランカーとして走って行く物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる