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第十六章 様々な侵入者
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総裁との会話はほとんど理解を超えていた。
それがいったいどのような具体的な事象に結びつくのか、全く分からなかった。数学の難問を突き付けられ、全く理解できないのに回答を求められているような何とも言えないもどかしさだけが残った。
この世界の不可解さは、単に頭脳の中だけではなく具体的な視野や行動にまで影響した。頭の中がもやもやするごとに、廻りの背景は後退し、直接係りにある人たちやその周りのものだけが更に際だっていった。街を歩く女性たちは、ほぼ全員ファッション誌のグラビアのように、美しく颯爽と闊歩していたが、何の奥行きもなく現実感もなく自分の気持ちに訴えかけるようなものも持ち合わせていなかった。公園のトイレに入っても、丸見えの個室に次々にしゃがみこむ女性たちを見ても、まるで売れないアダルトビデオの予告篇のように、ただ丸見えになっているだけで、かつてかきたてられた欲情など全くおきなくなってしまっていた。街ははずれの学校でも、女子高生はただ騒がしいだけで、編集し損ねた素人の写した8mmビデオのようだった。
時折訪れる基地と前線の城郭の様子が唯一の現実味を帯びた光景だった。しかし、訪れるたびに緊張感は薄れマンネリ化した光景となった。その中で唯一の刺激は、週1回の総裁すなわち本部の美少女との女どうしの交わりだった。
不審者もピンクハウスも暫く出現しない気だるい日常が数か月続いた。
早朝の自宅に運転手が迎えにきた。
突如ピンクハウス出現した、という情報が入ったからだ。
「朝早くから申し訳ありません。あのフリヒラ女が突然現れまして。」
「わかりました。すぐ基地に行きましょう。」
私は、スーツを着込み、武器を携帯すると軍用車に乗り込んだ。化粧をする暇もなかった。すっぴんのままだ。
「どういう状態なのですか?」
「城郭や城壁の近辺をやみくもに走り回っているのです。」
「いつから?」
「昨日からですが、時折姿が見えなくなりしばらく行方不明になって静かになったと思うと、また別の場所に突然現れて・・・」
「こちらの世界と彼女の世界との共鳴が乱れているのですね。」
「・・・?」
「何か、被害はあったのですか?」
「被害というわけではないのですが、誰かを探しているような様子で意味不明の大声をあげながら走り回っていて、兵士の中にも怯えている者も多いのです。」
「そうですか。」
彼女は精神的に大きなダメージを受けているはずだった。おそらく家族の元へ帰ろうと、出口を探して走り回っているのではないだろうか。そもそも、崩壊した頭脳の中の妄想の世界など想像を絶するもののはずだ。私のような単純な妄想の世界のわけがない。それが私の妄想の世界と共鳴するということ自体どうなるのだろうか。一種の恐怖を覚えた。
基地に近づいた。
突然、基地の外にある繁みから奇声が聞こえた。藪の中にピンクハウスがいた。葉の生い茂った背丈ほどの常緑樹に向かって叫んでいた。何と叫んでいるのかわからない。樹木が人に見えるのだろうか。
「どうしましょうか。私も一応武器は携帯していますが。」
「基地の外だし、我々の施設や兵士に危害を加えているわけではないので、放置しておきましょう。まずは司令官との協議を優先です。」
それがいったいどのような具体的な事象に結びつくのか、全く分からなかった。数学の難問を突き付けられ、全く理解できないのに回答を求められているような何とも言えないもどかしさだけが残った。
この世界の不可解さは、単に頭脳の中だけではなく具体的な視野や行動にまで影響した。頭の中がもやもやするごとに、廻りの背景は後退し、直接係りにある人たちやその周りのものだけが更に際だっていった。街を歩く女性たちは、ほぼ全員ファッション誌のグラビアのように、美しく颯爽と闊歩していたが、何の奥行きもなく現実感もなく自分の気持ちに訴えかけるようなものも持ち合わせていなかった。公園のトイレに入っても、丸見えの個室に次々にしゃがみこむ女性たちを見ても、まるで売れないアダルトビデオの予告篇のように、ただ丸見えになっているだけで、かつてかきたてられた欲情など全くおきなくなってしまっていた。街ははずれの学校でも、女子高生はただ騒がしいだけで、編集し損ねた素人の写した8mmビデオのようだった。
時折訪れる基地と前線の城郭の様子が唯一の現実味を帯びた光景だった。しかし、訪れるたびに緊張感は薄れマンネリ化した光景となった。その中で唯一の刺激は、週1回の総裁すなわち本部の美少女との女どうしの交わりだった。
不審者もピンクハウスも暫く出現しない気だるい日常が数か月続いた。
早朝の自宅に運転手が迎えにきた。
突如ピンクハウス出現した、という情報が入ったからだ。
「朝早くから申し訳ありません。あのフリヒラ女が突然現れまして。」
「わかりました。すぐ基地に行きましょう。」
私は、スーツを着込み、武器を携帯すると軍用車に乗り込んだ。化粧をする暇もなかった。すっぴんのままだ。
「どういう状態なのですか?」
「城郭や城壁の近辺をやみくもに走り回っているのです。」
「いつから?」
「昨日からですが、時折姿が見えなくなりしばらく行方不明になって静かになったと思うと、また別の場所に突然現れて・・・」
「こちらの世界と彼女の世界との共鳴が乱れているのですね。」
「・・・?」
「何か、被害はあったのですか?」
「被害というわけではないのですが、誰かを探しているような様子で意味不明の大声をあげながら走り回っていて、兵士の中にも怯えている者も多いのです。」
「そうですか。」
彼女は精神的に大きなダメージを受けているはずだった。おそらく家族の元へ帰ろうと、出口を探して走り回っているのではないだろうか。そもそも、崩壊した頭脳の中の妄想の世界など想像を絶するもののはずだ。私のような単純な妄想の世界のわけがない。それが私の妄想の世界と共鳴するということ自体どうなるのだろうか。一種の恐怖を覚えた。
基地に近づいた。
突然、基地の外にある繁みから奇声が聞こえた。藪の中にピンクハウスがいた。葉の生い茂った背丈ほどの常緑樹に向かって叫んでいた。何と叫んでいるのかわからない。樹木が人に見えるのだろうか。
「どうしましょうか。私も一応武器は携帯していますが。」
「基地の外だし、我々の施設や兵士に危害を加えているわけではないので、放置しておきましょう。まずは司令官との協議を優先です。」
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