上 下
14 / 16

7-1

しおりを挟む
 リュカが寝ている間が勝負だ。徹夜で作業をした。
 フレバリーにも手伝ってもらいながら、何度も配合を変えて作り直す。最終的にできあがったものが正しく働くことを確かめるため、リュカの香りをビーカーに垂らして、それから作り上げたばかりの液を混ぜる。

「……おお。何か、むずむずする感じがなくなったな」

 フレバリーがひゅう、と口笛を吹く。この幼馴染みはマシレの仕事を褒めないが、感心しているのは知っている。

「そうだな。成功のようだ」

 実験室では打ち消しができた。後は、本人に試すだけだ。
 フレバリーと共に寝室へ急いだ。抱いた痕跡の残っているのをフレバリーに見られるのはいただけないが、それでも、ベータの彼を寄せ付けなくなることも証明したかった。

「リュカ。起き上がれるか」
「マシレさま……」

 ずっと眠っていたらしいリュカを無理矢理起こし、放たれている香りに耐えながら、香水ができたことを彼に告げる。リュカは目を見開いたが、嬉しそうな顔をしてくれなかった。少し傷つく。
 だが「試させてもらっていいか」と尋ねると、彼はそっと頷いた。
 作ったのは、マシレの香り、つまりアルファから分泌されるフェロモンの香水だ。オメガが番を持てば、フェロモンは他の者には感じられなくなることから発想したものだ。アルファのフェロモンでうなじを覆ってしまえば、番を持ったときと同じようにならないかという着想だった。
 香水瓶に入れた金色の液体をリュカのうなじに塗りつける。念入りに、だがそっと。
 しばらくすると、リュカの香りが感じられなくなった。フレバリーを向いても、笑って首を振る。
 成功だ。
 これでリュカの強すぎるフェロモンも、彼自身を困らせることはなくなった。
 香りの途切れる八時間以内には香水の付け直しが必要だが、これで他の男を意図せず誘うことはなくなったはずだ。

「ありがとうございました、マシレ様」

 そう微笑むリュカの悩みは解消されたし、ヒートに苦しむオメガも救える。王子の脅威ももうないことだし、リュカがこの城に居る必要はなくなった。
 元々が、香水の依頼が終わるまでと約束した期日だ。リュカは出て行ってしまうだろう。
 リュカが居なくなると思うと、寂しさが胸を軋ませる。好きな男のところにでも行くのかもしれないのが、やるせなくてならなかった。しあわせになって欲しいと思うのは、本当なのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

秋風の色

梅川 ノン
BL
兄彰久は、長年の思いを成就させて蒼と結ばれた。 しかし、蒼に思いを抱いていたのは尚久も同じであった。叶わなかった蒼への想い。その空虚な心を抱いたまま尚久は帰国する。 渡米から九年、蒼の結婚から四年半が過ぎていた。外科医として、兄に負けない技術を身に着けての帰国だった。 帰国した尚久は、二人目の患者として尚希と出会う。尚希は十五歳のベータの少年。 どこか寂しげで、おとなしい尚希のことが気にかかり、尚久はプライベートでも会うようになる。 初めは恋ではなかったが…… エリートアルファと、平凡なベータの恋。攻めが十二歳年上のオメガバースです。 「春風の香」の攻め彰久の弟尚久の恋の物語になります。「春風の香」の外伝になります。単独でも読めますが、「春風の香」を読んでいただくと、より楽しんでもらえるのではと思います。

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...