ツインクラス・オンライン

秋月愁

文字の大きさ
上 下
7 / 39

6:もう一人の幼馴染

しおりを挟む


 ゼクロスのプレイヤー、闇雲玄人(やみくもくろと)はリアルでもう一人の幼馴染、明智誠人(あけちせいと)に、誠人の整然とした、本棚だらけの部屋で、彼に頼み事をする。

「頼む、俺と一緒に、VRMMOで、冒険してくれないか?」

しかし、眼鏡のインテリ、誠人の返答はすげないもので、

「断る。僕がゲームが好きでないのは、お前も知っているだろう。あんなものは、時間の浪費だ」

理論派の誠人は、玄人の頼みを断るが、玄人の「どうしても、だめか?」と懇願するような視線を受けて、訳を聞く。

「というか、なんで僕なんだ?ゲーム好きなら、他に幾らでもいるだろう」

これに、玄人は即答して「お前が、信頼できるからだ」と答えたので、誠人は無下にできなくなり、

「…詳しく話せ」

と状況の説明を求めた。

                     ☆

玄人が、VRMMO「ツインクラス・オンライン」で、女性プレイヤーに囲まれて、周囲の不評を買っている。そして、下手な男プレイヤーをPTに入れて、彼女たちとの関係を悪くしたくない、とのことを話すと、誠人は一応の納得をしたみたいで、

「それで僕か、というか、何だその状況は。何をどうしたら、そんな事になるんだ?」

そして、誠人は、少し考える素振りを見せると「VRヘッドセットとソフトはどうするんだ」と玄人に聞き、彼が「ソフトと一緒に予備がある」と答えると、これに応じる事となった。

「少しなら、つきあってもいい。ただし、つまらなかったら、即座にやめるから、そこは覚えておけ」

こうして、真面目なインテリの幼馴染、明智誠人は、玄人の説明を受けて、VRヘッドセットを被り、ソフトを差して、キャラメイキングに入った。

「…何だ、こんなに細かく外見を設定できるのか…。しかも、一般の職業まであるじゃないか。薬師とか、料理人とかまで…」

少しの驚きを見せつつも、彼はキャラメイキングを済ませると、同じくVRヘッドセットを被りログイン
した玄人の「ゼクロス」とスタート地点、首都セルフィの中央公園、噴水前で合流した。

彼のネームは「バルクレイド」

眼鏡をかけた、銀髪の、理知的な感じの若い学者を思わせる、冷静そうな、真面目を絵にかいたような、なかなかの美形の青年アバターである。

ゼクロスと合流したバルクレイドは、ゼクロスがFLから呼んだ、仲間のエリシャ、ローザ、ルーシアと顔あわせをする。

「…バルクレイドだ。長めの名前だから「クレイド」でいい。クラスは「ソルジャー」と「ウィザード」だ。ゲームは初心者だから、よろしく頼む」

この事を、事前に聞いていたエリシャは歓喜して「セイト君!来てくれたんだ。嬉しいけど、どういう風の吹き回し?」

同じくリアル幼馴染の銀髪の美人アバターのエリシャが問うと「ここでは、バルクレイドだよ、「エリシャ」そういう決まりなんだろう?」と冷静に返す。

「じゃあ、クレイド君だね。私はローザ「ダークナイト」と「ダークプリースト」ね。こちらの大人しい子はルーシアで「鍛冶屋」と「錬金師」のクラスよ」

妖艶な黒髪のローザが自己紹介し、人見知りをする白髪のあどけない少女のルーシアを紹介すると、ルーシアも自ら丁寧にクレイドに向かって、

「ルーシアです。クレイドさん、よろしくお願いします」と愛らしい顔で言ったので、クレイドは思わず赤くなって、ゼクロスをつかまえて、少しはなれたところで話す。

「これは、なんだ?お前、ハーレムでも作るつもりだったのか?」

「それを言われるのがあれで、お前を呼んだんだよ!」

クレイドの問いに、ゼクロスが少し強めに反論した。

「ふう…」とクレイドは、片手で眼鏡のズレを直すと「本題」に移った。

「で、僕は、ここで、何をすればいいんだ?LVを上げて、ストーリーを進めるというのも、この世界の背景設定も、公式サイトで確認している。要するに、このPT内での「役割」だな」

ローザは少し感心して、

「おお、凄いマジメ君だわ!とりあえず前衛が少ないから「ソルジャー」のクラスで武装して、モンスターと白兵で戦ってくれると、助かるわね」

この時、ローザは支援用の「ダークプリースト」状態で、ゼクロスも「ホーリーナイト」エリシャは「レンジャー」となっている。ヘルプがてら、自分たちのEXPも稼ぐ構えだ。

クレイドは、その構成を見て、

「なるほど、騎士に神官に狩人か。確かにフォワードが一人しかいないな」といい「装備を整えるから、少しまっていてくれないか」と、一人で武器、防具の店に入った。

ローザは「アドバイスなしで、大丈夫かな?」と心配したが、ゼクロスは「あいつなら大丈夫。戦争とか兵士の知識も、ある程度は知っているはずだからね」と、まるきり信頼を置いている感じだ。

                    ☆

そして、クレイドが武器屋から出てくると、ショートスピア(100G)レザーアーマー(200G)ラウンドシールド(150G)レザーヘルム(100G)レッグガード(200G)という、中世の兵士じみたいでたちで、ゼクロスPTに合流した。

ローザは、驚くのと呆れるのが半々といった感じで、

「何か、凄くリアルな兵士装備ね。この人、本当にゼクロスの幼馴染?」

これには同じくクレイドの幼馴染であるエリシャが答えて、

「クレイドは歴史にも少し詳しいの。ただ、実はゲームがあまり好きではないらしいから、みんな、うまくサポートしてあげてね」

「はい!クレイドさん、ポーションの類が足りなくなったら、遠慮なく言ってくださいね。沢山ありますから」

クレイドはルーシアの申し出に少し赤くなりながらも、

「有難いが、その時は適正価格で買い取らせてもらうよ。対価は正確に払われるべきだからね」

と、やや優しい口調で返した。

…こうして、ゼクロスとエリシャのリアル幼馴染の「バルクレイド」が新たにPTに加わり、ローザとゼクロスの的確なサポートで、南の平原で二人に支援をもらいつつ、ウルフやオークと戦って、早くもLVを5として、ステータスは普通だが「スキル」の覚えが早いクラスの「ソルジャー」のクレイドは、次々とスキルを覚える。

そして、2回攻撃の突き攻撃「ダブルファング」パリィの効果が上がる「パリィアップ」そしてLV5で「エイムチャージ」のスキルを得ると、攻守に渡って、ゼクロスPTで、活躍をすることになる。

クレイドも、この世界を幾分気にいったようで「…VRゲームというのも、思ったより悪くはないな」と少しばかり、考えを見直した感じである。思考自体は柔軟な所もあるのだ。

そして、この「クレイド」の加入によって、ゼクロスの「ハーレムPT疑惑」も晴れることとなった…。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。 しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。 農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ! ※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧
ファンタジー
『To The World Road』 倍率300倍の新作フルダイブ系VRMMOの初回抽選に当たり、意気揚々と休暇を取りβテストの情報を駆使して快適に過ごそうと思っていた。 ……のだが、蓋をひらけば選択した職業は調整入りまくりで超難易度不遇職として立派に転生していた。 しかしそこでキャラ作り直すのは負けた気がするし、不遇だからこそ使うのがゲーマーと言うもの。 意地とプライドと一つまみの反骨精神で私はこのゲームを楽しんでいく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

チートなガチャ運でVRMMO無双する!?~没入型MMO「ラスト・オンライン」

なかの
ファンタジー
「いきなり神の剣が出たんですけど」 僕はチートなガチャ運でVRMMO無双する!? 330万PV(web累計)突破! 超大手ゲームメーカーの超美麗グラフィックな大型RPGの最新作「ラスト・オンライン」 このゲームは、新技術を使った没入型MMO、いわゆるVRMMOだった。 僕は、バイト代をなんとか稼いで、ログインした先でチートのようなガチャ運で無双する!! 著/イラスト なかの

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...