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第十三章 もう一人の指導者
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宿舎にもう1泊して、町に戻った。
ピンクハウスの女と会って、だいぶ私自身が持つこの世界についてのイメージも整理されてきた。
この世界は、長身の娘と話し合って想像してきたように、妄想から生まれた世界、そしてあのピンクハウスの女も同じような妄想でこの世界にやってきた。
でもよく聞くと少し場面がある。同じように城郭を通りぬけて来たようだが、少し構造が違う。それに、私は深い森を通って来た。しかし、彼女は砂漠を通ってきたという。この世界にたどり着くルートもすこし違うようだ。なんとしても、あの城郭に行って更に向こうの深い森を確認してみたい。
今度は、地下街の管理人にあたってみようと思った。
リーダーとはかなり親密そうに話をしていたのを見たことがある。私たちとある程度平等に会話ができるのではないだろうか。それにジャンパースカートはこの世界の就業女子としてはそれなりのレベルである証拠だ。
でも何で白のブラウスにジャンパースカートなのか。一昔前の女子高生の制服だ。セーラー服を依怙地に守っている女子高はあるが、濃紺のジャンパースカートにブレザーはほぼ淘汰されて、チェックのプリーツスカートになってしまったのではないか。
それに、ピンクハウスの女はあのようなロリータ風の服が好みだったようだ。それで、この世界ではあの恰好に。私はどうだ。制服姿はどちらかと言えば好みだったような気がするが、リーダーに与えられた服は最初は制服のようなものだったが、今の自分は全然制服ではない。
地下街は、目を瞑っても行ける場所だ。片隅の管理室を覗くと黄ばんだブラウスとプリーツスカートの女が所在なげに座っていた。
「すみません、管理人さんはいないんですか。」
「さあ・・・」
「いつもここにいらっしゃったのに。」
「最近は、いないことが多いです。」
「どこにいることが多いんですか?」
「基地とか言ってましたけど。」
「基地?」
「軍隊の?」
「そう。」
「管理人さんは軍人なんですか。」
「詳しくは知らないけど、基地に行ってみたらどうです?」
「基地にはどう行けばいいんですか。」
「さあ」
全く要領を得ない女だった。
基地といえば、あの城郭のすぐそばに基地があって、女兵士が訓練をしていたあそこのことか。はたして行けるのだろうか。
地下街を出て、記憶をたどりながらオフィス街を歩いた。こんな時にタクシーでもあれば、と思ったが、この世界に自動車はほんのわずかだ。車を見掛けることすらほとんどないのに、タクシーがあるわけがない。
しばらく市街地を基地があると思われる方角にあるいていくと、道路の片隅に何やら建築材料らしきものを積んだ軽トラックが停まっていた。自動車が身近に見かけることもこの世界では珍しい。
「すみません、どちらに行くんですか?」
「どっちって、現場だよ。」
荷台にロープを掛けていた女も、埃だらけの濃紺のサージのプリーツスカート姿だった。
「基地のほうには行きませんか。もし行かれるのでしたら便乗させてもらいたいと思ったのですが。」
「基地には行かないなあ、我々一般人があまり立入できないから。それでも、基地の途中までなら行くので、それでも良ければ乗っていいよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
助手席に乗り込んだが、お仕事に行くワンボックスカーより悲惨な状態だった。助手席のシートは破れてばねが飛び出していた。扉は錆びて穴が開いていた。
「じゃあ行くよ、お嬢さん。揺れるから覚悟しておくれ。」
4回ほどキーを回してようやくエンジンがかかった。荷台の後ろから黒煙が噴き出している。低速ギアで激しくアクセルを踏み込んで、ようやく動き出した。そもそも、自動車が走ることを想定していない石畳の道は、激しく揺れる。石が外れたり、陥没していたりするところも、全く補修していない。歩くためには何の支障もないからだ。
穴にタイヤが落ちるたびに激しく揺れた。荷台の建築材料は甲高い音をたてる。大きな溝に嵌ったとき、けたたましい金属音とともに自動車は止まった。運転手は飛び降りると
「ああ、もうだめだ。」
私も外に出たが、タイヤは溝に嵌り歪んでいた。走りそうもない。
「お嬢さん、もうだめだ。悪いけどこの先は歩いて行ってくれ。」
「そんな、場所がわからないのに。」
「まっすぐ行けばいいよ。すれ違った人に聞けばいい。」
いいかげんな返事だ。
「基地までどのくらいかかるんですか?」
「歩いて1時間、2時間かな。もっとかかるかもしれない。」
ようするに、わからないということだ。周囲を見渡してもいつもの町から外れていることは確かだ。しかも見慣れない光景だ。
「じゃあ、私は行ってみます。ありがとうございました。」
「ああ、悪かったね。役にたたなくて。気を付けて行ってよ。」
何処に何があるかわからないというのが、この世界の特徴だった。自由に動ける自動車があればいいのに、と思って見つけた軽トラックはあんな状況だ。いつものワンボックスカーが来てくれれば、と思った。あの若い運転手でなくてもいい。ぶっきらぼうな中年の運転手でも来てくれないのか。「お仕事」に行くとき以外に一度も見かけたことのないワンボックスカーがこんなところで出会うわけもない、と思いつつ何か偶然を期待しながら町から続く凸凹の道路を見つめた。
ピンクハウスの女と会って、だいぶ私自身が持つこの世界についてのイメージも整理されてきた。
この世界は、長身の娘と話し合って想像してきたように、妄想から生まれた世界、そしてあのピンクハウスの女も同じような妄想でこの世界にやってきた。
でもよく聞くと少し場面がある。同じように城郭を通りぬけて来たようだが、少し構造が違う。それに、私は深い森を通って来た。しかし、彼女は砂漠を通ってきたという。この世界にたどり着くルートもすこし違うようだ。なんとしても、あの城郭に行って更に向こうの深い森を確認してみたい。
今度は、地下街の管理人にあたってみようと思った。
リーダーとはかなり親密そうに話をしていたのを見たことがある。私たちとある程度平等に会話ができるのではないだろうか。それにジャンパースカートはこの世界の就業女子としてはそれなりのレベルである証拠だ。
でも何で白のブラウスにジャンパースカートなのか。一昔前の女子高生の制服だ。セーラー服を依怙地に守っている女子高はあるが、濃紺のジャンパースカートにブレザーはほぼ淘汰されて、チェックのプリーツスカートになってしまったのではないか。
それに、ピンクハウスの女はあのようなロリータ風の服が好みだったようだ。それで、この世界ではあの恰好に。私はどうだ。制服姿はどちらかと言えば好みだったような気がするが、リーダーに与えられた服は最初は制服のようなものだったが、今の自分は全然制服ではない。
地下街は、目を瞑っても行ける場所だ。片隅の管理室を覗くと黄ばんだブラウスとプリーツスカートの女が所在なげに座っていた。
「すみません、管理人さんはいないんですか。」
「さあ・・・」
「いつもここにいらっしゃったのに。」
「最近は、いないことが多いです。」
「どこにいることが多いんですか?」
「基地とか言ってましたけど。」
「基地?」
「軍隊の?」
「そう。」
「管理人さんは軍人なんですか。」
「詳しくは知らないけど、基地に行ってみたらどうです?」
「基地にはどう行けばいいんですか。」
「さあ」
全く要領を得ない女だった。
基地といえば、あの城郭のすぐそばに基地があって、女兵士が訓練をしていたあそこのことか。はたして行けるのだろうか。
地下街を出て、記憶をたどりながらオフィス街を歩いた。こんな時にタクシーでもあれば、と思ったが、この世界に自動車はほんのわずかだ。車を見掛けることすらほとんどないのに、タクシーがあるわけがない。
しばらく市街地を基地があると思われる方角にあるいていくと、道路の片隅に何やら建築材料らしきものを積んだ軽トラックが停まっていた。自動車が身近に見かけることもこの世界では珍しい。
「すみません、どちらに行くんですか?」
「どっちって、現場だよ。」
荷台にロープを掛けていた女も、埃だらけの濃紺のサージのプリーツスカート姿だった。
「基地のほうには行きませんか。もし行かれるのでしたら便乗させてもらいたいと思ったのですが。」
「基地には行かないなあ、我々一般人があまり立入できないから。それでも、基地の途中までなら行くので、それでも良ければ乗っていいよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
助手席に乗り込んだが、お仕事に行くワンボックスカーより悲惨な状態だった。助手席のシートは破れてばねが飛び出していた。扉は錆びて穴が開いていた。
「じゃあ行くよ、お嬢さん。揺れるから覚悟しておくれ。」
4回ほどキーを回してようやくエンジンがかかった。荷台の後ろから黒煙が噴き出している。低速ギアで激しくアクセルを踏み込んで、ようやく動き出した。そもそも、自動車が走ることを想定していない石畳の道は、激しく揺れる。石が外れたり、陥没していたりするところも、全く補修していない。歩くためには何の支障もないからだ。
穴にタイヤが落ちるたびに激しく揺れた。荷台の建築材料は甲高い音をたてる。大きな溝に嵌ったとき、けたたましい金属音とともに自動車は止まった。運転手は飛び降りると
「ああ、もうだめだ。」
私も外に出たが、タイヤは溝に嵌り歪んでいた。走りそうもない。
「お嬢さん、もうだめだ。悪いけどこの先は歩いて行ってくれ。」
「そんな、場所がわからないのに。」
「まっすぐ行けばいいよ。すれ違った人に聞けばいい。」
いいかげんな返事だ。
「基地までどのくらいかかるんですか?」
「歩いて1時間、2時間かな。もっとかかるかもしれない。」
ようするに、わからないということだ。周囲を見渡してもいつもの町から外れていることは確かだ。しかも見慣れない光景だ。
「じゃあ、私は行ってみます。ありがとうございました。」
「ああ、悪かったね。役にたたなくて。気を付けて行ってよ。」
何処に何があるかわからないというのが、この世界の特徴だった。自由に動ける自動車があればいいのに、と思って見つけた軽トラックはあんな状況だ。いつものワンボックスカーが来てくれれば、と思った。あの若い運転手でなくてもいい。ぶっきらぼうな中年の運転手でも来てくれないのか。「お仕事」に行くとき以外に一度も見かけたことのないワンボックスカーがこんなところで出会うわけもない、と思いつつ何か偶然を期待しながら町から続く凸凹の道路を見つめた。
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