深い森の彼方に

とも茶

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第五章 出会い いったいこの国は1

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長身の娘と別れて、部屋に戻った。
この国の女性たちは男という存在を知らないのだろうか。あの話し好きの厚化粧も、男性のことを話題にしたこともなかった。奇声の老婆や彼女の仲間の老婆は下卑た笑い声を立てムダ話をいつもしているが、そういえば猥談とか男の話題を聞いたことがない。トイレで耳にするOLたちもそんな話を聞いたことはなかった。
「今日は、早く帰ってきたのに何してたんだい。なかなか部屋に戻ってこなかったじゃないかい。」
下の厚化粧が話かけてきた。いいチャンスだった。でもダイレクトに聞くのははばかられた。
「ええ、帰ってきてから外に食事に出たんで・・・  お姉さんにはお子さんいるんですか?」
「あたしに子供? そりゃ、まあ。」
「失礼なこと聞いちゃったかしら。」
「いやいいよ。一応一人子供ができて、育てて、そしてその子は独立してどこかにいって働いてるはずだよ。残された私は宿舎暮らしさ。」
「お一人だったんですか。きれいなお嬢さんだったんでしょ。」
「あんた、ほどじゃないよ。」
「どなたに似てらっしゃったの?」
「あたしの娘だからあたしに似てるしかないじゃないか。他人に似るわけないよ。」
「お姉さんのいい人のほうに似てたとか。」
「いい人ってなんだね。」
「好きな人というか、大切な人というか。」
「親友だって、赤の他人なんだから似るなんてそんな馬鹿なことがあるかいね。変なことをいうね。」
「でも子供をさずかるっていうのは・・・」
「それは天からの授かりものだからね。」
「私でもできるんでしょうか。まわりは女の人ばかりだし。」
「健康であれば自然にできるんだよ。だからあんたももうすぐだよ。」
厚化粧にはやはり女は男と交わることで妊娠して出産するという概念がないようだった。口ぶりからして、男女の性行為ということ自体のわからないようだった。

翌朝、いつもどおり仕事に出かけた。
今では地下街ばかりでなく周辺の公園や街角の公衆トイレ、それに道路や公園の清掃まで一手に引き受けていた。毎日掃除の順序を固定化すると、トイレで出会う人はいつもトイレで出会った。
「いつもきれいにしてくれて感謝してるわ。」
オフィス街の公衆トイレでいつも出合うOLだ。出勤前に必ず立ち寄るらしい。
「いつもお会いしますね。お勤め先は近いんですか?」
「ええ、でも職場のトイレは混んでて。いつもきれいしてくれてるんで、ここでお化粧直してから出勤するんです。」
「いつもすごく素敵なんで、羨ましく思ってたんですよ。職場に大切な人がいるんじゃないかしら。」
「大切な人?  お友達のことですか? まあ、職場の雰囲気はまあいいところだと思いますけど。」
「この国は女性だけですからね。あなただったら、他の国へ行ったら男性がほっとかないんじゃないですか。」
「ダンセイ? えっ? 他の国なんて怖くていけないわ。」
やっぱり、あの長身の娘が言っていたとおりだった。
なかなか見ず知らずの人に声を掛けるというのも大変だったが、翌日以降も、トイレであった女性、公園で休息している女性、声を掛けられそうな人に聞いてみた。
元の世界では同性でも絶対に聞くことができない質問だった。
「男の方にもてるでしょう?」
「どんな男性が好みなんですか?」
「お父様は?」とか「お兄さんか弟さんいらっしゃるんですか?」とも聞いてみた。
「オトコ? オトウサン?」男性を意味する言葉自体を知らないようだった。
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