【完結】僕の彼氏と私の彼女

響城藍

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第四話「クリスマス?いいえ誕生日です!」

【四章】僕の特別

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「連絡くれた時、凄く吃驚したんだよ?」

 凛が戸惑っているのを感じて、葵は口を開いた。楓から凛の誕生日を聞いてから冬になり、凛とも仲良くなったし、葵が凛への気持ちを理解した事もあった。だから誕生日を一緒に過ごしたいと葵は思っていた。冬休みに入るとバスケの大会があるので、予定の無い休みで誘うには丁度良い。でも凛は友達が多い。誰かともう予定があると思うと誘うのを戸惑ってしまっていた。そうして悩んでいた十日前、凛から誘いの連絡があった。驚いたと同時に嬉しくなってしまって、どうやって返事をしようとか、すぐに返事をしたら気持ち悪いだろかなんて考えていたら時間が過ぎていて、結局簡潔な返事を送ってしまった。でも凛は凄く喜んでくれていたし、だからこそ葵は今日を特別な日にしたいと思っている。

「僕にとって誕生日は特別だからさ、だから誘って貰えて凄く嬉しい」

 特別の定義は人によって異なる。だから葵にとっての特別が凛と同じだとは限らない。でも特別でなければ、誰かと一緒に過ごしたいと思わない気がして。その特別な日に何故自分を選んでくれたのか。少しだけ期待の色を交えて、じっと凛の瞳を見続ける。

「私も……誕生日は特別な日、だから……」

 イルミネーションに彩られた瞳は幻想的で、異世界にいる様な感覚になった。

「特別な人と、一緒に過ごしたいって、思って……」

 ドキリ、と鳴ったのは果たしてどちらの鼓動なのか。二人だけしか居ない様な錯覚に陥る程に、今は目の前の人物しか捉えられない。

「私は、」

 緊張した様な表情かおで凛は少しだけ葵との距離を縮めた。

「葵の事が好き」

 心臓の音がやけに煩い。燃えてしまいそうな程の身体の熱さに、今は夏だったかなんて思ってしまって。

「僕も、凛の事が好き」

 凛の瞳が揺れた。大きな瞳を更に大きくして、小さく口を開けてじっと、葵の笑顔を見つめている。

「ずっと前から、大好きだよ」

 そう言って、葵は凛を抱きしめた。煩い鼓動は自分だけじゃないのだと、そう思うとまた鼓動が高鳴ってしまう。その事がただ嬉しくて、凛は葵の背中に手を回した。
 抱きしめたまま、少しだけ顔を離して、そうしたら今度こそお互いしか映らない。

「僕の彼氏になってくれる?」

 恋をするという事はこういう事なのだと、初めて感じる感情に戸惑う。だけど今まで感じて来た幸福を超える位の感情にまたドキリと音が鳴った気がした。

「私を、葵の彼氏にしてください!」

 そう言って凛は飛びつく様にもう一度葵を抱きしめる。溶けてしまいそうな程の熱さが心地いいだなんて、知らなかった。


 *


 その後イルミネーションを見て回って、だけどイルミネーションがぼやけてしまう程に鼓動が煩くて。繋いだ手から感じる温もりが熱くて。これからもずっと一緒に居られると思うともっと嬉しくなってしまって。だから照れてしまってお互いの顔を直視できなかったけれども。
 手を繋ぎながら渋谷の駅前で二人は立ち止まる。最寄り駅は一緒だし、バスも途中まで一緒だ。と言うか葵は今まで通りに凛を家まで送るつもりではいるのだが、どうしてか立ち止まってしまった。

「年内はさ、大会があるから会えない日が続くと思う……」
「うん……」
「だから、さ……」

 こうやって視線を合わせるのも何度目だろう。何度見つめてもその度に変わる景色が綺麗だと思う。
 葵は照れながらじっと凛を見て、緊張した様に繋いだ手に力を入れた。

「来年になったら、デートしてくれる?」

 今もデートをしているのだとは思うが、それでも関係が変わってからでは全く違うのだ。付き合ってからの初めてのデート。それは二人にとって特別にしたい。否、特別になるという自信があった。隣にいるだけで幸せなのに、これ以上の幸せに名前はあるのだろうか?

「うん! もちろん!」

 だからその名前を知りたいと思ってしまって。ギュッと手を握り返して、凛は笑う。先程まで見て来たイルミネーションなんかより輝いて見えるその表情かおが葵は好きだと思う。
 どちらからともなく手を離して、改札を潜るとまた手を繋いだ。ホームに上がって電車に乗ってもずっと手は繋いで、二人は笑い続ける。ずっとずっと繋いでいたい。繋がっていたい。その感情の名前はなんと言うのだろう。一緒に居ればいつか解かる気がする。
 凛の家の前で手を離して、その手を振って二人は別れる。離れてもまだ身体は熱くて、キラキラとイルミネーションに照らされる様に、心の中は彩られていた。



<五話に続く>
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