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腐れ大学生の孤軍奮闘編
第11話 ドラゴンブレスの炎色反応
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その空飛ぶ大トカゲは、明らかに、学生寮もしくは私の存在に気付いていた。
もしかすると、この森林自体があの大トカゲの縄張りなのかもしれない。
だとすると、いきなり森林のど真ん中にぽつんと建った学生寮というのは、そいつからしてみれば、警戒あるいは撃退して然るべき対象となるだろう。
大口ぐわっと開けて、翼をはためかせ、前傾姿勢で向かってくるのも納得の理屈である。
「大丈夫だよな。大丈夫だろう。大丈夫だきっと」
私は自分に言い聞かせるように呂律を回し、それでもやっぱり怖いので、部屋から避難。ドアの隙間から目だけを覗かせ、事態の成り行きを見守った。
鷹のような優れた視力でも持っているようで、大トカゲは私がいる最上階の部屋めがけて降下してきた。
どしん。
ベランダに、爪を立てて着地する。大きすぎて腕ですら全容が把握できないが、三又の指の一本だけで、私の胴体が一刀両断できそうなサイズだった。
「GRRRRRRRRRRR!!」
獲物を恐怖で硬直させるためなのか、大トカゲはわざわざ部屋をぎょろりと睨めつけてから、自慢の大きなお口を開けて咆哮した。
大きな花火が打ち上がった時のような音の振動が、窓ガラスを通過して私の全身を襲う。
人間としての尊厳を保つため、記述の上では平静さを保っていた私であるが、内心、体中の穴という穴から様々な汁が吹き出してしまいそうなくらい怖かった。
漏らすのが涙だけで済んだのは僥倖であったと言えるだろう。
私がマッサージ機もかくやというほどに震えているうちに、大トカゲの胸が膨らみ、窓で区切られた視界から頭が見えなくなった。
それは、人が山の頂などで大きく深呼吸する時の姿とよく似ていた。
息を、力強く吐き出そうとする所作である。
我々人類が吐き出せるものといえば、二酸化炭素やあるいは胃の内容物くらいなのだが、いわゆるドラゴンと呼ばれる大トカゲともなると、炎やら、雷やら、強烈な音波やらを出せてもおかしくはない。
私はとりあえず、鼓膜を守るために耳を抑えた。
瞬間。
「BLUAAAAAAAAAAAAAA‼」
部屋の中が鮮やかな黄色に染まった。
窓の外では、ごうごうと黄色の炎が燃え盛っていて、窓ガラスがなんとかその侵入を防いでいた。
どうやら、ドラゴンが炎の息を吐いたらしい。
あまりの恐怖で脳裏にインスタントな走馬灯が流れ、私は、中学生の頃に理科の授業で習った炎色反応の対応表を思い出していた。
炎が黄色に染まるのは、一体何の物質によるものだったか。
大トカゲの主食はきっと吐く息の色にも影響を及ぼすのだろうな、なんてのんきなことを、震えながら考える。
「安全だとはわかっていても、恐ろしいものは恐ろしいな」
私はなんとか強がって、そのようなことを呟く。
RPGなら確実に全体強攻撃なドラゴンブレスを、チンケな窓ガラスが防いでくれたのは、異世界のドラゴンが現世の科学に負けた、なんて理屈では勿論ない。
普通であれば、こんなオンボロ学生寮、ドラゴンが着地しただけで崩壊してもおかしくはないのだ。
学生寮の大倒壊を防ぐことができたのは、この『監獄』が、女神の加護を受けているからに過ぎなかった。
もしかすると、この森林自体があの大トカゲの縄張りなのかもしれない。
だとすると、いきなり森林のど真ん中にぽつんと建った学生寮というのは、そいつからしてみれば、警戒あるいは撃退して然るべき対象となるだろう。
大口ぐわっと開けて、翼をはためかせ、前傾姿勢で向かってくるのも納得の理屈である。
「大丈夫だよな。大丈夫だろう。大丈夫だきっと」
私は自分に言い聞かせるように呂律を回し、それでもやっぱり怖いので、部屋から避難。ドアの隙間から目だけを覗かせ、事態の成り行きを見守った。
鷹のような優れた視力でも持っているようで、大トカゲは私がいる最上階の部屋めがけて降下してきた。
どしん。
ベランダに、爪を立てて着地する。大きすぎて腕ですら全容が把握できないが、三又の指の一本だけで、私の胴体が一刀両断できそうなサイズだった。
「GRRRRRRRRRRR!!」
獲物を恐怖で硬直させるためなのか、大トカゲはわざわざ部屋をぎょろりと睨めつけてから、自慢の大きなお口を開けて咆哮した。
大きな花火が打ち上がった時のような音の振動が、窓ガラスを通過して私の全身を襲う。
人間としての尊厳を保つため、記述の上では平静さを保っていた私であるが、内心、体中の穴という穴から様々な汁が吹き出してしまいそうなくらい怖かった。
漏らすのが涙だけで済んだのは僥倖であったと言えるだろう。
私がマッサージ機もかくやというほどに震えているうちに、大トカゲの胸が膨らみ、窓で区切られた視界から頭が見えなくなった。
それは、人が山の頂などで大きく深呼吸する時の姿とよく似ていた。
息を、力強く吐き出そうとする所作である。
我々人類が吐き出せるものといえば、二酸化炭素やあるいは胃の内容物くらいなのだが、いわゆるドラゴンと呼ばれる大トカゲともなると、炎やら、雷やら、強烈な音波やらを出せてもおかしくはない。
私はとりあえず、鼓膜を守るために耳を抑えた。
瞬間。
「BLUAAAAAAAAAAAAAA‼」
部屋の中が鮮やかな黄色に染まった。
窓の外では、ごうごうと黄色の炎が燃え盛っていて、窓ガラスがなんとかその侵入を防いでいた。
どうやら、ドラゴンが炎の息を吐いたらしい。
あまりの恐怖で脳裏にインスタントな走馬灯が流れ、私は、中学生の頃に理科の授業で習った炎色反応の対応表を思い出していた。
炎が黄色に染まるのは、一体何の物質によるものだったか。
大トカゲの主食はきっと吐く息の色にも影響を及ぼすのだろうな、なんてのんきなことを、震えながら考える。
「安全だとはわかっていても、恐ろしいものは恐ろしいな」
私はなんとか強がって、そのようなことを呟く。
RPGなら確実に全体強攻撃なドラゴンブレスを、チンケな窓ガラスが防いでくれたのは、異世界のドラゴンが現世の科学に負けた、なんて理屈では勿論ない。
普通であれば、こんなオンボロ学生寮、ドラゴンが着地しただけで崩壊してもおかしくはないのだ。
学生寮の大倒壊を防ぐことができたのは、この『監獄』が、女神の加護を受けているからに過ぎなかった。
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