23 / 26
[23話] 俺の願いと出来ること
しおりを挟む
棺の上に乗っていたメルルは割れた棺を避けながら棺の乗っていた台に座るコフィンと視線を合わせる。
意識が朦朧としているコフィンの身体の中にあるものを導いているのか、歌は終盤へ向かっているようだ。
コフィンを見下ろすようにしてメルルは最後まで歌い続ける。
「大好き……っ」
コフィンの愛おしさであふれる呟きは、心から幸せなのだと感じられた。
歌に導かれて、その愛おしさがコフィンの胸からあふれる。
オレンジ色の大きな光がコフィンの身体から生まれた。
光はメルルの前まで飛んで行って空中に浮かぶ。
「これは……コフィンの力の塊ですね。メルルさんならできると信じていましたよ」
どうやらこの死神は他人任せだったようだ。
いや、メルルにしかできないと信じていた、という表情をしている。死神ってのは怖いな。
「さてテオさん、こちらに触れて願ってください。これだけの力があれば貴方の願いはすぐに叶います」
「分かった」
心の中でデスをバカにした俺も、この光に触れる意味がある人間なのだ。
やっと俺にもやるべきことが見つかった。少し興奮しているかもしれないな。
デスの言う通りにオレンジ色の光に手を伸ばす。
メルルが俺の傍に寄ってくれて、すぐに触れることができた。
「天使病になった人間を元通りにしてくれ!」
叶えたい願いを光に向けて放つ。
光は俺の願いを叶えるために四方へ飛んで行った。
オレンジ色の光は部屋から無くなって、静かな病室に戻る。
「ッ!」
いてもたってもいられなくて、俺は部屋を飛び出していた。後ろから聞こえる慌てる声を聞いている余裕なんてない。
だって願ったんだ。
願いが叶っているか確かめにいく権利が俺にはある。
全力で走って、息を切らしながら天使病になった人間が拘束されている部屋へ入ると、そこにいた人間は正気を取り戻していて何が起きているのか不思議そうにしていた。
「願いは、叶うんだ……」
そのことが何より嬉しくて、俺は柄にもなく泣きそうだ。
「テオ……」
「テオさんはすごいね」
後ろから聞こえた声に振り向けば、泣きそうになっているエレナと感心したような表情のラズがいた。
俺が何も言わずに部屋を出て行ったから追いかけに来てくれたのだろう。
「俺だけじゃない。みんなが頑張ったからだろ」
俺の声に嬉しそうに頷くエレナとラズを見ていると感情がこみあげてくる。
ああ本当に、柄にもなく泣きそうだ。
でも泣いている姿を見せたくない。
だって今は、笑うべき時だって決まってるんだ。
これから先のやるべきことが1つ見つかった。だから俺はまた頑張れる。
「戻ろう。コフィンとメルルが心配だ」
「うん」
「メルルのいうこと聞いてあげてもいいかもね」
当然のように隣を歩くエレナと、照れながら呟いたラズに挟まれて俺たちは病室へ戻る。
ゆっくり、だけど急ぎたくなる気持ちと混ざりながら、それぞれの歩幅で歩いていく。
病室の入り口付近についた俺たちは思わず立ち止まる。
部屋の中の様子に目を奪われたからだ。
棺の割れた破片が床に散らばっていて、その上にある台でコフィンはメルルに抱き着いていた。
いや、倒れたのだろうか。メルルは包み込むようにコフィンの頭を撫でている。
「メルルちゃんいつの間にそんな魔法覚えたの?」
「コフィンちゃんばっかりいいところを見せるのはズルいからですよ~」
「あはっ、コフィンすっごくビックリしたっ!」
「当然です~。コフィンちゃんに驚いてもらえるように頑張ったんですからね~」
メルルとコフィンは力が抜けたように笑い合う。
どちらが子供なのか分からないくらいにお互いを撫であっている。
恐らくどちらも力を振り絞ったのだろう。
お互いが支えになっているから座れている。俺にはそう見える。
「だから、また魔法にかかってくださいね~」
「リリィちゃんにまた会えるの?」
「コフィンちゃんが夢を抱き続ける限りは会えますよ~」
「あはっ! ありがとうっメルルちゃんっ!」
コフィンは力いっぱいメルルを抱きしめた。少し驚いた素振りを見せながらも、メルルはコフィンの背中に手を回して抱き返す。
メルルとコフィンだからこそ、夢が叶ったんだと見ていて実感する。
この和やかな空間は見ているだけで癒される。
だから俺は病室に入らなくていいだろう。
「人間たちの天使病が治ったのですね」
デスが病室の入り口にいる俺の前に来て微笑んだ。
こいつは人の心が読めるのだろうか、と不思議に思っていると声に出して笑われた。
「テオさんは感情が態度にでるんですよ」
「ラズにも言われた」
そんなに態度に出るのだろうか。いや嬉しいのは事実だが、今までそんな風に言われたことはなかった。死神たちが特殊なんだということにしておこう。
「まだ改善は必要ですが、天使病を治す方法は見つかりました。コフィンが倒れないような体制を作るところから始めましょうか」
「それでいいと思う。ただ……俺が生きている間に全ての天使病を治せる自信がない。悪魔と人間は同じ時間を生きてはいないんだ」
「そうですね……」
俺の言葉にデスは顎に手を当てて考え始めた。
改善点も課題もまだまだある。まだ始まったばかりだから当然だ。
最初だから山ほどある課題をひとつずつでも対処していくのは骨が折れそうだ。
「……ラズ?」
俺の隣に立っていたラズは部屋の中へと歩いて行った。棺の破片を踏みながら台の前で止まるとメルルに視線を送る。
メルルはラズに気付いて顔を向けて視線を合わせていた。
「メルル……天使の夢・幻想曲をおしえて」
メルルは目を丸くしてラズを見つめている。逸らされないラズの瞳を見つめ続けたあと、目を細めて口角を上げた。
「ラズちゃんにお歌が歌えますかね~?」
「歌えるまで練習するよ。ぼくがやりたいことを見つけたんだ」
ラズの言葉にメルルの口角はどんどん上がって行って、満面の笑みを浮かべてラズの前に手を差し出した。小指だけを上げたメルルの手をラズはじっと見つめる。
意識が朦朧としているコフィンの身体の中にあるものを導いているのか、歌は終盤へ向かっているようだ。
コフィンを見下ろすようにしてメルルは最後まで歌い続ける。
「大好き……っ」
コフィンの愛おしさであふれる呟きは、心から幸せなのだと感じられた。
歌に導かれて、その愛おしさがコフィンの胸からあふれる。
オレンジ色の大きな光がコフィンの身体から生まれた。
光はメルルの前まで飛んで行って空中に浮かぶ。
「これは……コフィンの力の塊ですね。メルルさんならできると信じていましたよ」
どうやらこの死神は他人任せだったようだ。
いや、メルルにしかできないと信じていた、という表情をしている。死神ってのは怖いな。
「さてテオさん、こちらに触れて願ってください。これだけの力があれば貴方の願いはすぐに叶います」
「分かった」
心の中でデスをバカにした俺も、この光に触れる意味がある人間なのだ。
やっと俺にもやるべきことが見つかった。少し興奮しているかもしれないな。
デスの言う通りにオレンジ色の光に手を伸ばす。
メルルが俺の傍に寄ってくれて、すぐに触れることができた。
「天使病になった人間を元通りにしてくれ!」
叶えたい願いを光に向けて放つ。
光は俺の願いを叶えるために四方へ飛んで行った。
オレンジ色の光は部屋から無くなって、静かな病室に戻る。
「ッ!」
いてもたってもいられなくて、俺は部屋を飛び出していた。後ろから聞こえる慌てる声を聞いている余裕なんてない。
だって願ったんだ。
願いが叶っているか確かめにいく権利が俺にはある。
全力で走って、息を切らしながら天使病になった人間が拘束されている部屋へ入ると、そこにいた人間は正気を取り戻していて何が起きているのか不思議そうにしていた。
「願いは、叶うんだ……」
そのことが何より嬉しくて、俺は柄にもなく泣きそうだ。
「テオ……」
「テオさんはすごいね」
後ろから聞こえた声に振り向けば、泣きそうになっているエレナと感心したような表情のラズがいた。
俺が何も言わずに部屋を出て行ったから追いかけに来てくれたのだろう。
「俺だけじゃない。みんなが頑張ったからだろ」
俺の声に嬉しそうに頷くエレナとラズを見ていると感情がこみあげてくる。
ああ本当に、柄にもなく泣きそうだ。
でも泣いている姿を見せたくない。
だって今は、笑うべき時だって決まってるんだ。
これから先のやるべきことが1つ見つかった。だから俺はまた頑張れる。
「戻ろう。コフィンとメルルが心配だ」
「うん」
「メルルのいうこと聞いてあげてもいいかもね」
当然のように隣を歩くエレナと、照れながら呟いたラズに挟まれて俺たちは病室へ戻る。
ゆっくり、だけど急ぎたくなる気持ちと混ざりながら、それぞれの歩幅で歩いていく。
病室の入り口付近についた俺たちは思わず立ち止まる。
部屋の中の様子に目を奪われたからだ。
棺の割れた破片が床に散らばっていて、その上にある台でコフィンはメルルに抱き着いていた。
いや、倒れたのだろうか。メルルは包み込むようにコフィンの頭を撫でている。
「メルルちゃんいつの間にそんな魔法覚えたの?」
「コフィンちゃんばっかりいいところを見せるのはズルいからですよ~」
「あはっ、コフィンすっごくビックリしたっ!」
「当然です~。コフィンちゃんに驚いてもらえるように頑張ったんですからね~」
メルルとコフィンは力が抜けたように笑い合う。
どちらが子供なのか分からないくらいにお互いを撫であっている。
恐らくどちらも力を振り絞ったのだろう。
お互いが支えになっているから座れている。俺にはそう見える。
「だから、また魔法にかかってくださいね~」
「リリィちゃんにまた会えるの?」
「コフィンちゃんが夢を抱き続ける限りは会えますよ~」
「あはっ! ありがとうっメルルちゃんっ!」
コフィンは力いっぱいメルルを抱きしめた。少し驚いた素振りを見せながらも、メルルはコフィンの背中に手を回して抱き返す。
メルルとコフィンだからこそ、夢が叶ったんだと見ていて実感する。
この和やかな空間は見ているだけで癒される。
だから俺は病室に入らなくていいだろう。
「人間たちの天使病が治ったのですね」
デスが病室の入り口にいる俺の前に来て微笑んだ。
こいつは人の心が読めるのだろうか、と不思議に思っていると声に出して笑われた。
「テオさんは感情が態度にでるんですよ」
「ラズにも言われた」
そんなに態度に出るのだろうか。いや嬉しいのは事実だが、今までそんな風に言われたことはなかった。死神たちが特殊なんだということにしておこう。
「まだ改善は必要ですが、天使病を治す方法は見つかりました。コフィンが倒れないような体制を作るところから始めましょうか」
「それでいいと思う。ただ……俺が生きている間に全ての天使病を治せる自信がない。悪魔と人間は同じ時間を生きてはいないんだ」
「そうですね……」
俺の言葉にデスは顎に手を当てて考え始めた。
改善点も課題もまだまだある。まだ始まったばかりだから当然だ。
最初だから山ほどある課題をひとつずつでも対処していくのは骨が折れそうだ。
「……ラズ?」
俺の隣に立っていたラズは部屋の中へと歩いて行った。棺の破片を踏みながら台の前で止まるとメルルに視線を送る。
メルルはラズに気付いて顔を向けて視線を合わせていた。
「メルル……天使の夢・幻想曲をおしえて」
メルルは目を丸くしてラズを見つめている。逸らされないラズの瞳を見つめ続けたあと、目を細めて口角を上げた。
「ラズちゃんにお歌が歌えますかね~?」
「歌えるまで練習するよ。ぼくがやりたいことを見つけたんだ」
ラズの言葉にメルルの口角はどんどん上がって行って、満面の笑みを浮かべてラズの前に手を差し出した。小指だけを上げたメルルの手をラズはじっと見つめる。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる