上 下
8 / 12

~ありがとう。【暁人】~ 8話

しおりを挟む
俺が佐田くんと初めて出逢ったのは中学一年生の頃。
 
俺は超有名企業の社長【霧島 湊(みなと)】の息子とあって、他のやつらは俺に、親父にめをつけられるのが怖いらしく、俺と一緒にいようとはしなかった。
俺は別にそれでも良いと思っていたから自分から歩み寄ろうとはしなかった。
でも、中学に入学式してから何日か経った後、俺がいつものように帰ろうとした時、後ろから声をかけられた。
その男は嘘偽りない笑みで俺にこう言った。
「ねぇ、君って霧島望くんでしょ?
    これ、落としてたよ。ハンカチっ!」

「え。」

な、なんだこいつ……。
なんで俺に……てか、それ俺のじゃない……

「それ、俺のじゃないよ」

「え!?………そんなはずは!?
       あ…。本当だ。霧崎臨だ!!
か、漢字が違う…僕、てっきり【望くん】の物だとばかり。」

の、望くん……?
【望くん】そう呼ばれたのは初めてだった。そんな些細な事でも、俺にとっては衝撃的で、それと同時に、不思議な感覚がした。

「あ、じゃあ僕はこれで!!!」

「あっ、まって!君の名前。なんていうの?」

「名前?あぁ、そっか。自己紹介してなかったね。僕は佐田暁人!!よろしくね!」

そう言って佐田くんは長い廊下を走っていった。

「佐田くん…か。ふふふ。」

この時から俺は佐田くんを毎日観察するようになった。話かけようかとも思ったけど、俺はそれをためらった。
毎日観察を続けているうち、俺は変な感情を持ち始めた。
毎朝佐田くんを見つけると心がギュッとなる。
佐田くんが他の男や女と話していると、心の奥からふつふつと怒りが湧き上がってくる。

俺は。気付いてしまった。この感情の正体を…………

「俺……佐田くんの事が好き……なんだ。」


「ーーーーーー。っ。あ、あれ?
佐田くん?」

「っ!!望っ!!だ、大丈夫!?」

あぁ。やっぱり、佐田くんって可愛いな。

「うん。大丈夫だよ。」

「で、でも。僕のせいで……。
お詫びに、僕にできる事があったら言ってくれ!!」

「お詫び?」

僕がそう言うと、望は少し悩んだ後、なにか企んでいる笑みを浮かべ、僕は嫌な予感がし、少し後悔したーーーーーー。

「じゃあ、一つだけ、お願い聞いてくれる?」

「【僕にできる事なら】だからなっ!」

「ふふふ。何想像してるの?
俺がお願いしたい事は、
俺と【デート】しよ…?佐田くん。」

「で、でぇーと?
…………デート!?」

あれ……意外と普通。な、なんなんだ?
望は性行為しか頭にない奴だと思ってたのに……。

「あ。佐田くん。俺のこと、【SEXしか頭にない奴】って思ったでしょ?」

「え!?」

「あっははっ!佐田くん。
分かりやすすぎ。」

「あ……」

望が本気で笑ってる顔、初めて見た。
なんだよ、こういう顔もできるんじゃんか。

その時、僕の心が暖かくなるのを感じた。

「?どうしたの、佐田くん?」

「……。なぁ、その【佐田くん】って呼び方、やめてよ。
望は、僕がいじめられてるのを利用して性行為してた、すっげぇクズだけどさ……。
下の名前で呼ぶことぐらい、許してやるよ。」

「え…………。ふふふ。
そっか、ありがとう。【暁人】」

我ながら、なんでそんな事を言ったのか分からなかった。
もしかしたらその理由は、ただ僕が【望】と呼んでいるのに、あいつは僕の事を【佐田くん】と呼んでいるのが気に食わなかったからなのか、
それとも、もっと他の理由なのか。
その時の僕には皆目見当もつかなかった。

でもーーーーーーーーー。

僕を【暁人】と呼んだ望の顔は、いつもの顔よりは悪くない。と、
僕は思ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

咳が苦しくておしっこが言えなかった同居人

こじらせた処女
BL
 過労が祟った菖(あやめ)は、風邪をひいてしまった。症状の中で咳が最もひどく、夜も寝苦しくて起きてしまうほど。 それなのに、元々がリモートワークだったこともあってか、休むことはせず、ベッドの上でパソコンを叩いていた。それに怒った同居人の楓(かえで)はその日一日有給を取り、菖を監視する。咳が止まらない菖にホットレモンを作ったり、背中をさすったりと献身的な世話のお陰で一度長い眠りにつくことができた。 しかし、1時間ほどで目を覚ましてしまう。それは水分をたくさんとったことによる尿意なのだが、咳のせいでなかなか言うことが出来ず、限界に近づいていき…?

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

私立明進学園

おまめ
BL
私立明進学園(メイシン)。 そこは初等部から大学部まで存在し 中等部と高等部は全寮制なひとつの学園都市。 そんな世間とは少し隔絶された学園の中の 姿を見守る短編小説。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学園での彼らの恋愛を短編で描きます! 王道学園設定に近いけど 生徒たち、特に生徒会は王道生徒会とは離れてる人もいます 平和が好きなので転校生も良い子で書きたいと思ってます 1組目¦副会長×可愛いふわふわ男子 2組目¦構想中…

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

処理中です...