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最終章「私の望んだ終わり」

「結実する祈り」

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 第一期次元領域
「……ふんッ!」
 手刀が番外者を切り裂き、消滅させる。
「……まだ来るか」
 僕が視線を向こうへ向けると、まだまだ大量の番外者たちがこちらへ向かっているのが見える。
「バロン!」
 背後で援護に回っていたエリアルが呼びかけてくる。僕がそちらを向くと、上空から蒼い光が落ちていくのが見える。
「……レメディ君か……?」
「バロン、私に一つ提案があるんだけど、聞いてくれない」
「……もちろんだ」
「今、この場所は一番無の無に近い場所よ。だから、みんなの想いをシフルエネルギーに乗せて、彼に届けるの」
「……無の無に近ければ、もしかすれば……この物語の結末を望む、死者の力も借りられるか……?」
「そういうこと。エメルも聞こえてるわね?」
 敵がまだ辿り着いていない端から番外者の群れに突っ込んで破壊を繰り広げているエメルは、片手間にサムズアップで答える。
 僕はエリアルを守るように位置取り、彼女は祈りを捧げ始める。
「……君は勝たねばならない。力が足りないのなら、僕たちが貸す……!」






 原初零核シャングリラ・エデン
「それっ!」
 私のキックでモンスターをゼロ君の方に飛ばす。ゼロ君は他のモンスターの相手をしてたのに、まるで最初からわかってるみたいに振り返って一閃して、真っ二つにする。
「腕が鈍ったようだな。ヤズにでも叱られたか?」
「ゼロ君も、べそかいてるぐらい遅いよ!」
「そんな記憶はないな」
 ゼロ君は適当に返事しながら刀をブーメランみたいに投げて周りを一掃しちゃうと、綺麗に刀をキャッチする。私も負けじと光を右手から出して、モンスターを一撃で全滅させる。
 って、そういう話をしてると……
「ねね、ゼロ君。あれって何かな」
「どうした」
 二人で同じ方向を見ると、蒼い光が落ちていってるのが見えた。
「特異点か……?」
「えぇー!負けちゃったの!?んん!?ちょっと待って、ホシヒメアンテナが何かを受信するよ!ビビビビっと!」
 私は急に来た……うーん、説明しづらい何かで……直感?第六感?たぶんそーいう奴で思いついた!
「ゼロ君!レメディ君に私たちの力届けよう!」
「仕方あるまい。これだけ期待させておいて負けて終わりなど、俺たちは認めんぞ特異点」
「さあ行こう!」
 私の声に合わせて、ゼロ君も力を発する。続いて色んな人たちが姿を取り戻して、協力してくれる。ゼルに、ノウンに、ネロに、ルクレツィアに、おばあちゃんに……アルマさんも、ブリューナクさんも、ガイアさん、ブロケードさん、クオンさん、メルギウスさん、アカツキ……立ち上る力の余波だけでモンスターたちを消し飛ばしながら、私たちはレメディ君目掛けて力を届ける。







 灰色の蝶の姿から、私は人間の姿に戻る。アリアが遺した式場の残骸の上に乗り、ロッドを生み出す。
「全く……この期に及んで力が足りずに敗れるとは。仕方ない……」
 ロッドの石突きで足場を突き、それに伴ってアリア、燐花、千代、メラン、シャトレ、レベン、ゼナ、トラツグミが現れる。更に私の隣にソムニウムも出てくる。
「私の出番早い」
「特異点に言え」
 遮るように上空から声が聞こえ、誰かが瓦礫に落ちる。
「いってえ……ひでえ目に遭った……」
 起き上がったのは明人だ。それに続いて、彼からアルファリアが現れる。
「これを利用して蘇れないの、あてたち……?」
「その前に次の世界を祈れ」
 私はロッドを掲げる。Chaos社の幹部や虚皇帝、六聖将、滅四星も集い、力を集める。
「私たちの力で、次の世界を作れるのなら……それでも構わないのです」
 背後で手を合わせたアリアが呟く。
「そうだぜレメディ。死んじまったら全部諦めることになるからな……やりたいことがあるなら、生きてる内にやりやがれッ!」
 明人が叫び、ソムニウムが笑う。
「自分からあれだけ死にたがってた人が言う?」
「そういうところ全部わかっちょうけ言っとうんて」
「ま、確かに君らしい言葉ではある……」
 私のロッドに集まった力を、特異点目掛けて放つ。









「全く困るわね。こっちはゆっくり寝てたのに」
 アタシは蓮華の上で、空に輝く蒼い星を見上げて呟く。
「全くだな。わえもあれだけ気持ちを込めて今生の別れを告げたというのに」
 背後から玄海が並ぶ。宗方や豊前、雲仙たちに加え、アダムやヘラクレスも集結してるみたい。
「どうせバロンがしっかりしてなかったからでしょ?だからアタシと一緒になってれば良かったのに」
「さてな。わえたちには想像もつかないほど大きな話のようだからな。わえたちには……ただ、力を貸すことしか出来ない」
「ったく……バロン、今度会ったら絶対夜伽に付き合ってもらうわよ」
 面倒だけど、アタシはその場にいる全員に力を放出させる。
「アタシたちの力、受け取りなさい!」








「ストラトス、会いに行かなくてよかったの?」
 俺の横に立つシエルが、視線の先で輝く蒼い星を眺めながら訊ねる。
「千早か?俺は……あいつが求めてるのは、二人とも同じ世界に同じ存在でいる状態だろうさ。今の俺にはできないことだ」
「また面倒な約束を取り付けたものだねえ」
 背後から声が聞こえ、俺たちにアポロを連れたグラナディアさんが並ぶ。
「だからこうやって最終決戦に生きてないのさ、色男」
 グラナディアさんの皮肉っぽい言葉に、俺は苦笑いで返す。
「でも次の世界を作り出すのは、千早のためにもなるはずだ」
「私たちの力で……特異点さんをきっと勝たせましょう」
 俺の手を抱いて、アルバが現れる。
「あぁ……」
「私の剣とあなたの槍使って負けてるとか、ちょっと納得できないわ」
 俺が気の抜けた返事をしていると、それを掻き消す大声でセレナが合流する。空から飛んできた折れた長剣を、彼女はちょうどよくキャッチし、掲げる。
「ちょうどいい。私たちの力はそいつに注ぐとしよう」
 グラナディアさんの提案に乗り、俺たちは掲げられた長剣に力を注ぐ。
「受け取りなさい特異点、この世界全部の力!」
 セレナが星へ向けて長剣を投げる。






「新たに拓かれる世界にならば、私たちの求めた未来があるのだろうな」
 竜の姿のシフルが、彼方で降下する蒼い星を見て呟く。
「私たちの足掻きも、決して無駄ではなかったのだろう」
「そうだな、ネブラ。セレナやアストラムにも感謝しなければ……」
 私はシフルの言葉を遮り、右手で号令する。背後に立っていたイゼルやウルヌ、量産型の兵たちが一斉に力を放出する。
「私たちの力で、お前の創世を果たせ、特異点」






「哀れな特異点よ、アルヴァナには勝てずに散るか」
 余の隣に佇むニヒロは、落ちていく蒼い星を見て呟く。
「あれほど欲しがっていたのに、なぁ?今手を伸ばせば手に入るかもしれんぞ?」
 こちらから煽ってみると、奴は一笑に付す。
「ふん、もうどうでもいいことだ。どちらにせよ、俺はボーラスに負け、消し炭になった。この戦いの勝敗がどうあれ、俺も貴様も、永遠に消える」
「自暴自棄か?愛い奴め。まぁその通りではあるが……このまま、アルヴァナが生き永らえるのも不愉快だろう?」
「ちっ」
 ニヒロは舌打ちしてみせる。余は宿敵の見せるその、露骨に悔しそうに譲歩する態度がたまらなく愛しく見えて、より煽りたくなる。が、ここは仕方なく目的を優先する。
「ニヒロ、お前と余の隷王龍共は準備よいか?」
「貴様の鈍重な二匹と比べるな。行くぞ、貴様が原因で失敗するのは納得できん」
「くふふふっ、よかろう」
 余とニヒロは同時に力を蓄え、蒼い星へ放つ。背後に並んだ、お互いの隷王龍たちも力を足す。
「特異点よ、我らの愛を誉れとせよ。彼の竜を討つ、お前こそが最後の希望だ」
「歯の浮く……だが、貴様にしか出来ぬのなら、大いに暴れろ。何のために俺たちが場を整えてやったと思っている。行け!終熄へ!」





「くは……ぁ……」
 我は余りの退屈に、天を仰いで大欠伸をしてみせる。
「この程度では、流石に相手にならんな」
 座る我の前で、ジーヴァは番外者たちを軽くあしらう。
「ならば仕事があるようだぞ」
 奴の言葉に続いて、我が見上げた天には蒼い星が流れていた。
「貴様の力はその程度か、特異点。下らん……」
「我が王を葬る牙に、足りぬは純粋な鋭さか」
「答えは単純だ。足りぬなら補え。我らにはそれが出来ぬが、ヒトの身ならば容易だろう」
「私が手伝う必要があるか?」
「そうだな。貴様も手を貸せ。アルヴァナを消すに、力が有り余って損などしまい」
 ジーヴァは笑みを見せ、番外者を一気に薙ぎ払い、消し飛ばす。
「行け特異点。貴様の求める創世を為せ。使命や、期待や重圧などどうでもいい。貴様の信じる道を、最後まで走り抜け」
「全てはアルヴァナの敵ではないが、君の味方だ。諦めず、夢の果てまで……」


 第一期終着点
 一通りの番外者が片付き、改めて僕たちは力を託す。
「……」
 それに合わせて、ヴァーユ、ヴァルナ、ラーフやカルブルム、パラワン、グランディス、コーカサス、バンギ、バアル……多くの戦友、そしてアウルが現れる。
 彼女は僕を見つけると、駆け寄って体を預ける。
「バロン……」
 僕は敢えて優しく抱き止める。
「……アウル。今やるべきことはわかっているな?」
 彼女は黙したまま頷き、僕の放つ力に添えるように力を発する。そして僕の隣にはアグニも現れ、相変わらずの表情でこちらを見る。
「てめえと協力すんのも、あんとき以来だな」
「……はっ、そう言えばそうだったな。今回は攻撃されて勝手に離脱したりはしないんだな?」
 僕はいつものようにからかって見せると、あちらもいつものように鼻で笑う。
「けっ、てめえこそ途中で力尽きて諦めんなよ」
「……ふん」
 僕は右腕を天へ伸ばす。エリアルの祈りが加わり、その場にいる全員の力が集結する。
「……レメディ!まだ倒れるんじゃない!僕の託した世界を、君の目指した未来を……君の手で掴むんだ!」






 終期次元領域 シャングリラ
「……」
 僕は、負けたのか?
 今どこにいるのかもわからない。
 手も、足も動かない。血が巡っているのか、呼吸しているのかすら。
 何も見えない。目を開いているのか、閉じているのかすらわからない。
「レメディっ!」
 誰かに手を掴まれる。聞き慣れた、優しい声だ。その声の持ち主は、僕の右手に何かを掴ませる。蒼い閃光が闇を切り裂いて、バラバラになった自分の心を搔き集め、光の造形を鮮明にさせ、視界を取り戻す。
「ヴィル……!」
 僕の手を掴んだのはヴィルだ。そして握らされたのはルナリスフィリアだった。ヴィルの後ろにはロータさん姉妹や先生、アストラムさんたちが佇んでいる。
「みんな……!」
 ロータさんが前に出て、ため息混じりに口を開く。
「ねえ、私があれだけ溜めて耐えてあげたのに、もう負けたの?」
「えっと、それは……」
 嫌味のような言葉だったけど、ロータさんの表情や優しい声色からして、こちらを心配しての言葉なのは明らかだった。
「鬱陶しいあなたの相方に託したのにすぐ死ぬし。これじゃ二人とも、実技は欠点じゃないの、兄様?」
 ロータさんが先生に話題を振ると、先生は肩を竦めて笑う。
「さあな。こいつらの成績なんか覚えてねえよ。ただ……ここで諦めんなら卒業は無理だな」
 先生の言葉に、ヴィルが笑う。そして、ヴィルは僕に優しくも真剣な眼差しを向ける。
「言っただろ、最後までよろしくするってよ。俺はレメディのやりたいことを応援する。信じる、支え続ける!」
 ヴィルは右手をグッと握り締め、渾身の笑顔を見せる。
「この世界全部が味方だ!勝とうぜ、レメディ!」
 僕は躊躇いなく、全力で頷く。
「うんっ!」
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