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終章「The last battle in shangri-la eden」

「人生の墓場」

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「どういうつもりだ……?」
 明人は仕方なくアリアに並び、そして彼女の首筋に大剣をあてがう。
「ふざけてるなら放っておいてくれ」
「私は至って真面目なのですよ。夫婦には必要なことなのです」
 アリアは大剣を払いのけると、先へ進んでいく。明人は大剣を消して追従する。屋敷の玄関の扉を押し開けると、明らかに外観とは異なる空間に出る。等間隔で配置された長椅子や、絢爛なステンドグラス、そして眩いばかりに白い内装。察するに、西洋風の結婚式場の様だ。
「……」
 参列者は触手やヒルのような生命体から、肉塊が懸命に人間の形を保とうとしているような異形だらけだった。床は生暖かく、多少のぬめりがある液体が薄く張られており、式場を満たす、得も言われぬ安心感をもたらす温もりと合わせ、異様ではあるが、まるで子宮のようだった。
「だぁ……」
 道の先に立つのはハルだった。神父のごとく、こちらを見つめてくる。アリアと明人はハルの前まで辿り着くと、向かい合う。
「こんな茶番をするために戦いを中断したのか」
「茶番だなんて、とんでもないのですよ。夫婦と言う形は、もちろんお互いが愛し合っている必要があるのです。でももう一つ、互いに誓い合ってなければならないのです。しかも私たちは楽園の淵源となって永遠を過ごす責任と役割がある……例えここで永遠に隔てられたとしても、二人で誓い合うことにこそ価値がある」
 アリアが抱擁を促すように両手を向けると、彼女の衣装が豪奢なウェディングドレスへと変わる。
「君の憧れはソムニウムさんにあるかもしれないのです。でも君の肉欲は、性欲は、安らぎは、喜怒哀楽憎怠は、愛は……全部私のものなのです」
 渋るように一歩後ろに下がる明人へ、ハルが覗き込むように見上げてくる。
「だぁは、まぁと誓わない?誓たくなぁ?じゃあまぁじゃなくて私もいいよ……?」
「ハル……いや、単純に思考を切り替えるのに時間がかかっただけだ、大丈夫」
 明人は兜を消し、真剣な表情でアリアを見つつ、一歩前に出る。
「あくまで仮定の話だけど……君が俺と、ずっと一緒にいてくれるなら、こんなに嬉しいことはない」
「うふふ、これでちゃんと私たちは、番《つがい》なのですよ」
 二人の会話を見て、ハルが続く。
「健やかなときも、病気のときも、お互いに尊重し合って、愛しまう?死が二人を別っても大好き?」
 二人は頷き合う。
「じゃあちゅーしるの」
 そのまま抱き合い、ゆっくりと顔を近づけ、目を伏せ、唇を重ねる。舌を絡ませ合いながら、誓いのキスにしては性的で熱烈なせめぎ合いを見せる。少し吐息が荒くなるほどキスした後、二人は名残惜しそうに目を開きつつ離れる。
「大好きなのですよ、明人くん」
「俺もだ、アリアちゃん。だが……」
 即座に飛び退き、兜を被りつつ大剣を生み出してハルごと薙ぎ払おうと振る。しかしハルは瞬時に刀を生み出して弾き返し、それどころから猛烈な速度の抜刀攻撃で反撃し、明人に防御を選択させて後退させる。
「ふふ、私は少し準備してくるのです。ハルたちは、お父さんをしっかりと楽園に連れて来られるように頑張るのですよ」
 アリアは消え、ハルが正面に立つ。そして長椅子に参列していた怪物たちが全員臨戦態勢に入る。
「ハル、アリアちゃんは強情でも、お前ならわかってくれるかもしれない。先に通してくれないか」
「だめ。私も、私たちも、だぁと一緒に暮らしの……だぁの子供要りたい。みんな、そう思ってる。見た目が嫌なら、いくらでもだぁの好きそうな女の子になれるから……だから、先に進ませない」
「自分の子供を自分の手で殺すとか、さすがに気が進まないが……仕方ない」
 明人は衝撃波の壁を生み出して参列者たちの合流を妨害しつつ、ハルへ接近して大剣を振る。同じように刀に弾き返されるが、彼女のその動作の隙に捻じ込むように魔力の槍を放つ。だが、衝撃波の壁を強引に突破し、ミンチになりつつも現れた怪物たちが、文字通りの肉壁となって槍を防ぎ、両者生じた隙を潰して得物を叩きつけ合い、競る。
「だぁは、私。私は、私たち。私たちは、まぁ。まぁは、だぁ。私は、だぁ。私たちは、だぁ……」
「ハル、頼むから俺を困らせないでくれ」
「いや。子供の面倒を最後まで見る、親の責任」
「そもそもハルはアリアちゃんが勝手に作り出しただけだろ、俺はメビウス事件の時はまだセックスしてねえよ……!」
 刀を弾き返し、上段から振り下ろす。だがハルは掌底から刀を吸収し、左手から生やして抜刀しつつ弾き、強烈なスイングをかけて刀を放り投げる。猛烈な回転がかけられた刀は明人の胴体を急速に削り、そして砕け散る。新たな刀を左掌底から抜刀する。
「ん」
 ハルは先ほどの言葉を否定するように鼻を鳴らす。
「まぁがだぁのこと、旦那さんにしたくなった。だぁはまぁの望み通り、まぁのお腹の中に来た」
「なんだと……?」
「だぁが知らないだけ……まぁは、まぁのおばあと同じなの。まぁはおばあのこと嫌いだけど、やってることは同じなの」
「なに……?まさか、さっきは気にしなかったが、ってのは……!」
「まぁはだぁを起こすときに、我慢できたかったみたい」
「ただの日常系エロイベントじゃないのか……!」
「物事は因果応報。全ての事象が連続していないと言う人もいる知ってる。でも、私がここにいるのは、まぁがだぁと子作りしたから」
 ハルは左手を差し伸べる。
「だぁとまぁの交わりから、私たちが始まった。だから、だぁは私たち、まぁは私たち。いきものは、ちゃんと完成した一つにならないといけない。だぁを逃がしたら、私たちは私たちになれない」
「ならお前らは永遠に完成されないだけだ」
「家族と言うのは、最初にかかって、最後まで続く呪い。いきものは同じ呪いにかかった同志が欲しいから、子を為す。だぁとまぁが全ての親になって、みんなを呪いにかけるの。私たちとも、だぁのことが好きなみんなとも、たくさん子供を作って、だぁとまぁがずっと幸せに暮らすの」
 ハルが竜化し、マッシブな副腕が形成される。
「だぁがこの先に進んだら、絶対後悔する。私たちとずっとえっちしてた方がよかったって、死ぬ前に思う。後悔は先に立たない。やって後悔するより、やらずに後悔した方がずっと建設的だから」
 ハルは猛進し、大きめの振りから連続で副腕を振るい、締めに大きく振りかぶった左副腕を、体の捻りに任せて突き立てる。だが容易に全て回避され、最後の攻撃の隙に大剣から繰り出された巨大な衝撃波に押し飛ばされ、式場の壁に叩きつけられる。立て直すよりも早く、瞬時に接近した明人による、大剣の一突きに貫かれる。
「だぁ……」
「悪いが、ハル程度じゃ敵じゃねえ。死んでくれ」
 ハルの体の中央がぱっくり割れ、凶悪な牙を覗かせる顎を顕現させる。が、即座に口の中に魔力の槍が何本も突き刺さり、動きを封じられる。大剣から莫大な闘気を流し込み、ほどなくハルが爆発四散する。
 明人は式場の壁を破壊し、先へ進もうとする。が、突如床が抜け、そして巨大な触手に絡めとられて引きずり込まれる。
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