15 / 59
腐れ大学生の孤軍奮闘編
第14話 ファースト・ワースト・コンタクト
しおりを挟む
ドラゴンと謎の人影との戦闘は、一方的な蹂躙でもって終わった。
素手の拳圧でドラゴンブレスを吹き飛ばしたそいつは、その後、真っ向に駆け出しドラゴンの腹に一撃喰らわせた。
対戦車砲ですら弾き返してしまいそうな鱗の装甲に拳がめり込み、収縮の螺旋を描いた。
それだけでドラゴンはずどんと倒れ込み、呆気なく決着。
腐臭がすごそうだから殺してくれるなとは思ったが、その人物は純粋な戦闘を求めていたらしく、ドラゴンにトドメを差すことはなかった。
ぴくぴくと痙攣する大トカゲを足蹴にした後、そいつは振り返ってこちらを見上げた。
目が合った。
「なんと」
どんな豪傑が拳を振るっているのかと思いきや、意外なことに、そいつは女性であった。
少なくとも、私には女性に見えた。
さて、ドラゴンをワンパンで沈めた彼女は、一体これからどうするのかと動向を目で追おうとしたら、
「Zao Fa」
「うわ」
びっくりした。
いきなり彼女の姿が視界から消えたかと思いきや、一体どんな力を使ったのか、次の瞬間には、眼の前のガラス越しにいたのだ。
切れ長の目が、私をじろじろと眺めていた。
そんなに見つめるのならばお返しだと思って、私も彼女の顔をまじまじと見つめてやった。
なんとなく、崇高な西洋絵画を思わせるような顔立ちだった。
特徴的なのは瞳であった。形状的にはそこまで私と差異はないが、色が違った。
角膜は琥珀のような鮮やかな黄金色で、瞳孔は真っ黒。どことなく、卵かけご飯を彷彿とさせる色合いだ。
すらりとした鼻筋や、薄い唇、帽子の隙間から垂れるひと束の銀髪、ゆったりとした襟元から覗く白い首筋など、諸々の要素をひっくるめて、私は、彼女に美というものを感じていた。
なぜそう思うのかという疑問については、眺めているうちにわかった。どことなく、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画モナリザに似ているのだ。
個々のパーツ自体はそうでもないから、似ているのは印象だろう。
つまり、彼女の顔のパーツとその配置には、人間心理に影響する数学的な美の比率、黄金比というものが採用されているのだ。
「yo nie kun!」
私が美術品を眺める感覚で彼女を見つめていると、向こうは分析が終わったのか、気さくな挨拶と思しき言葉を投げかけてきた。
「na tu? na chi kun? wae mi mame.wae mo nyu chuh,to mame chuh.yo?」
しかし、当然のことながら、何を言っているのかさっぱりわからん。
言葉尻が上がっているのを、疑問文だと捉えるならば、大方、突然出現したこの奇怪な建物について尋ねているのだという予測がつく。
「この建物は何? あんたは誰?」といったところか。
彼女はドラゴン相手はいざ知らず、同じ二足歩行霊長類の私に対しては敵意といったものを抱いていないようだ。
私はどうしようかと考えた。
出会い頭で警戒されてもおかしくないのに、むしろフレンドリーに話しかけてきたのは僥倖といえる。異文化交流の第一歩としてはこれ以上ないくらい、幸先の良いスタートと言えるだろう。
まぁ、戸を開けても問題なかろう。
眼の前の彼女が悪意というものを巧妙に隠して接近する奴隷商人だった場合、即刻私の物語は終わることになるが、私は持ち前の向こう見ずな性格の赴くまま、戸を開けた。
決して、彼女の美貌に下心が沸いたワケではないことを弁明しておく。
「よーにぇくん」
かといってコミュニケーションの取り方も何もわからんので、手始めに、私は最初に投げかけられた挨拶らしきものを返した。
なるべく発音を真似て、気さくに挨拶したつもりだったのだが、
「xai na!」
途端、彼女の顔が鬼の形相に変わった。
「na mmame wae kun! ba wae kyoh pi tan,ate wae chen na jie!」
何を言われているのかはわからんが、口角泡を飛ばす様子からして、とにかく怒り狂っているのだけは伝わった。
たかが三音の言葉に一体どんな意味が込められていたのか知る由もないが、ファーストコンタクトをミスってしまったことは恐らく事実である。
私はすぐさま戸を閉めて、鍵をかけた。
かくして、異世界交流は、第一歩目から躓くこととなる。
素手の拳圧でドラゴンブレスを吹き飛ばしたそいつは、その後、真っ向に駆け出しドラゴンの腹に一撃喰らわせた。
対戦車砲ですら弾き返してしまいそうな鱗の装甲に拳がめり込み、収縮の螺旋を描いた。
それだけでドラゴンはずどんと倒れ込み、呆気なく決着。
腐臭がすごそうだから殺してくれるなとは思ったが、その人物は純粋な戦闘を求めていたらしく、ドラゴンにトドメを差すことはなかった。
ぴくぴくと痙攣する大トカゲを足蹴にした後、そいつは振り返ってこちらを見上げた。
目が合った。
「なんと」
どんな豪傑が拳を振るっているのかと思いきや、意外なことに、そいつは女性であった。
少なくとも、私には女性に見えた。
さて、ドラゴンをワンパンで沈めた彼女は、一体これからどうするのかと動向を目で追おうとしたら、
「Zao Fa」
「うわ」
びっくりした。
いきなり彼女の姿が視界から消えたかと思いきや、一体どんな力を使ったのか、次の瞬間には、眼の前のガラス越しにいたのだ。
切れ長の目が、私をじろじろと眺めていた。
そんなに見つめるのならばお返しだと思って、私も彼女の顔をまじまじと見つめてやった。
なんとなく、崇高な西洋絵画を思わせるような顔立ちだった。
特徴的なのは瞳であった。形状的にはそこまで私と差異はないが、色が違った。
角膜は琥珀のような鮮やかな黄金色で、瞳孔は真っ黒。どことなく、卵かけご飯を彷彿とさせる色合いだ。
すらりとした鼻筋や、薄い唇、帽子の隙間から垂れるひと束の銀髪、ゆったりとした襟元から覗く白い首筋など、諸々の要素をひっくるめて、私は、彼女に美というものを感じていた。
なぜそう思うのかという疑問については、眺めているうちにわかった。どことなく、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画モナリザに似ているのだ。
個々のパーツ自体はそうでもないから、似ているのは印象だろう。
つまり、彼女の顔のパーツとその配置には、人間心理に影響する数学的な美の比率、黄金比というものが採用されているのだ。
「yo nie kun!」
私が美術品を眺める感覚で彼女を見つめていると、向こうは分析が終わったのか、気さくな挨拶と思しき言葉を投げかけてきた。
「na tu? na chi kun? wae mi mame.wae mo nyu chuh,to mame chuh.yo?」
しかし、当然のことながら、何を言っているのかさっぱりわからん。
言葉尻が上がっているのを、疑問文だと捉えるならば、大方、突然出現したこの奇怪な建物について尋ねているのだという予測がつく。
「この建物は何? あんたは誰?」といったところか。
彼女はドラゴン相手はいざ知らず、同じ二足歩行霊長類の私に対しては敵意といったものを抱いていないようだ。
私はどうしようかと考えた。
出会い頭で警戒されてもおかしくないのに、むしろフレンドリーに話しかけてきたのは僥倖といえる。異文化交流の第一歩としてはこれ以上ないくらい、幸先の良いスタートと言えるだろう。
まぁ、戸を開けても問題なかろう。
眼の前の彼女が悪意というものを巧妙に隠して接近する奴隷商人だった場合、即刻私の物語は終わることになるが、私は持ち前の向こう見ずな性格の赴くまま、戸を開けた。
決して、彼女の美貌に下心が沸いたワケではないことを弁明しておく。
「よーにぇくん」
かといってコミュニケーションの取り方も何もわからんので、手始めに、私は最初に投げかけられた挨拶らしきものを返した。
なるべく発音を真似て、気さくに挨拶したつもりだったのだが、
「xai na!」
途端、彼女の顔が鬼の形相に変わった。
「na mmame wae kun! ba wae kyoh pi tan,ate wae chen na jie!」
何を言われているのかはわからんが、口角泡を飛ばす様子からして、とにかく怒り狂っているのだけは伝わった。
たかが三音の言葉に一体どんな意味が込められていたのか知る由もないが、ファーストコンタクトをミスってしまったことは恐らく事実である。
私はすぐさま戸を閉めて、鍵をかけた。
かくして、異世界交流は、第一歩目から躓くこととなる。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる