のっぺら無双

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記録三十一:続・首都ウォー後日談

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 メールはエドガードに勧められた通り、国立治癒院に来ていました。
 総合窓口でギルド長の書状を見せると、すぐに黒服の執事が現れ、ある病室に案内されました。

 コンコンコンッ

 「ご主人様。お客様でございます。」

 執事が扉越しに声をかけると、中から返事が返ってきました。

 「……帰っていただけ…今はまだ、誰とも会うつもりは無い…」

 「…キノクニ様のお弟子様だそうです…」

 「なにい!?!?」

 ガララッ!

 勢いよく扉が開き、中から病衣姿の若い男が飛び出してきました。

 ゼドです。

 ゼドはあまりの勢いに、執事の後ろにいたメールの目の前まで迫ってしまいます。

 「うわっ!?」

 「きゃっ!」

 「すいません!あああ、あの…貴女は…?」

 「…ご紹介にあずかりました。キノクニさんの弟子?です…」

 「ああああ…貴女のような可憐な方が!?あっ…はっ…すいません!とにかく中へ…!」

 「はぁ…失礼します…」

 メールは、ドギマギするゼドを訝しみながら、部屋に入りました。

 中には浅黒い肌の老人と子供が椅子に座り、白髭の老人がベッドに横たわっていました。

 「くそガンマめ…まだ起きやがらねぇ…おい!凡才ジジイ!
 のっぺら野郎の弟子が来たぞ!!」

 皆さんは知っているでしょう。

 横たわるガンマは目を閉じ、未だに目を覚ましません。

 アモンはガンマに怒鳴りますが、ガンマは微動だにしません。

 カナンは白い金槌を振り、椅子に腹這いになって、じっとメールを見つめています。

 「おねいちゃん弟子ー?」

 「うん…多分。」

 「僕と一緒だー!やー!」

 カナンはパタパタと足をばたつかせ、喜びを表現します。

 「あなたは…?」

 「僕は爺ちゃんの弟子ー!やー!
 それ、いい弓だねー!」

 カナンはメールに駆け寄り、弓をまじまじと見つめます。

 「そうでしょう?うふふ…キノクニさんに作ってもらったの。あなたにはわかるの?」

 「やー!のっぺらの気が宿ってるー!爺ちゃん!寝坊助爺ちゃんなんかほっといて、見てよー!」

 「…嬢ちゃんが弟子とやらか。弓を2ついっぺんに使うんだってなぁ…弓を。」

 「はい。」

 メールは弓を2つとも渡します。

 アモンは座り込み、弓を見始めました。

 「あの…キノクニ様とはどちらで…?」

 ゼドがメールの隣に座り、話始めます。

 「はい…私は元々センジュの樹海近くの村の出身で…___」

 それから、メールはセンジュの樹海でのこと、緑の遺跡でのこと、キノクニが去ったことを話しました。

 「___…私はキノクニさんに救われたのに、その恩を仇で返してしまったんです。
 キノクニさんは気にしていないと思いますけど…ちゃんとお礼を言いたくて。
 …確かめたいこともありますし…」

 「…」

 「あの…ゼドさん?」

 「ぐずっ…ぶふう…わがりまず…メールざんのぎもぢ…ううう…ギノグニザマ…
 わだじも一言、お礼をじだがっだ…
 だっだ100品…おぐりだがっだ…うううう…」

 「あ、あの…大丈夫ですか?」

 メールはハンカチをゼドに渡します。

 「おおおお…なんどお優じい…ざずがはキノクニ様のお弟子様でず…
 ううっ…ぐずっ…」

 ゼドはメールのハンカチで涙をぬぐいます。

 「…ゼドさんは、キノクニさんが好きなのね。」

 「ぞれはもう…ぐすっ…人として、漢として、惚れ込んでおります…はぁ…
 キノクニ様と竜を狩った、マリアン様も素晴らしい方でした…」

 「マリアン…様…?」

 「はい。キノクニ様に教えを乞うて、ついに平原の主まで倒してしまったのです。
 しかも、その主の解体と素材卸しに加工を、我が商会に任せてくださって…
 メールさんと言い、キノクニ様のお弟子様は、皆良い方ばかりです。」

 「そっか…キノクニさんらしいな。ここでも誰かを助けてたんだ…」

 「はい。私も命を救われました…」

 「おい!嬢ちゃん!」

 「はい。」

 アモンが弓を見終わり、メールに話し掛けて来ます。

 「こりゃ、のっぺらが作ったと言ったな?!」

 「はい…」

 「ぬん!」

 バギィ!

 アモンはキノクニの弓を折ってしまいました。

 ドガッ!

 その瞬間、メールは短剣をアモンの首筋に当て、腕をひしぎ上げ、引き倒し押さえ込んでしまいました。

 「…」

 「メールさん?!」

 「やー!!爺ちゃん!」

 メールが瞳を闇に塗りつぶし、無言で首をかき切ろうとしたその時です。

 アモンの手の中の弓がビキビキと音を立てて再生しました。

 「…!」

 メールはそれを見て、短剣をアモンから離し、弓をパッと奪いとりました。

 「…再生してる…」

 「がっ…げぼっ!かはっ!……
 ああー、こりゃ間違い無くあの野郎の弟子だぜ。喝入っちまった。
 がっがっがっ。」

 アモンは起き上がり、首をさすりながら笑います。

 「おまえー!
 爺ちゃんになにするー!」

 「ああー、良い良い。カナン。
 今のは俺が悪かった。悪いことをすれば、その報いがくる。がっがっがっ!」

 「そうなのー?爺ちゃん、めー!」

 「凄い…綺麗に治ってる…」

 「いきなりすまなかったな嬢ちゃん。俺はアモン。
 のっぺら野郎の剣と鎧を作った者だ。」

 「キノクニ様の…?」

 メールの瞳に、徐々に光が戻っていきます。

 「その若さで恐ろしい目をするなぁ。
 のっぺら野郎の殺気にそっくりだ。」

 「…殺す時は、心を無に。
 キノクニさんから教わりました。
 すいません。殺そうとして。」

 「いやいや。この老体に、しっかり火が入ったぜ!
 嬢ちゃん、嬢ちゃんの装備、俺に作らせちゃくんねぇか?」

 「え、でも…私お金は…」

 「がっがっがっ!金はいらねぇ!そのかわり素材は取って来てもらう!
 …おめぇの目的は、のっぺら野郎だろ?」

 「えっ!?…どうしてそれを…」

 「がっがっがっがっがっ!
 それだけその弓を大事にしてたら、嫌でも分からぁ!
 その弓をしっかり精錬してやりゃあ、必ずやアイツの下に導いてくれるはずだぜぇ。」

 「本当ですか!?」

 「お、おおう。食いついたな?
 がっがっがっ!素直なのは良いことだぜぇ!!」

 メールは目をキラキラと輝かせてアモンを見つめます。

 カナンはアモンの服を掴み、アモンの陰からメールを睨んでいます。

 「わ、私もメールさんを支援します!
 キノクニ様を探して下さい!
 我が商会からの指名依頼です!」

 ゼドはアモンに負けじと、メールに駆け寄ります。

 気のせいか、ゼドの顔が赤いのは、きっとメールに惚れたからでしょう。

 「え、でも…」

 「キノクニ様は大切なお客様であり、もはや我が商会の卸し人と言っても過言ではありません!
 あの方を見つけ出してくだされば、報酬さえお渡しいたします!
 どうか支援と依頼を、受けてはくださいませんか!?」

 「はぁ、まぁ…はい。
 わかりました。」

 「おお!さすがはメールさん!
 では後ほど我が屋敷…跡地にて…!」

 ゼドは素早く病衣から仕事着に着替えると、部屋から飛び出して行ってしまいました。

 「大丈夫なの…?」

 「恋は盲目ってな…
 あとは心の問題だったらしいが、もう大丈夫だろ。
 それより、後で俺の鍛冶屋にも来てくれ。色々と打ち合わせる。」

 「はい。伺います。」

 「がっがっがっ!道はゼド坊に聞け!オラ!カナン!帰るぞ!!」

 「やー!バイバイ!
 デストロイヤー!」

 カナンとアモンもまた、部屋から出て行きました。

 「…キノクニさんは、この都で沢山の人を助けたんだ…
 私もここで、やれるだけのこと、出来る事をやって行こう。」

 そう呟くと、メールは執事に案内を頼み、屋敷跡まで案内してもらうことにしました。

 病室には、眠り続けるガンマだけが残されていました。

 …いえ、ベッドの陰から、男が1人出て来ました。

 カゲロウという、ゼドの護衛です。

 ゼドの言い付けで、襲撃事件前に出張していたのですが、今戻って来たようです。

 「爺ちゃん…」

 「…」

 カゲロウはガンマの顔を撫でると、再び陰に潜りました。
 
 護衛任務に戻るために。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 もうじき王国は建国300年を迎えます。

 その祭りの準備で、首都ウォーは俄かに盛り上がっていました。

 まだまだ都には、様々な波乱が眠っているようですが、それはまた別のお話です。

 キノクニは今、何をしているのでしょう?

 無事、魔族領に辿り着けるのでしょうか?

 続きは次回のお楽しみです。

 


 



 
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