深い森の彼方に

とも茶

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第三章 強制労働 -市街地にてー

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地下街のトイレ掃除が終わると、付近の公園、街頭などにあるトイレ掃除をやらされた。一日中こき使われた。公園のトイレは地下街より更に汚物にまみれていて、糞が便器の周りにこびりついていたり床におちていることもあって、私は女たちの汚物処理に追われた。
朝ほどは多くないがトイレに用を足しに来る女性がいると、極力トイレの外に出るようにした。特に美しい若い女性が穴に跨りスカートをめくると慌てて外に逃げ出した。それでも私のショーツの中はすぐにカウパー腺液で溢れてしまった。なんでこんな中途半端に性器を切除するんだ、これでもかと繰り返し刺激される性欲とその処理ができない股間に苦しんだ。
日暮れとともに、リーダーがやってきた。
「当分、ここで働いてもらう。お前の送迎など一々やってられないから明日から一
人で来るんだぞ分ったな。」
「でも、こんな身体になって毎日が耐えられるかどうか・・・」
また殴られた。
「ばかもの! 女になってこの世界で暮せるかどうかの試練だ。泣き言をいうんじゃない。わかったら早く宿舎に帰れ。」
とぼとぼと宿舎に向かって歩き始めた私にリーダーは声をかけた。
「忘れるところだった。宿舎の飯は日中仕事もいかずサボっている年寄り連中に食われちゃってまともなものは残ってないはずだ。ほら非常食だ。これはもつからな。飯の不足分として少しづつ食っておくんだな。」
リーダーから渡された非常食を見るとカンパンだった。それも異臭がする。昨日の干からびた握り飯と同じだ。宿舎に帰りつくと、真っ先に食堂に行ってみた。食堂にいるのは食べ終わった空の食器を前に下卑た笑い声と立てながら雑談をしている老婆が数人いるだけだった。
その老婆の一人は同じ部屋の奇声の老婆だった。
「おい新入り、飯を食いたきゃ袖の下がいるんだよ。年寄りを無視しちゃ生きていけないよ。」
私は、むっとして巨大な飯釜を覗いた。こびりついた飯粒もきれいにそぎ落とされたあとだった。汁も惣菜もこびりついているものすらなかった。しかたなく出がらしのお茶をがぶ飲みしていると奇声の老婆の下卑た笑い声がした。
「馬鹿な小娘だね、あたしを大切にしないのかえ。」
仕事もしていない年寄り連中は、仕事に出ている若い人たちからこうして小遣い稼ぎをしているようだった。私は、むしょうに腹立たしくなり老婆たちを無視して部屋に戻った。口に入れられるものはリーダーからもらった非常食だけだった。
腹が減らないようにすぐ寝てしまうわけにはいかなかった。厚化粧から借りた服はかえさなくてはならない。そのためにはリーダーからもらった服を洗濯しなくてはならなかった。新入りが使えるような洗濯機などなかった。外の流しで手で洗うしかなかった。なんでこんな生活になってしまったのか、男としてサラリーマンをしていた時のほうがよっぽどましだった。ポロポロ涙をこぼしながらブラウスを洗っていた。使える洗剤もないのでいくら揉んでもいっこうにきれいにはならなかった。
「あたしの洗剤使ったら?」
突然で声を掛けられた。おぞましい女ばかりの宿舎にもこんな人がいたのかというような、長身の若く美しい女性が隣りにいた。
「いいんですか?  ありがとうございます。この宿舎のルールがよくわかってないんで。」
「あなた、宿舎に入ったばかりなのね。どうりで見かけない顔だと思った。若い人が少ないんでよろしくね。」
仕事着から着替えたのか紺のワンピースに身を包んだ彼女は、自分の洗濯を終えるとさっさと部屋に戻ってしまった。
洗濯を終え、スカートのヒダがもとどおりになるよう丁寧に寝押しをして布団にもぐった時には、厚化粧も浅黒い娘も奇声の老婆ももうすっかり熟睡していた。布団にもぐっても空腹で熟睡できなかった。
うつらうつらしているうちに外が白んできた。年寄り連中に食べつくされないうちに朝食を食べないとと思って、眠い目をこすりながら食堂に行った。既に年寄り連中が大勢食事中だった。麦飯も味噌汁もまだ残っているようだった。飯釜に並ぶと後から来た老婆に声を掛けられた。
「おや、今日はもう若造の時間になってたのかね。」
前で、どんぶりに麦飯をよそっていた老婆も振り向いた。「おや、新入りだね。年功序列がわからないのかねえ、最近の小娘は。」
列から弾き飛ばされてしまった。結局、老婆が食べ終わり、その後の中年の人たちが食べ終わるまで待たなくてはならなかった。結局飯釜の底にこびりついた麦飯をそぎ落とすしかなかった。汁も漬物も残っていなかった。昨日と同じように出がらしのお茶をどんぶり一杯にかけてかきこむしかなかった。涙が止まらなかった。出がらしのお茶にポタポタと零れ落ちていた。
「ほら、食べるかい。」
小さい器に入った白菜の漬物が私の前におかれた。私の脇に立っていた。
「泣いてちゃだめだよ。強くならなきゃ。」
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