深い森の彼方に

とも茶

文字の大きさ
上 下
85 / 95
第十六章 様々な侵入者

16-2

しおりを挟む
私がこの世界に来たとき、私はそもそもどのような扱いだったのだろうか。私が抱いている妄想の世界に来たのではないのか。たまたま、同じ種類の既存の妄想の世界に飛び込んできて、改造された結果なのか。もし、順調に女性化ができなかったら、生理が来るような本当の女性になれなかったら、処分されていたのだろうか。それとも、リーダーに追放されて森の中を彷徨った、あれが処分なのだろうか。
私の妄想で成り立っていながら、私の関知しないところで、多くの現実が進行しているような気がする。私は今後どうなるのだろうか。
もう一つ気になる言葉を司令官は口にしていた。「前のリーダーはフリヒラ女と言っていた」ということだ。ピンクハウスのことを、リーダーは「フリヒラ女」と呼んでいた。司令官は、リーダーの言ったことをそのまま表現しているはずだ。これだけなら、紺のワンピースを着た背の高い女性のことを何と呼んでいたか、「ノッポの女」ということであればそれもリーダーの表現だ。確認するまでもないことだろう。問題は「前のリーダー」と言っていたのだ。リーダーと最後に会ってから1年近くたつ。その最後の姿も若々しいリーダーではなかった。初老の姿だった。リーダーはどうしたというのだろうか。今は別のリーダーがいるというのだろうか。

「確認したいことがあるんですが。」
「何でしょう。」
「紺のワンピースを着た背の高い女性、その人は私の友人でした。」
「お知り合いだったのですか。」
「会いたいのです。」
「・・・」
「会う方法を教えてください。」
暫く沈黙が続いた。
「まさか、処刑されてしまったのでは。」
「そんなことはありません。」
「じゃあ、どこに。」
「たぶんお会いになることはできません。いや、方法はあるかもしれませんが、私にも総裁にも、できません。申し訳ありません。」
「やはり、そうですか。」
「もう、かなり向こうに行ってしまったものと思います。」
「じゃあ、あのフリルやレースのあるお姫様のような恰好をした人とは、あなた方がフリヒラ女と呼んでいる人とは。」
「それも私にはできません。」
「・・・」
「でもその女は、最近まで出現していたようなので、また突然出会うかもしれません。でも私にはその保証はできませんし、どうしたら会えるかもわかりません。どうですか総裁。」
途中から私と司令官のやり取りの場に同席していた総裁(すなわち本部の美少女)も暫く考えたうえで答えた。
「私たちの世界はここで完結しています。この前申し上げたとおり、あの女性たちは異世界に住む人です。たまたま、何らかの事情で共鳴してスリップしてきただけなのです。」
「また、スリップしてここに来ることもあるのでは。」
「物理的に紛れ込んできた、と理解しないほうがいいと思います。双方で認識している世界、それは全く異なる世界ですが、何らかの事情で重なりあったと考えるべきだと思います。お互いに話はできるのですが、実際に認知しているその周囲の世界は全く別物です。」
「・・・」
「この世界では、あのフリヒラ女は地下街の管理室でセーラー服姿の司令官と言い争いをしていたと私たちは認識しています。しかし、フリヒラ女自体は、商業施設のインフォメーションでピンクのワンピースを着た管理人と話をしていたという認識かもしれません。あるいは、私たちと全く同じ認識という可能性もないわけではありません。一人一人の主観はその人以外、本当は誰もわからないのです。異世界のステージで演技をしている人が、私たちの世界と共鳴して、私たちの世界では私たちのステージでその人が演技しているように見えるということなのです。それにもっと不思議なことに、その人と会話ができて、その会話限りでは辻褄があうということなのです。しかし、その背景や相手の見え方は実は全く違っているのではないかと思われるのです。でもはっきりしたことはわかりません。だから、私たちはあのフリヒラ女がいつこの世界に現れるかなど全くわからないのです。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

ようこそ、悲劇のヒロインへ

一宮 沙耶
大衆娯楽
女性にとっては普通の毎日のことでも、男性にとっては知らないことばかりかも。 そんな世界を覗いてみてください。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

或る実験の記録

フロイライン
BL
謎の誘拐事件が多発する中、新人警官の吉岡直紀は、犯人グループの車を発見したが、自身も捕まり拉致されてしまう。

処理中です...