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9話前編:それぞれの手料理(前)
しおりを挟む新たにゼクロス達の拠点になった、エリシャの「隠れ家的な」ロッジ風の店で、丸テーブルの椅子に腰かけて、ルーシアが作り置いていた、果実のジュースを飲みがてら、クレイドが、ふと、
「なあ、ローザは料理とかはしないのか?」
と、カウンターの奥にある簡易倉庫で倉庫整理をしているローザに聞いてみた。
ローザは妖艶な笑みを浮かべて、
「あら、私の手料理が食べたいの?2階で合成をしているルーシアに後で言っちゃおっかな~」
とからかったので、クレイドは頭痛をこらえるように、額に手を当てて、
「頼むからそれはやめてくれ。そういう意味で言ったんじゃない。どんなのを作るのか、あまり想像できなかっただけだ」
そこにいあわせて、同じく丸テーブルでジュースを飲んでいたゼクロスは、フォローするように、
「ローザもVRゲームで料理はできるぞ。ただ、お前の口には少々合わないかもな」
と平然として言ったので、クレイドは「どういうことだ?」と不思議そうに尋ねた。
ローザはそのやりとりを見て、やれやれと言った感じで肩をすくめてみせて、
「じゃあ、久々に腕を振るってみましょうか。でも、口に合わなくても文句は無しよ」
といい、1階のカウンター奥の簡易倉庫を開けて、そこから「自分の倉庫欄」を間接的に開いてステーキ状の「熊の肉」を数枚取り出す。
そして、台所に立つと、ローザはフライパンに薄く食用油を引いて、コンロを使うと、熊の肉をフライパンに敷いて、調理酒をかけて、豪快に焼き始めた。
そして、肉が程よくレア気味になったところで、調味料のブラックペッパーをかけて、さらに火を調節して熊の肉を焼く。
「おい、これはもしかして…」
クレイドがゼクロスに向かって曖昧に聞くと、察したゼクロスもこれに応じて、答える。
「ああ、ローザの料理は、サバイブな、キャンプ的料理だ」
そして、またもフォローするようにゼクロスは少し真面目な表情で言葉を続ける。
「だけど、決してマズイ訳じゃない。お前も食べてみれば、わかるさ」
ローザが、ブラックペッパーで味付けした「熊の肉のステーキ」を3人分焼き上げると、彼女は食器棚から、大皿とフォークとナイフを人数分とりだして、丸テーブルに座る二人の所に持っていく。
「はい、出来たわよ」
と、ちゃっかり自分の分も用意して、3人で丸テーブルを囲った。ちなみにエリシャは街の大通りで露店を出して外出中で、ルーシアは2階でポーションの合成中である。
クレイドが、ナイフとフォークで熊の肉を丁寧に切り分けて、口に運んで、歯ごたえのある肉をよく噛んで食べると、少し顔をほころばせて、素直な感想を口にする。
「確かに、少し固めで大味だが、黒胡椒がよく効いてるし、肉汁も良く出てるから、これはこれで、悪くないな」
「だろう?上品なものだけが、料理の形の全てじゃない。だから、俺もこれは、気にいってる」
ゼクロスも、そういって、熊の肉のステーキをナイフでやや大雑把に切り分けて、フォークで口に運ぶ。
ローザはうふふ、と口元に笑みを浮かべて、
「気にいったみたいでなによりね。まあ、何にせよ、やり方は人それぞれって事ね」
と、自らもステーキを食べ終えると、場をまとめるように言った。
☆
そこに、ローザの前に、メールのアイコンが浮かび上がる。ローザがステータスウィンドウを開くいてそのゲーム内メールを見ると、どうやらフレンドのプレイヤーからの、狩りのお誘いのようである。
「私のフレンドからの、個人的な狩りのお誘いね。東の森で「ダークナイト」のクラスになって、少し手伝ってくるから、2人はまったりしてていいわ。悪い人ではないから、ここに連れてくるかも知れないけど、その時はよろしく頼むわね」
そういって、ローザは「ダークナイト」にクラススイッチして、剣士風の装備になると、東門から森エリアに向かうべく、このロッジ風の、エリシャの店から出た。
☆
店に残ったゼクロスとクレイドは、2人で、食べた後の食器類の片づけをした。
リアルと違い、大雑把に水であらうだけでいい仕様なので、手間自体はそれほど大変なものではないが。
そこに、露店での商売を終えたエリシャが帰ってきて、丸テーブルでまったりしているふたりを見つけて、先ほどのやりとりを聞きつけると、意外そうな表情になった。
「ローザも料理、できるのね。これはなかなかあなどれないわ」
と、言いなにやら対抗意識らしきものをもやし始めた。
「いや、エリシャも普通にリアルで料理できるから、別に張り合う必要はないよ」
少し気圧された感じでゼクロスが頬をかいて言うと、クレイドも同調して、
「そうそう、エリシャの作る料理の良さは、僕たちも良く分かっているから」
と、言ったが、エリシャは少し不満げな様子で、
「でも、ルーシアは合成スキル持ちだから出来るのは分かるけど、ローザはスキル無しで出来たんでしょ?私も少し、試してみたいな…」
…こうしてエリシャも、セルフィの街にある食材屋に行き、鶏肉を始めとする、幾つかの材料を仕入れてくると、いたって普通に、鶏肉を使って料理を始めた。リアルで料理をする彼女には、モンスターの肉を使って料理をするという発想は、まだない。
包丁で鶏肉をひとくち大に切り分けると、調味料に漬けて、料理粉をまぶして、底の深い小さな鍋で、油を立てて、揚げ始めた「唐揚げ」を作る構えのようだ。
程よく色がついたあたりで、さいばしでとりだして、大皿に盛ったエリシャが、さあ唐揚げを2人に出そうかというところで、ローザが狩人風の男プレイヤー連れて、狩りを終えて、戻ってきた。
…そしてこの後、ローザがその狩人風の男プレイヤー、ウェルトをエリシャ達に紹介して、みんなで食事をとる事になるのであった。
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