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3!審議される令嬢

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デュオランダル家の屋敷にはさまざまな機能が詰め込まれている。

どんな素材も食料も、半永久に劣化しない保存庫。

古今東西、国内だけでなく国外のあらゆる分野の蔵書を収めた書庫。

想定しうるあらゆる災害から身を守ることのできるシェルター。

一流の使用人達と彼ら彼女らを育成する機関、住居。

などなど、数え出せばキリがない。

そんな施設の中でも、技術の粋を集めて作られたのが、"会議室"である。

もちろんただの会議室でなく、巨大な魔結晶と電子機器を部屋に設置し、起動させればいつでも使用者の思い浮かべた人物との遠隔会議を行うことができる。

もちろん、普段の会議であれば、相手に拒否権がある。しかし、今回は別だった。

会議室の中央には、ハンナが鎖でぐるぐる巻きに拘束されている。

眠っているからか、頭の炎は消えている。

「招集しろ。」

『ハイ。ご主人様。』

ブゥン!

暗い空間にいくつもの映像が浮かび上がる。

招集したのはハンナの兄姉でありイフタルの子供達…いずれも一流以上の魔導戦士だ。

『う~ん…なにパパ…今やっと古代竜の狩り終わったとこなんだけど…』
『サマリエル様接続完了。』

『うわ、久々。なに、俺もう勝手に家宝売ったりしてねーよ。なにこれ。なんの用よ親父。』
『ヨキ様接続完了。』

『何用か!父上!犯罪者組織の掃討中ゆえ忙しいのだが!』
『グレイアス様接続完了。』

『やほー!お父さん!!ひっさしぶりー!!元気ー!?』
『ミミミ様接続完了。』

『…』
『カルマ様接続完了。』

「…ご苦労。各々日頃の獅子奮迅なにより。緊急の連絡だ。手短に済むのでそのまま聞け。ハンナは今日限りでデュオランダル家から除名とする。以上。」

『え~8…なんで?』

サマリエルが気怠げに聞いてくる。
ハンナによく竜の素材を土産として持ってくる、竜専門の狩り人だ。

「ハンナはしくじった。恥さらしだ。デュオランダルには相応しくない。」

『なにー!?ハンちん何やったのー?』

ミミミは映像の中でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
歌に魔力を乗せて、他者を癒し力をも増幅させる歌い手のスペシャリストだ。ハンナもよく歌を習っていた。

「魔力暴走を起こした。もはや人では無くなった。」

『どういうことだろうか!』

グレイアスが何者かを斬り捨てつつイフタルを凝視する。
魔導戦士の中でも特に殲滅力と繊細な技術が求められる守護人のエキスパートである彼は、ハンナの剣舞の師範でもある。

「見ろ。」

イフタルの指差す方に、一同が目を向ける。

『うお!!首無し亡者デュラハンじゃん!珍し~!!解剖してー!え!?つかこの国にいたのかよ!?』

ヨキは研究者だ。
武に長けていないと言うわけではなく、そちらの方面に興味があるだけのこと。武力も魔力もデュオランダルの名に恥じないレベルであり、自身の研究の成果により更にそれが高められている。国からも様々な勲章を授与されているが、悪戯好きでトラブルもよく起こす。
ハンナと共に家の家宝庫を探検した際にいくつかの宝物をちょろまかし、イフタルに瀕死に追い込まれた経験を持つ。

「ハンナだ。」

『…魔力暴走による生体構造の変化…獣には度々起こる事象だがまさか…人体にも同じ法則が適用されるのか…興味深い…』

カルマが暗がりで明かりを焚きつつ呟く。この国…というより世界には、先人や魔族、未知の種族が残した遺跡が多々残されている。その遺跡を探索し歴史を明かしていくのがカルマのような探し人の仕事である。危険な生物が潜む遺跡も多く、実力は兄妹の中でも一、二を争う。
東方の国から伝わる刀を使い、どこからか居合いや刀剣術を会得した謎の多い人物。ハンナとはあまり関わりがなく、他の兄妹とはよく言い争いや決闘になっていた。

「ハンナはもう5つにもなる。しかしながらこのような拙い魔力操作。加えて力を制御することのできない性格。成長と教育で矯正できると踏んでいたが不能と判断した。よって今日限りでデュオランダルから除名とする。
異論のある者は。」

『……あってもどうせ聞かないでしょ~?』

『可哀想ー!なんか折衷案ないのー?!てかそれ中々のスキャンダルだしー!』

『俺にくれよ親父!!戻してやるよ!!』

『まずは国に報告すべきだ!父上のこと!また独断だろう!』

『…』

子供達は次々と発言し、次第に騒がしくなっていく。

会議室が声で熱を帯び始めた時だった。

「…うーん…さわがしいですわ…」

『ハンナ…!』
『ハンちんおめざー!寝坊助ー!』
『…目覚めると炎が灯るのか…ますます興味深い…』
『うほーー!!デュラハンだデュラハンだ!!今すぐそこに行きてえ!開きてえーー!!』
『関係者は全て捕縛しろ!容赦はするな!……うむ!麻酔を撃たれているというのに中々に早い目覚め!さすがは母上譲りの魔力の持ち主!!』

「あれ…おにいさま、おねえさま…ご、ごきげんうるわしゅう…おひさしぶりですわ…」

「…目覚めたか。」

議論の中心であるハンナが目覚めた。





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