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5、粘着令嬢

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監獄を出てから、すぐにルルナは穴を掘って地中に潜った。

「便利だろぅ?ワシの魔法。手を触れればどこにでも穴を空けられる。床だろうが壁だろうが人間だろうがなぁ。ケケケケ。」

「でも……あの怖い帽子には…触ってなかったよな………?」

息も切れ切れに、謙信は疑問を投げかけた。

「……意外と抜け目ねぇのなぁ…ケケケ。目と鼻の先ほどの距離なら、触らなくとも穴穿ちできるんだよ。」

「すげえな……べんり…だ…」

「お前さんの拳骨の方が段違いに便利だがなぁ…」

地中にある程度穴を空け、広い空間を作っていく。

「これくらいでいいか。…ぶへぇ…少し休みてぇところだが、早いとこずらがるぞ。上はボチボチ騒ぎに気づいた昼勤務の看守どもでウヨウヨしてくらぁ。」

ルルナの言う通り、監獄長の昏倒を始めとした床の陥落などの被害がすぐさま知れ渡っていた。

「"魔法連合"を呼べ!!こういう時のための組織だろう!!」

魔法連合とは一流の魔法使いによる自治組合だ。魔法至上主義をかかげ、政府からは独立し国への影響力を持つ集団である。

「し、しかし…このような失態が晒されれば…責任問題が…」
「罪人が逃げ出しているんだぞ!!地域住民の安全が第一だ!!」

怒鳴り声を上げているのは副監獄長のセナガ・ロウバシンという男だった。

己の地位よりも他者を思いやる心の持ち主で、部下からの信頼も厚い。

「り、了解しました…直ちに連絡を…」
「必要なし。たった今わたくしが到着した次第。無駄な行動は止したまえ。」

「あ、あなたは…!」
「"粘着令嬢"…!!」

突然、セナガ達の背後に白いドレスを着た長身の女性が現れた。

「こら。初対面の女の子を俗称で呼ぶのは止めたまえ。わたくしの名はコール・リボンド。大衆や組合からは"粘着令嬢"と呼ばれている。以後よろしく。」

「失礼いたしました…!私はセナガ・ロウバシンと申します!当監獄の副監獄長を務めております!!こちらは私の部下の…」
「君、何魔法が使えるのかね?」

ゾクッ…

セナガの背筋を、寒気が走る。

「っ!…い、岩魔法と、水魔法を…」

「ふむ。よろしい。部下の紹介はいらない。改めてよろしく。セナガ。」

「よ、よろしくお願いします!」
(一瞬おぞましい気配を感じた…やはり魔法組合員は魔法至上主義…もし俺が魔法を使えなければどうなっていたのだろうか…)

「さて。今日ここに来たのはね、魔力の乱れを感じたからだ。あまり馴染みのない乱れ方を。」

「は…そ、それはその…我々に原因が分からず…」

「だよね。だからわたくしが来たのだから。君の嘘をつかない姿勢、いいね!」

「あ、ありがとうございます…」

「では、案内してくれたまえ。監獄長の元へ。」

「あ、いえ。監獄長は今人前に出られる状況では…」

「あれ。わたくしの願いが聞けないのかな?」

「は…はっ!申し訳ありません!案内いたします!」
(またこの気配…!)

「…うん。それなら良いんだよ。たのんだね。君。えー…ロウバシンくん。」

監獄長・リンドウの部屋へ案内する道中で、セナガは戦慄していた。

(この女性の機嫌につられて周囲の魔力がざわめいているんだ…だから寒気を…機嫌で魔力を動かせるなど…凄まじい才能…)

隣で微笑むコールをチラリと見つつ、10歳以上は年下であろうその女性に、恐怖を禁じ得ないセナガであった。

ーーーーー

「ぷはー!!ようやくここまで来れたなぁ!!ケケケ!!脱獄成功だぜぇ!」

監獄での騒ぎが刻一刻と大きくなっていくその最中、ルルナと謙信はかなり離れた森の地面から顔を出し、一息ついていた。

「ああ……やっと…休めるのか…?」

ここまでくるのに、2人は相当無理をしていた。

今にも倒れそうな状態であるにも関わらず、謙信は地中にまでそびえている監獄の魔鉱石製の外壁を、バレないようにこっそり少しずつ壊した。

ルルナはルルナで、穴を穿ちすぎて地面が陥没しないよう最新の注意を払いながらここまで来たのだ。

「ケケ…そうさなぁ…休む…か…」
「うん……」

2人がその場で眠りに落ちそうになったその時だった。

「おや。仲が良いのだね。罪人どもが揃って二度寝の準備とは。」

「あぁ…?」
「だれ…?」

2人の頭上から、白いドレスを着た女性…コールが突然現れた。

「ふむ。呆気ない。」

大量の白い液体と共に。
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