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記録三十三:試練について〜試練一

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 『だ~れ~だ~と~き~い~……
 うぇぼっ!げほっ!いかんなぁ…
 辞めだ辞め。この喋り方は辛い。
 お前は誰だ?』
  
 キノクニは剣を抜き、頭蓋骨を睨みます。

 グリモアは恐怖で気絶しています。

 『…まさか…貴様…』

 「ぬぅ…」

 キノクニは剣を奮おうとしました。

 しかし…

 『志望者か!!?』
  
 「!?」

 頭蓋骨は声を弾ませからの眼窩を輝かせます。

 『操舵手志望か!ケタケタケタ!
 だがこの方向はまずい!
 世にも恐ろしい魔族の国だ!!
 オイ!リーダー!リーダーは居ないのか!?』

 頭蓋骨は青服の海賊リーダーを呼びますが、来るはずがありません。

 キノクニは気を取り直し、止めた剣を再び奮おうとしました。

 しかし…

 『仕方がない奴め!また船に乗り遅れたのか!!
 この世知辛い昨今、折角志望者が来たというのに!!
 実に仕方がない!
 "総員集合"~~~!!』

 メキャッ!バキバキバキバキ!!

 頭蓋骨が号令を出した瞬間、海賊船の甲板から、おびただしい量の白骨の腕が突き出て来ました。

 カタカタと音を立てて這い出てくる様は、地獄絵図です。

 『ぷはあああ!
 久々の号令だぜえええ!』

 『うわーい!
 沈まずに済んだよー!』

 『ケタケタケタケタ!
 ギャハハハハハハ!!』

 赤服海賊達が次々と這い出て、最後に青服の海賊リーダーが赤服達を押し退けて出てきました。

 『キャプテン!!助かりやしたぜ!
 突然船が出ちまいやがって…
 オラァアア!
 野郎どもぉ!整列だああああ!!!』

 『『『ウィーーース!!』』』

 ザッ!

 海賊達は甲板に、綺麗に整列しました。

 先頭の真ん中には、青服リーダーが敬礼して立っています。

 『総員、ただ今集合しやした!!』

 『ごぉ~くぅ~ろ~…
 ゲホゲホェ!!…
 宝と食料は?』

 『へい!無事全て強奪完了しやした!
 いやー、船が出ちまった時はどうしようかと思いやしたぜ…』

 『志望者への案内を怠るからだ…』

 『へっ?志望者??』

 リーダーは、言われて初めて船長の横に立つキノクニに気が付きました。

 『…なんだ?テメェは…』

 「…私は…」

 『まさか…テメェ…』

 キノクニは今度こそと、剣を握る手に力を込めます。

 しかし…

 『新入りかぁ!?野郎どもぉ!
 2世紀ぶりの新入りだああああ!!』

 『『『うおおおおおおお!!!』』』

 リーダーとクルー達は、諸手を上げて大喜びし出してしまいました。

 「待て。私は…」

 『そうだ。待て。コイツはまだ正式なクルーではない。
 まだ志願者止まりだ。
 仲間になるには試練を乗り越えねばならない。
 それが掟だ。』

 違うと言いかけたキノクニの言葉を、キャプテンが違う言葉で遮ってしまいました。

 リーダーはキャプテンに向き直り、敬礼します。

 『ヘイッ!もちろん心得ておりやす!
 オイ、アンタ!名前は!?』

 「…」

 『恥ずかしがり屋か!まぁいい!
 こっちに来い!説明してやる!!
 キャプテン!
 よろしいでしょうか!?』

 『任せた…
 万事すんだら、我輩に連絡を。』

 ジュワッ!

 そう言うと、キャプテンは溶けるように消えてしまいました。

 『野郎どもぉ!!取舵一杯!!
 残りは掃除だあああ!!』

 『『『ウィーーース!!』』』

 『よーし、ではオッサン。
 こっちに来い!
 色々と説明してやろう!』

 「…」

 キノクニは、とりあえず流れに身を任せる事にし、リーダーに従いました。

 何故なら、ここで暴れてしまえば舵輪を破壊してしまう可能性があったからです。

 渋々リーダーに付いて行き、船首の方へ移動するキノクニでした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『これからオッサンには大まかに5つの試練を乗り越えてもらう!』

 「…それは何だ。」

 キノクニは何故受けねばならないんだという意味で尋ねたのですが、リーダーは真逆の意味で捉えます。

 『ケタケタケタ…やる気十分だなぁ!
 生きが良いのは大歓迎だ!
 まぁ、船の上でやる試練は1つしか無え!"イカ狩りの試練"だ!!』

 「…」

 『ここらの海域にゃあ、大王イカやクラーケン、テンタクルやタコ入道なんかの軟体生物がウヨウヨ生息してやがる!
 そして俺たち海賊は、その軟体生物が主食の1つだ!
 そこでオッサンにはいずれかの軟体生物を捕獲してきてもらいたい!』

 そこへ、掃除のために通りかかったクルーが騒ぎ立てて来ます。

 『クラーケンには特殊なコラーゲンがたっぷり含まれていてお肌に良いのよん!あちき、食べるならクラーケンが良いわん!』

 『おいどんはたこ焼きが食べたかばい!どうせならタコパやんべタコパ!
 タコ入道狩ってくんろ!』

 『おれテンタクル!』
 『おりゃあスキュラ!!』

 いつの間にかクルー達が集まり、口々に注文を飛ばして来ます。

 「…」
 『だぁりやがれ!!掃除はどうした野郎どもぉ!!!飯抜きにすんぞぉ!』

 『『『いやだあああ!』』』

 クルー達はリーダーに叱られ、一目散に掃除に戻りました。

 『…とまぁこんな風だ。野郎どもは飢えてやがる。
 出来るだけ大量に、たくさんの種類を捕まえて来てくれると助かる。
 なぁに!小舟を貸してやるから安心しな!』

 「…小舟だと?」

 『そうだ!しかもキャプテンの呪印入りのな!
 船から離れすぎたら近くまで転送してくれる優れもんだぜ!!
 だから安心して狩りをしな!
 ケタケタケタケタ!』

 「…なるほどな…
 逃げられんという訳か。」

 『そうそう!逃亡も無理だ!
 まぁ小舟で逃げようなんざ素っ頓狂は、この船にはいないがな!
 無謀も無謀よ!』

 キノクニの皮肉も、リーダーには全く通用しません。まさかキノクニが海賊船を強奪しようとした犯人だとは、つゆほども思っていないようです。

 そうこうしていると、キノクニは小舟に乗せられてしまいました。

 「…むぅ…」

 『リミットは1時間だ!1時間経つと自動的に船に戻されるからな!
 しっかり獲ってこい!ケタケタケタケタ!
 ゴーゴーゴーゴー!!!』

 『『『いってらっしゃーい!
 頼んだぞー!!』』』

 そしてキノクニは、大海のど真ん中に、1人ぽつんと漂っていました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「…以上だ。」

 「なんかお前…異常にツイてへんな…
 やっぱ日頃の行いか?
 なんで海賊船の強盗犯が、海賊志願者になっとんねん。
 普通そこまで話ってこじれへんで。」

 「知らん…」

 「え?てか、もうすぐ1時間経つんとちゃう?獲物狩らんでもええのん?」

 「このまま何も獲らずに戻り、追い出される。不毛過ぎるからな。」

 「大丈夫か…?十中八九は戦闘になるんとちゃう…?」

 「その方が手っ取り早い。どうせ船を使えないのなら、同じことだ。」

 「…ま、そらそうか。」

 あれから時間は40分ほど経過しています。

 キノクニはグリモアに説明し終えると、海面に目をやり、ただただ今後について考えを巡らせていました。

 残り10分となった頃でしょうか。

 キノクニの耳が、大きな泡音を捉えました。

 チャキッ…
     ジャララッ…

 キノクニは双剣に鎖をかませて構えます。

 「何かくる…」

 「ふぁあああ…え?」

 ボコッ

 ボコボコボコボコボコッ…


 ザパアアアアアアアン!!!!

 「コボロコロオオオオオオオオン!!」

 「なんじゃこりゃああああ!!」

 「グリモア!鑑定だ!」

 「は、はいよおお!」

__________________
 名前:大海獣オオボケイカタコ

 種別:海獣 Lv.7

 数値:攻 9800
   :守 5000
   :魔 80
   :運 960

 特性:打撃無効
   :水操作
   :狂暴化
   :強力粘液
   :???

 説明
 イカ、タコ、それぞれの触手と頭、胴
 体を持つ海獣。この個体はまだ若く、
 その身は煮ても焼いても燻しても非常
 に美味である。
__________________  
  
 「オオボケイカタコてなんやねん!
 聞いたこと無いわ!
 打撃は禁物やで!」

 「ぬううう!」

 イカタコは大津波を起こし、キノクニを沈没させようとします。

 キノクニは小舟にしっかりと掴まり、バランスを取って海に落ちないようにしています。

 「あああああ揺れるうううぅ…
 おぇっぷぅ…」

 もしグリモアに胃袋があれば、とっくに胃酸を逆流させていたことでしょう。

 キノクニめがけて、巨大な触手が迫ってきます。

 「ぬりゃああああ!!」

 ジャラララララ!!
 
 キノクニは双剣の一方を他の触手に向けて放ち突き刺すと、その剣の鎖を籠手に巻かせて、フックショットのように飛び移ります。

 「ぬん!!」

 そして今にも小舟を叩き壊さんとする触手にも剣を放ち、凄まじい腕力でもって、自分に向かって引き寄せます。

 びたんっ!!

 触手同士がくっつき、粘液を撒き散らしました。

 キノクニは他の触手にも同じような作業を繰り返し、動きを封じて行きます。

 「ぬん!」

 びたんっ!

 「でりゃあ!!」

 べたんっ!!

 「りゃあ!!」

 びちんっ!

 そして10回もそれを繰り返したところで、全ての触手の動きが止まりました。

 「よっしゃ!
 邪魔な触手は封じたで!!
 いてもうたれ!キノクニ!」

 「ぬあああああっ…!!!」

 ドンッ!!

 キノクニは凄まじい脚力で空を蹴ると、ギュルリと体を前転させ、鎖を伸ばし、丸ノコのような剣閃を描きます。

 ジャラララララララララ!!

 「ぬえりゃあっ!!!!」

 ズパンッ!!

 イカタコはそれぞれの頭をそれぞれの双剣によって、縦一文字に切り裂かれました。

 「コポォオオオオ…」

 ズバシャアアアアン………

 内部組織まで深く抉り裂かれたイカタコは即死し、海に突っ伏し、大波を起こしました。

 キノクニは丁度下に来ていた小舟にスタリと着地しました。

 その時です。

 ジュワアアアアアア…

 「ぬ。」

 「じ、時間や…」

 小舟はキノクニを乗せ、溶けるように消えました。

 オオボケイカタコも共に。

 続きは次回のお楽しみです。
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