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最終章「私の望んだ終わり」
エンディング
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灰色の蝶が、その空間に現れる。彼が見下ろすと、レメディは元の姿に戻っており、二つの剣は地面に刺さっていた。
雪のように降り注ぐ粒子を抱き止め、レメディは進む。そのまま地面の淵まで来ると、空中に浮遊する。
「待ちなさいな」
どこからか声が聞こえ、レメディは停止する。そこに現れたのは、蒼い長髪を持った、まさに女神と呼べるような超然的な女性だった。
【……】
「もはや言葉を必要としないほど、高位の存在となりましたか。よろしいですわ。わたくしの名前は、アプカル。アプカル・フィーネ……皆が蒼の神子と呼ぶもののオリジナル……そして、最初の獣」
レメディと視線を交わすだけで、どちらの力か、アプカルは意図を理解して会話を再開する。
「あなたは今、創世の座についた。あなたの想いのままに、新たな規範を生み出す時ですわ。けれど、世を興す前に……一人、会って欲しい方がいますわ。あなたが望むなら、わたくしの願いを聞かずに、そのまま創世を行うこともできますけれど……」
彼は深く頷き、アプカルは笑む。
「ならば、目を閉じて……」
言われるがまま、目を伏せる。
目を開くと、そこは宇宙の片隅のような、妙な空間だった。レメディに並ぶアプカルが口を開く。
「ここは無の無……無いという概念さえ無い、究極の無。アルヴァナも先ほど、ここに送られましたわ。ここには何もない。誰でさえ、何を見ることも叶わない。でもここには、たった一人だけ……無の有までと変わらぬ振る舞いを為される方がいらっしゃいますわ」
アプカルは芝居がかった動きで正面を見るよう促し、レメディは従う。眼前に立っていたのは、赤髪のツインテールの女性だった。
「よく来たわね、特異点。いいえ、新たな創造者よ」
女性は腕を組んだまま言葉を続ける。
「私の名前はディード。ディード・オルトレ。かつて力を究め、そして全てに興味を失って、自分からここにやって来た……元人間」
レメディは驚きもせず聞いている。
「創世の座についたアンタに、先輩から一つ警告しておこうと思ってね。ありのままの世界を望む……それはアルヴァナが今まで保持していた世界とは異なる、未知への第一歩よ。アルヴァナは自身を滅ぼす存在を作り出すために、ある種コントロールされていた自由意志を皆に植え付けていた。アンタのこれから作る世界は、それを全て消し去ること……故に、アンタの首を狙うような奴が不意に生まれても不思議じゃない」
ディードは口を歪めて、半ば嘲笑のような笑顔を見せる。
「覚悟しておくことね。どんな時も、永遠に安定するものなどない。アンタが夢見た規範なら、なおさらね。ありのままを望むのなら、どんな不届き物の跋扈をも、許容するだけの心が必要になる」
彼女はアプカルに視線を向け、レメディへ戻す。
「私が言いたいのはそれだけよ。これから創世って時に水差して悪かったわね。さあ、行きなさい。ここから先はアンタの望んだ世界、三千世界のエンディングよ」
レメディは自然と目が閉じる。
目を開くと、そこは黄金の光に包まれたシャングリラであり、ディードも、アプカルも居なくなっていた。
【……】
レメディは胸に手を置き、そして一拍の後、力を放つ。
物語は終を迎えた。
生まれた意味もわからず彷徨った無明竜は、永い永い苦悩の末に本懐を遂げた。
宙核が始まりを務め、竜の姫が、虚の鴉が、空の器が、時の落胤が……
この世を生きた者が、去った者が、全ての存在が繋ぎ止めた物語が、終わったのだ。
ありのままの世界を望んだ新たな創造主は、未踏の未来へ歩みを始める。
この先に待つのは苦難か、または……
どうであれ、新たな創造主は満足なのだろう。
如何なる出来事も受け入れ、各々の意志の行く先に委ねる。
それが、ありのままの世界なのだから。
雪のように降り注ぐ粒子を抱き止め、レメディは進む。そのまま地面の淵まで来ると、空中に浮遊する。
「待ちなさいな」
どこからか声が聞こえ、レメディは停止する。そこに現れたのは、蒼い長髪を持った、まさに女神と呼べるような超然的な女性だった。
【……】
「もはや言葉を必要としないほど、高位の存在となりましたか。よろしいですわ。わたくしの名前は、アプカル。アプカル・フィーネ……皆が蒼の神子と呼ぶもののオリジナル……そして、最初の獣」
レメディと視線を交わすだけで、どちらの力か、アプカルは意図を理解して会話を再開する。
「あなたは今、創世の座についた。あなたの想いのままに、新たな規範を生み出す時ですわ。けれど、世を興す前に……一人、会って欲しい方がいますわ。あなたが望むなら、わたくしの願いを聞かずに、そのまま創世を行うこともできますけれど……」
彼は深く頷き、アプカルは笑む。
「ならば、目を閉じて……」
言われるがまま、目を伏せる。
目を開くと、そこは宇宙の片隅のような、妙な空間だった。レメディに並ぶアプカルが口を開く。
「ここは無の無……無いという概念さえ無い、究極の無。アルヴァナも先ほど、ここに送られましたわ。ここには何もない。誰でさえ、何を見ることも叶わない。でもここには、たった一人だけ……無の有までと変わらぬ振る舞いを為される方がいらっしゃいますわ」
アプカルは芝居がかった動きで正面を見るよう促し、レメディは従う。眼前に立っていたのは、赤髪のツインテールの女性だった。
「よく来たわね、特異点。いいえ、新たな創造者よ」
女性は腕を組んだまま言葉を続ける。
「私の名前はディード。ディード・オルトレ。かつて力を究め、そして全てに興味を失って、自分からここにやって来た……元人間」
レメディは驚きもせず聞いている。
「創世の座についたアンタに、先輩から一つ警告しておこうと思ってね。ありのままの世界を望む……それはアルヴァナが今まで保持していた世界とは異なる、未知への第一歩よ。アルヴァナは自身を滅ぼす存在を作り出すために、ある種コントロールされていた自由意志を皆に植え付けていた。アンタのこれから作る世界は、それを全て消し去ること……故に、アンタの首を狙うような奴が不意に生まれても不思議じゃない」
ディードは口を歪めて、半ば嘲笑のような笑顔を見せる。
「覚悟しておくことね。どんな時も、永遠に安定するものなどない。アンタが夢見た規範なら、なおさらね。ありのままを望むのなら、どんな不届き物の跋扈をも、許容するだけの心が必要になる」
彼女はアプカルに視線を向け、レメディへ戻す。
「私が言いたいのはそれだけよ。これから創世って時に水差して悪かったわね。さあ、行きなさい。ここから先はアンタの望んだ世界、三千世界のエンディングよ」
レメディは自然と目が閉じる。
目を開くと、そこは黄金の光に包まれたシャングリラであり、ディードも、アプカルも居なくなっていた。
【……】
レメディは胸に手を置き、そして一拍の後、力を放つ。
物語は終を迎えた。
生まれた意味もわからず彷徨った無明竜は、永い永い苦悩の末に本懐を遂げた。
宙核が始まりを務め、竜の姫が、虚の鴉が、空の器が、時の落胤が……
この世を生きた者が、去った者が、全ての存在が繋ぎ止めた物語が、終わったのだ。
ありのままの世界を望んだ新たな創造主は、未踏の未来へ歩みを始める。
この先に待つのは苦難か、または……
どうであれ、新たな創造主は満足なのだろう。
如何なる出来事も受け入れ、各々の意志の行く先に委ねる。
それが、ありのままの世界なのだから。
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