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第一章「獣たちのロカビリー」

分割版・第三話「夢見る宇宙」

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 ゼフィルス・アークェンシー
 苔むした大理石の神殿は、外部の喧騒から隔絶され、奇妙な静けさに包まれていた。
 入ってすぐの小広間には、既に黒いセーラー服の少女と、剣客のような装束の少女が待っていた。ニルは立ち止まり、バロンへ向き直る。
「こちらのセーラー服の子が、アルアロア。そちらの剣士が太田魅尋だ」
 アルアロアは一歩前に出て、胸に右手を置く。
「ご紹介に与りましたアル・アロアです。オリジナルセブンの一人……アルファリア……と!お父様の間に生まれました!」
 淑やかそうに見えたが、急な大声でその印象は印象は消し飛ぶのだった。アルアロアははにかむ。
「あなたが噂の男……バロン・エウレカですね。見た感じ、お父様より精悍ですが……お父様ほど欲望の虜になる姿がお似合いとは思えない外見ですね」
 横に立つ魅尋が続く。
「まあまあ、アロア殿。愛が先に立つのはともかく、初対面の方にそのようなことを言っては失礼になってしまいまするよ」
 彼女は目を閉じているが、バロン達へ向く……が通りすぎて、微妙に軸がぶれたところへ口を開く。
「それがしの名は太田魅尋。太田千代と杉原明人を両親に持つ、心眼を持つ侍でござる!」
「えいっ」
 遮るようにアルアロアが魅尋の膝裏に蹴り入れ、魅尋は崩れ落ちる。
「なはっ!?」
 魅尋は堪えるが、勢い余って目を開き、立ち上がる。そして何事も無かったように目を閉じ直す。
「……心眼……か……?」
 率直な疑問をバロンが投げ掛けると、ニルが笑う。
「クカカカカッ。魅尋は少々甘いところがありますが、あれで中々、達人並みの剣の腕でしてね。尤も……ナルドアを軽く往なすあなたには物足りないかもしれませんが。さて、アロア。ボーマンは今暇かな?」
「はい。先ほどタイシャンとゲルンが食事を作っていたので、ちょうど今は昼休憩にお入りになられたと思いますよ」
「了解」
 ニルはバロンへ意識を向ける。
「奥へ行きましょう。そこに我らオリジナルセブンの長……即ち、全ての獣耳人類を導くお方がいらっしゃられます」
「……わかった。頼む」
 ニルが正面へ向き、進む。バロン達もついていく。高い壁に囲まれ、迷路のように続く通路を、ニルは迷いなく進んで行き、入り口と似た大きさの小広間に辿り着くと、石造りの重い扉を押し開ける。
 そこにあるのは、空気の流れを感じられるほど広大な大広間、そしてその中央に座す祭祀場だった。
「ボーマン、件の男を連れて参りました」
 ニルがそう言って小さく礼をする。祭祀場にてこちらを見つつ座しているのは、目を伏せた天女のような少女ボーマンだった。
「ええ、ここまでの覇気を放つ方はこの世界には居ないのですぐにわかりましたよ」
 ボーマンは笑みを浮かべたまま言葉を発する。視線はわからないが、バロンは向けられた細かな感情の流れを察して、彼女に視線を向ける。
「……君が獣耳人類の長、か」
「こんにちは、バロン・エウレカ。かつての宙の核、彷徨える猛者よ、私の名はボーマン。ハルと空の器との間に生まれし、この世界全ての生命の中で、最も始まりに近い者」
「ボーマン、ハル……」
 エメルが譫言のように呟き、バロンは少々聞き耳を立てるが、ボーマンに言葉を返す。
「……僕が宙核だったことを把握しているとはな。吸血人類も獣耳人類も、前世界秩序のことは把握していないと思っていたが」
「言ったはずですよ、この世の始まりに最も近いと」
「……」
 纏う雰囲気の奇妙な防御力を見て、バロンは睨むように目を細める。
「……獣耳人類にしては精神構造が頑丈すぎるな」
「ふふ、私の心の中を覗き込みたいと?ここに来るまでの間に出会った人たちの心は、全部見たんですか?だとしたら――」
「……面と向かって話したのはナルドアとニルと、君だけだ」
「私の心を開かせたいと」
「……君が僕の立場を知っているのなら、な」
 核心を突きつつも、それでも牽制のような言葉を向けられて、ボーマンは一瞬真顔になるが、すぐに微笑みを取り戻す。
「バロン。あなたが何をしに来たかは知っています。オリジナルセブンでも、ニルにしか伝えていませんが」
 ボーマンがエメルへ顔を向けると、彼女はバロンへ告げる。
「バロン、今回の千早の情報はこの方から頂いたものです」
「……なんだと?では――」
 バロンが耳を傾け、そして怪訝な表情でボーマンを見る。
「……どういうつもりだ」
「何が、でしょうか」
「……いや、気にしないでくれ」
「深界の忘れ形見……岡崎千早を引きずり出すには、我々獣耳人類を滅ぼして、吸血人類……もとい、トアデス・ヒンメルの目的を達成する必要がある。そう聞きたいのでしょう?ええもちろん、このまま物語が進めば我々は確実に滅ぼされるでしょう。ですが、我らが大父を蘇らせるだけならば、虐殺など不要です。強者を数人葬り、それを天に還せばいい。そこであなたたちを呼んだ意味がある」
「……」
「正直に言って、獣耳人類と吸血人類の争いは不毛です。互いに前世界に比べて圧倒的に力が落ち込み、何十万という兵力をぶつけて小さく削り合うだけ……あなたたちにとっては雑魚以下であろう私たちオリジナルセブンでさえ、容易には討ち取れぬのです。あなた方には我々に代わり、吸血人類の幹部を討って欲しいのです。そうして彼女らの魂を空の器に注げば、大父を呼び覚ますのに充分の力が集まり、そして千早を引きずり出せるでしょう」
「……その案を僕たちが飲まなかったらどうするんだ」
「もちろん、予定通りに獣耳人類は滅亡する」
「……そんな分の悪い賭けのために僕たちをおびきだしたのか」
「さて、どうでしょうか」
「……面倒な手合だな、君は」
「昔から議論が好きでしてね。ところで、あなたが本当に男なのかどうか、証明して欲しいと思っていたのですが」
「……ここまで僕たちのことを把握していてよく言う」
「宙核よ、私たちへの友好の証として、ここで連れの方とまぐわってもらえませんか?」
 斜め上の要求にバロンは身構える。
「……ここでか」
「もちろん。私とニルに、存分にその逸物をお見せになって?」
「……」
「ああ、それともう一つ。このあと明日の夜から、トライバル・サバトという我々の伝統行事があるのですが、それに参加して頂きますね」
「……待て。そちらだけで話を進めてもらっては困る」
「そうですか?でも、機が来るまであなた方も私たちと険悪にはなりたくないはず。私たちがあなたを殺せないのは既にわかっているのですから、ここは信頼関係を築くことに腐心して、損はないでしょう?吸血人類の長ブリュンヒルデがいかにあなたと知り合いでも、突然獣耳人類を滅ぼしたと言って現れたら面倒な事態が起こることは容易に想像できると思いますが」
 バロンは諦めたようにため息をつき、左腕でエリアルを抱き寄せる。
「ま、こうなるわよね」
「……すまない」
 二人は向かい合う。
「別にいいけど、向こうはセックスが見たいって言ってるわよ?」
「……こういう時は好きにしていいだろう」
「じゃ、好きにするわね」
 エリアルは手慣れた動作でバロンのズボンをパンツごとずり下げ、彼の凶悪な逸物を顕にさせる。その場の全員の視線がそこに集中する。
「……どうも落ち着かないな」
「そう?私は別に嫌いじゃないけど……」
 左手で玉を揉みながら、右手で竿を撫でる。ムクムクと膨れ上がり、逸物は天に向かって逸り立つ。
「……くっ……流石だ、エリアル……」
「いつもと違って我慢してる感じ、すごくそそられるわ……」
 完全に勃起しきった逸物から手を離し、ねだるように両手を伸ばす。バロンがエリアルを抱え上げ、亀頭で秘裂を探り当てて捩じ込む。
「くぁっ……ふっかぁ……っ……」
「……君もなんだかんだ期待していたんじゃないか」
 膣内は熱く、ヒダのそれぞれが絡み付いてきゅうきゅうと締め上げてくる。ろくな前戯もないが蕩けきっており、接合部から漏れ出した粘液が神殿の床を濡らす。バロンが性急に動き始めると、エリアルは吐息を漏らしつつ笑う。
「ちょっとバロン……恥ずかしいからすぐ終わらせようと……んっ、してるでしょ」
「……知らないな」
 リズミカルに前後運動しつつ、叩きつけられて触れあう肌が妙に小気味いい音を散らす。外野では、ニルとボーマンがそれぞれ神妙な面持ちでそれを眺め、マドルは食い入るように凝視していた。
「……もう出していいか」
「えー?ダメ……って言ったら?」
「……二人っきりになれるときにたくさんしよう」
 その言葉に彼女は期待の視線で返し、急に膣圧を高める。バロンは快感に目を細め、最奥を抉じ開けるように逸物を叩きつけ続ける。亀頭が張り詰め、込み上げてくる射精感のまま、小便のように白濁をぶちまける。接合部から入りきらなかった精液が冗談のように漏れ出して、余韻でエリアルはゆるりと絶頂する。
「……ふう」
「はぁーッ、やっぱ最高ね、バロン」
 二人が離れ、エリアルが逸物についた混合液を舐め取り、そしてそれぞれ乱れた衣服を整えてボーマンへ向き直る。
「……これで満足か」
 恥ずかしさから来る若干の怒りが滲んでいるのか、バロンは突き放すようにそう言う。ボーマンは早く喋りたいとばかりに口角を上げ、続ける。
「はい。大変満足です。獣でさえ有り得ぬ程の熱槍、神子の瑞々しい肌……どちらも堪能しました。我らのサバトに参加するに、あなたほど的確な存在もいない、宙核」
「……そのトライバル・サバトとはなんだ」
「我らが大父に捧ぐ、武術大会です」
「……武術大会……」
 バロンはその言葉に魅力を感じたが、敢えて表情には出さない。
「ええ。勝った方が負けた方を凌辱する、という神事です」
「……随分と下らない神事だ」
 期待していた分、バロンは内心落胆していた。
「ですが頭ごなしにそうとも言い難いですよ。我々獣耳人類は、吸血人類に比べて娯楽の幅が狭い。一番人気があるのは性行為でしてね。そもそも我らオリジナルセブンが一人の男が七人もの女性を孕ませたことで生まれている。ハーレムだか、ファトライションだか……空の器の持つ、無尽蔵の性欲。それがこの世界の人間には刷り込まれている。特に人気があるのが……自分のお気に入りの竿を妄想して自慰行為に耽ること」
「……文化が違えば感覚も違うと言うことか」
「ええ。遺伝子ジーンに刻まれた魂が、文化ミームを伝える。バロン、あなたなら、獣耳人類の皆が欲する蹂躙を見せることが出来るはずです」
「……見返りは」
「もちろん、あります。あなたは神子以外と交わるのは苦痛でしょうからね。そうですね、今のセックスの礼と、前金代わりにひとつ、ご覧に入れましょう」
 ボーマンは懐に触れ、金属製の試験管のようなカプセルを取り出す。一行に見せるようにすると、カプセルの中央に目映い光球が浮かぶのが見えた。
「……これは……!」
「嘘……」
 バロンとエリアルが同時に驚嘆し、そしてエメルも声には出さぬものの反応を示す。
「ご存じですか?これは零血細胞……零なる神より溢れ落ちた賢者の石」
「……バカな、それは三千世界の戦いで消え去ったはず」
 ボーマンはカプセルを懐に戻す。
「私がこれをどうやって手に入れたのか、これから存分に考察していただければと」
「……前金にしては奮発しているようだが、まだ何か隠しているというのか」
「人を騙すことと期待外れで落胆させること。そのどちらも私は嫌いなのでね」
「……目を伏せているのは、こういう時に有利だからか?」
「ええ――目が見えない方が弁論に於いて有利なのは、そちらの思う通りです。では、また明日」
 会話の終わりをニルが把握し、手を叩く。すると入り口からアルアロアと魅尋が現れる。
「アロア。彼らをホテルへ案内してくれ」
「承知いたしました」
 アルアロアが行儀よく礼をし、マドルがそちらへ向く。
「では、こちらへ」
 先行した彼女へ、一行は着いていく。完全に退出してから少し待ち、魅尋がボーマンの前で正座する
「ボーマン様、お話があると聞いてきたでござる」
「魅尋、先ほどの調伏、覗いていたでしょう?」
「あひっ!?」
 思いもよらぬ指摘を受けて魅尋はすっとんきょうな声を出し、ボーマンが優しい笑みを向ける。魅尋は唇を小刻みに動かして、明らかに嘘の弁明で取り繕おうとしているのがわかる。
「そ、それは……本物の逸物とはどういうものか、獣耳人類の上に立つものとして知っておかねばならぬと……」
「心配せずとも、ここには私とニルしかいないわ。ゲルンとタイシャンには休憩の間、神殿に近づかぬよう告げてあるから」
「その、あの……あう……」
 魅尋はしばらく視線を泳がせつつ、行き先を探して手をせわしなく動かしていた。が、意を決したのか、神妙な面持ちで正面へ向き直る。
「バロン殿のおちんぽが気になってしょうがなかったでござる」
「あなたはそうだろうと思っていたわ。正直に言ってくれて嬉しいけれど……」
 ボーマンは右手を向け、力を発する。魅尋は締め上げられる。
「あひぃ!?ふぁ、ふぁぁぁぁぁぁんっ!」
 苦しむどころか嬌声を上げて悶える。
「叱っているんですよ?わかっていますか?」
「も、もひっ、もひろんわかってぇえええっ」
「ならばよろしい」
 力を緩め、魅尋は倒れる上体を右手で支える。口からはだらしなくねばついた唾液が溢れ、装束の股の部分には大きなシミが出来ていた。
「ではひとつ。覗いていたということは、バロンをサバトに出すことは把握していますね?」
「はひ……承知しておりまする……」
「加減せず本気で彼を殺しに行きなさい。竿でないあなたが勝つことに懸念もあるかもしれませんが……そこは私を信じ、躊躇せずに戦うのです」
 魅尋はどこか遠くへ行っていた意識を取り戻し、すぐさま姿勢を正して真剣な表情になる。
「ボーマン様、それは……つまり……」
「ふふ、私はちゃんとオリジナルセブン全員の欲望を理解していますよ。魅尋、彼は自分のやるべきことをやり遂げる男……それは、今この世界が存在すること自体が証明している」
「はっ。この不肖、魅尋。必ずやボーマン様のご期待に応えて見せましょう」
 魅尋は立ち上がり、背を向けて去っていく。
「ボーマン、カナリアが完成したと連絡があった」
「我ながら完璧なタイミングですね」
 ニルが笑う。
「ああ。全く以て素晴らしい。千年の旅を終えて、終局が目の前にあるんだ」
「終末期でもなければ……人は世界を選び取ろうとはしない。死を目の前にせねば、人は動かない。渡り鳥に夢を託し、揺り籠の中で自分愛しとせわしない。鯨に足でも奪われたのなら、話は別ですが」
「報復は無論、報復を呼ぶ。形のない水に願ったところで、鯨は共には居てくれない。だが我々は己の執着心で鯨をここまで誘き寄せた。後は魂を失った彼女が、鯨を討つときに、全てが成就する」
「ええ、ふふ……千年も追い続けた、我らが始まりよ。鯨に食まれ、夢見鳥に腸を破かれて、あなたと一つになれる……」
 ボーマンとニルは、同じように声を上げて笑い続けているのだった。
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