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12:二人の約束
しおりを挟む「しばらくは休んでていいぞ、ただし、砦内でだがな」
赤髪、眼帯の女団長ソレーヌの言をうけて、しばしの休みをもらったミラリア達「ブレードシスター」一行。
とはいえ、休みといっても、砦内では出来ることは限られる。
「じゃあ、ここは僕の出番だね」
手品師兼盗賊の「トリックスター」ロイザードが、二人を酒場に誘う。そして、酒場にたむろする団員達に、手品を次々と披露する。
シルクハットから鳩をだしたり、得意のトランプで鮮やかに幻惑じみたトリックをしかけたりと、娯楽の少ないこの砦での、ロイザードの手品は、拍手喝采。おひねりまで飛び交った。修道女剣士ミラリアも仮面の白騎士シルヴァンも多いにこれを楽しんだ。
☆
…そこまではよかったが、ロイザードからトランプでの新しい遊び方を教わった二人が、ロイザードの手ほどきの中で、対戦すると、何故か、ミラリアだけが負け続けた。
-不自然極まりないわ。もしかして、これは…イカサマ?-
ミラリアはそう思い、一方的に勝ち続けるシルヴァンに抗議する。
「シルヴァン!イカサマはやめなさいよ!!フツーにやって二十連敗とかありえないでしょ!」
…実際はカードを配る係のロイザードが悪戯で仕込んでいるのだが、二人は気付いていない。
思わぬ連勝に、シルヴァンは逆に申し訳なく思ったようで、
「すまない。イカサマをしたつもりはないが、気を悪くしないでくれ。落ち着いて、酒でも静かに飲み交わそう」
そして、二人は酒場の隅で飲みなおす事になったのだが、あまり飲み慣れていないミラリアは、酔ってシルヴァンにからみだした。
「大体ね~。前世がソルドガルの魔将軍だった私に、エルバドルの王子が言い寄るなんてのが、話的におかしいわけよ。そりゃあ、私も今は女だから、気持ちは嬉しいわよ?でもどうしても、前世の記憶が本気の付き合いの邪魔をするのよ」
シルヴァンは、酔っているとはいえ、これがミラリアの本音の一端に聞こえたので、真面目にこれに考え込む。
「つまり、前世の記憶がなくならないといけないわけか。しかし、もし何らかの方法でそれをしてしまうと、私を剣技で助けてくれたミラリアではなくなってもしまうわけだ。思ってより深刻だな、これは」
すると近くで聞いていた、ロイザードが煽るように変な事を言い出した。
「つまりは前世の記憶なんてどうでもよくなるほどに、シルヴァンがミラリアを惚れさせればいいわけだね。なら、シルヴァンは立派な騎士になって、ミラリアを超えるほど強くなってみせればいい。女の人は基本強い男が好きだからね。シルヴァンは見た目がいいんだし、充分な剣の素質もある。一つ、チャレンジしてみたら?」
シルヴァンは、がしっとロイザードの肩を両手で掴んで、「それだ!」と共感した。
「私が伝説級の騎士になって、ミラリアを首ったけにすればいいのか!ありがとう、ロイザード。いい考えだ!」
それを聞いていたミラリアは、いつのまにか杯を重ねて、完全に悪酔いして、薄く嗤う。
「そう、なら、本気の私を打ち負かしてみなさいよ。面倒だから、今、この場で」
そうして、酔ったまま、前世の「魔剣士ヘルヴァルド」の一面を見せる。背後に太刀を背負った長身の男の影を映して。そして、重く響く声で言う。
「ならば、この魔剣士ヘルヴァルドに勝って見せろ。そうすれば、望みどうりにしてやろう。しかし、加減はなしだぞ」
シルヴァンも、多分に酔ってるようで、愛用の長剣を抜く。
「面白い。一度前世のあなたとは、剣を交えてみたかった」
互いに太刀と長剣を構えて、その場はどんどん熱気に包まれる。
しかしそこで、新たな声が割って入る。女団長のソレーヌだ。
「馬鹿者!!酒場で剣を使う奴があるか!禁止行為だぞ、団内の治安が乱れる。さっさと剣を収めろ!」
そのいつもにまして鋭く通る声には、気魄がこもっており、その一喝は二人を一瞬で酔いから醒ました。
☆
ミラリアとシルヴァンは、向かい合う形で、別々に捕虜を入れる牢に入れられた。ソレーヌいわく「頭を冷やせ」とのこと。
すっかり酔いがさめた二人は、関係の修復にはいった。
「ミラリア。君が酒に強くないのを忘れていたよ。先程の言は、忘れて欲しい」
シルヴァンの謝罪に、しかし、ミラリアの意見は違うようで、シルヴァンに言う。
「いいわ。私も悪かったから。でも、あの話は反故にしないで。立派な騎士になって、私が前世ヘルヴァルドを忘れる位に、首ったけにさせるって事を」
シルヴァンは、ミラリアをじっと見つめた。ヘルヴァルドの件が無ければ、この銀髪の修道女は、自分を好いていてくれているのだと、胸に刻んで。
「分かった。必ず匹敵する者のない騎士になって。君をの心を虜にしてみせる。だから、それまでは互いを助ける「相棒」でいよう」
…こうして、二人は新たな「約束」をして、牢から出されると、剣の腕を磨きにかかった。
特にシルヴァンは、デュランをはじめとする他の団員とも手合わせを頻繁にするようになり、その腕をめきめきとあげていった。
そして、これを間接的に仕組んだロイザードは、酒場でグラスを傾けてほくそえんでいた…。
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