ツインクラス・オンライン

秋月愁

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4:サブシナリオ、海賊討伐

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 「「メインストーリー」をそろそろ進めたいんだけど、どうかしら?」

セルフィの中央公園のベンチで、ゼクロスとローザに挟まれる形で座っているエリシャが二人に提案する。

「私は構わないわよ。でも、メインストーリ―を進めて、できなくなるサブシナリオも存在するから、そこは踏まえておいてね」

少し真面目な表情で、ローザが同意しつつも補足する。ゼクロスも同意見のようで、

「サブシナリオの「海賊討伐」はこなしておいて損はないな。リアルで調べた話だと、大量のジェムが入手できるとの事だし」

「それ、具体的には、どうやるの?」

少し心細げにエリシャが問う。まさか、海賊のアジトに乗り込むとかなのではと、心配したのだ。

「海賊が、船にお宝を積んでいるところに、乗り込んで、問答無用で全員倒す。で、財貨をNPCの町の人に返すと、お礼にジェムが幾つか貰えるってことになっているよ」

丁寧なゼクロスの説明に、エリシャは「何か少し大ざっぱなシナリオね」と少し呆れ気味。ローザがまたも補足するように、形のいい口を開く。

「別にも、探偵めいた事をするサブシナリオもあるのよ?でも手間だけかかって報酬はあまり釣りわないのが現状だわ。エリシャも、どうせなら、実入りのいいシナリオのほうが、いいでしょう?」

言われるとエリシャも少し納得したようで、

「それもそうね。腕だめしにもなるし、ゼクロスとローザがいれば、まず負けないし」

少し他力本願的なエリシャの言に、ローザは少し、冷ややかな目線で彼女を見て、

「いっておくけど、大勢の敵との戦いになるから、少しはエリシャにも敵はいくわよ。もちろん、できるだけ防ぐけど、いざとなったら、短剣で「パリィ」くらいはしたほうが、いいわね」

「そういえば、レンジャーって、短剣も使えるのよね。弓ばかり使ってたから、すっかり忘れてたわ」

すっかり説明役になっているローザが、エリシャにアドバイスを続ける。

「重鎧は着けられないけど、素早くてAGIが高いから、実は結構軽戦士風でもいけるのよ?一度やってみる?」

そのアドバイスに、エリシャはまんざらでもないようで、あごに手を当てて考え込む。

「ん~、少し興味はあるかな。ゼクロス見てると、白兵も結構いいように見えるし…」

「じゃあ、俺のおさがりでよければ、ショートソードと、ラウンドシールド、あげるよ。ロングソードと、ノーマルシールド買ったから、ちょうど余ってたんだ」

ゼクロスも、この案に乗り気である。一つのやりかたに固定していたのでは、柔軟なプレイはしにくいと、彼なりに考えていたからだ。

…こうして、ショートソードとレザーアーマー、ラウンドシールドを着けた、あまりレンジャーらしくない、エセ軽戦士が出来上がった。無論、装備を変えてみたエリシャの事である。

「軽戦士姿も似合ってるよ」とゼクロスがいうと、エリシャは少し赤くなってごまかすように、

「これで、本当に戦えるの?攻撃スキル「ダブルファング」とかいうのしかないんだけど…。

「あら、「ダブルファング」は優秀スキルよ?純に2回攻撃なだけだけど、消費SPも少ないし、一撃外れても2撃目が発生するから、安定した命中とダメージがきたいできるわ」

ローザがスキルの説明をする。ゼクロスは、長くなった作戦会議のまとめに入った。

「とりあえず、サブシナリオの「海賊討伐」で、エリシャの白兵デビューだな。大丈夫、危なくなったら「パリィ」で守りに入ってくれれば、俺が敵を倒して守るから」」

ゼクロスの台詞に、エリシャは耳まで赤くなる。

アバターとはいえ、金髪碧眼の美男のこの台詞である。多少意識するのも、仕方のない事とも言える。

「じゃあ、私は「ダークナイト」にスイッチして戦うわね。こういう時の為に、夜更かししてソロで、LV8まであげてあるから、戦果は期待していいわよ」

ローザが自信満々で言う。

「いや、有難いが、ちゃんと休むときは休んでくれよな…」とゼクロスは、少し諫言めいた事を口にする。彼も、あまり、人の事を言えないプレイ時間ではあるので、それは少し弱々しいものであったが。

                    ☆

-こうして、次の日、首都セルフィの南にある港町、ザラに向かい、あっさりたどり着く一行。

港町ザラは白い建物がならぶ、清潔感ある街で、VRであるにもかかわらず、潮風が気持ちいい。

PTリーダーのゼクロスは、幾つかのNPCと会話して、イベントを進めるフラグを立てると、街の離れの砂浜に停泊している海賊船に、抜刀して、PT仲間と共に奇襲をかけた。

海賊は約20名。しかしその実、お頭以外は、全員、L1のゴブリン並みの戦闘力で、戦力的にも楽勝のはずだった。

だったというのは、ゼクロスとローザは「スラッシュ」で海賊を順調に倒しているが、エリシャが、リアルなVRの人間NPC敵キャラと戦うのを、躊躇った、正確には、怖くなったからである。

(こんなの、フツーに人間じゃない。刃物で切り付けたりできないよ…)

エリシャは、ラウンドシールドで「パリィ」して、防戦一方になった。

ゼクロスもそれを見て、遅まきながら、状況を把握した。

(そっか、一応、外見は普通の人間だから、剣で斬りつけて戦いづらいか…)

ゼクロスは、エリシャに向かった海賊を、ロングソードの「スラッシュ」で切り倒して、彼女の前面で、守るように剣を構えて、海賊たちを迎え討った。HPが0になった海賊は、黒くなって、かき消える。

ゼクロスが守りに入っているので、主に戦うのは「ダークナイト」にスイッチしているローザであった。

ロングソードを華麗に振るう、ローザの剣技は冴えにさえて、海賊を、一人残らず斬り捨てた。まるで、時代劇の殺陣のように。そして頭目すら、ローザの相手にもならなかった。

…こうして、海賊NPCは全滅して、街のNPCに、PTリーダーのゼクロスが報告すると、衛兵が海賊船から財貨を回収して、このシナリオは終了した。PTの三人には、NPCの町長からの礼として、赤いジェム5個がそれぞれ渡された。

                      ☆

ザラの街の、据え付けのベンチで、座って休憩していた三人だが、エリシャはガチで落ち込んでいた。

「ごめん、私、何もできなかった…」

ゼクロスは、それをフォローするように、

「まあ、気付けなかった俺たちも悪かった。VR戦闘慣れしていないと、人間タイプのNPCは敵とはいえ、相手にしにくいよな」と言った。

ローザも、ゼクロスに同調して、

「次からは、シナリオは慎重にえらぶわ。怪物相手なら、大丈夫よね?」

「うん、怪物があいてなら、大丈夫…」

エリシャの返答は、まだ弱々しかった。

ゼクロスはさらにフォローを重ねる。

「まあ、どっちかというと俺は逆に安心したかな。エリシャが嬉々として、海賊NPC斬り倒してるのって、正直想像できないし、あまりみたくないかもな。だから、これは、俺のお詫びの形だ」

そういって、自分のジェムを3個、エリシャに渡す。

ローザも右手で自分の髪を撫でつけて、こう言う。

「私も、少し無神経だったわね。これは、私のミスでもあるから、これで、水に流してね」

そうして、自分のジェムの2個を、エリシャに手渡す。

エリシャは泣き笑いの表情で、二人にそれぞれ、ジェムを返すと、

「ありがと、その気持ちだけで十分よ。私は平気。今日はもうログアウトするね。明日からは、またいつも通りでお願いね」

こうして、エリシャはログアウト。

…海賊討伐イベントを終えて、ゼクロスはローザに問うてみた。

「VRとはいえ、海賊とかの人間仕様のNPCモンスターを平気で倒せる、俺たちって、異常なのかな?」

ローザは少し、言葉を選んで、

「少なくとも、あまり健全ではないかも知れないわね。あの子のほうが普通なのよ、多分ね」

ゼクロスは、クセのある金髪を右手でかいて、話を続ける。

「次からは、少し気を付けないとな。エリシャにゲームで、あまり嫌な思いをさせたくはないんだ」

ローザはクスリと軽く笑って、

「優しいのね。大事なんだ?」

「あいつが俺の幼馴染なのは、お前も知ってるだろ」

ゼクロスは少し照れながらも言い返す。

「本当にそれだけ?」

「…今はそれだけだな。先の事は分からない。それじゃあ、いけないか?」

「そうね、そういうことで納得しておいてあげるわ」

…こうして、二人もログアウト。次の日からは、また普通通りの日々が待っていた。




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