深い森の彼方に

とも茶

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第六章 新たな生活 いじめに耐える

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三日後リーダーは約束どおり私が横たわっている小部屋にやってきた。
「起きろ。早くこれに着替えろ。」
日にちの感覚がなくなるほど横になり続けていたおかげで、ベッドから降りると眩暈がして倒れそうになった。
「しっかりしろ。」
久しぶりにリーダーの拳が飛んできた。目が覚めた。ベッドを見ると服が投げ出されていた。下着は綿の変哲のないものではなく、薄いピンクのブラとショーツのペア下着、それにパンストもあった。白いブラウスは着古したものではなく新品だった。そしてサージのプリーツスカートではなく、濃いグレーのベストとタイトスカートだった。そして床に置かれた黒のミドルヒールのパンプスを履くとすっかりOLの姿になった。
「化粧を忘れるな。」
いつもの化粧ポーチから道具を取り出しあわてて化粧をし、ヘアブラシでまださほど伸びていない髪を整えた。
「いくぞ。」
再び、町の中心部に向かって足を進めるリーダーについていった。陰嚢の切断部の痛みは全くなかったが、新たにあけられた股間の穴は挿入されたままの異物のせいもあって早足であるくと痛んだ。それに、さほど整備されているわけでもない路面は、慣れないヒールではリーダーについて歩くのもやっとであった。例の地下街の近くにあるオフィス街についたころにはかかとは血だらけになっていた。
「いいか、お前は次のステップに進んだ。今度の職場はここだ。」
20階建てくらいのビルの7階にあるオフィスだった。
リーダーより一回りほど年長と思われるオフィスの責任者の女性が、私の頭から足の先まで舐めるように見回した。
「ずいぶんセンスのない娘ね。頭の回転はどうなのかしら。」
「新入りなんで、ビシビシ鍛えてやってくれ。」
リーダーが私を残して立ち去ると、責任者は私に怒鳴りつけた。
「お茶の時間よ、早く入れてきて。」
いきなりのお茶くみの指示に面食らった。自分でお茶を入れて飲んだことはあるけど、大勢の人にお茶を入れたことはなかった。
「何突っ立てるの。早く給湯室にいって準備しなさい。」
廊下に出て給湯室らしきところに入った。私と同年齢ぐらいで私と同じベストとスカートを纏った女性が立っていた。
「あんた、新入り? 頑張ってね。ようやくお茶くみから解放だわ。」
「何杯用意すれば・・・」
「そのくらい聞いてこなかったの。馬鹿じゃないの?そこの湯のみ全部使ってみたら?」
湯のみはかなりの数があった。足りないよりは余ったほうがましだろうと思って、全部にいれることにした。しかし、どの程度、お茶の葉をいれたらいいのか、お湯はどれを使ったらいいのか、どの急須でどうやって運んで、全然わからなかった。壁に寄りかかっている私と同年齢の女性はニヤニヤ笑いながら眺めているだけだった。
とにかく適当に10杯ほどの湯のみに何とかお茶を入れお盆に載せて事務室に向かおうとした。
「たかがお茶くらいいつまでかかってるの。」
「早くしなさいよ。」
叱責がとび、あわてて事務室に入り手前のデスクから配り始めた。
「いったいどこから配ってんの? 上の人からでしょ。」
「社会人だったんでしょ。そんなこともわからないの。」
慌てて配り始めたお茶を回収し、奥の責任者のデスクに向かった。多分管理職と思われる座席から
配り始めた。
「熱い! 何これ。」
「お茶の味がしないじゃないの、何してんの。」
「茶托はどうしたの。」
「お茶菓子もないの、気が利かない娘ねえ。」
給湯室に戻り追加の茶を用意した。水を加えお茶の葉を増やした。同年齢の女性は相変らず私の悪戦苦闘をながめニヤニヤしていた。
「ぬるっ! これじゃ水のほうがましだわ。」
「あら、若い娘には濃いお茶入れてあげてるわけ、ちょっと何考えてるんだか。」
配っている途中でとどめをさされた。通路に書類の山が置かれていたのだ。さっきはなかったのに。私は躓いて転んでしまった。お茶は床にもデスクにもそこじゅうにブチマケ、茶碗は割れ、中にはスカートをすっかり濡らしてしまった人もいた。
「ごめんなさい、ほんとにごめんなさい。」
ふきんと雑巾を持ってきて拭いた。ほうきとちりとりを持って掃除をした。誰もがあきれたような顔して私を眺めていた。手伝ってくれる人は誰もいなかった。
「会社に来てそうそうここまでやってくれる人は今までいなかったわ。」
「ひどい娘をよこしてくれたものね。」
「書類もびしょびしょよ、どうしてくれるの?」
苦心惨憺して事務室内を片付け給湯室に戻った。
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