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終章「The last battle in shangri-la eden」

第三話「懐かしき新天地」

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 淡い輝きに包まれた暗黒の中を進んでいく。頭上の天使と竜たちの争いは勢いを増し、破壊された天使が落下してきては砕け散る。
 次に訪れた広場には、Chaos社海上基地の残骸が突き刺さっており、それに続いて赤黒い雷に打たれた竜やら天使やらが破片となっている。残骸の狭間にて待ち構えていたのは、メランエンデだった。
「次はお前か」
「はい。器様」
 メランはいつものように柔和な笑みを浮かべ、肩を竦めて胸を揺らす。
「ここに来たということは、千代さんのことは躊躇いなく、冷酷に、容赦なく殺してしまったんですね」
 非難するように……いや、嘲笑を隠した悲愴な表情で告げて、メランは横顔を向け、右手を伸ばす。小さな光の粒子が彼女の掌に舞い降り、そして握り潰される。
「そうだよ。俺は千代姉を殺した。邪魔だったからな」
「そうでなければ。器様は、そうでなければ。」
 メランは明人へ向き直り、左手で脇差に触れる。
「そうでなければ……私はあなたに惚れなかった。目的もなく彷徨い、種を撒き散らし、そうして食い荒らして、取ってつけたように死にたがる。あなたのその、人間としての道徳がない、ある種の〝人間らしさ〟に、私は惚れたんです」
「面の皮が厚いのは自覚してる。そうでなきゃ、罪を償うとか言えるわけねえ」
「でも――あなたは本当に要らないのですか?あなたのことを無条件に認めて、愛して、労わって、尊重してくれる美しい女性たちと、永劫の幸せを享受することが」
「自分を認めてくれる、安心できる平和な場所は要らない。一緒に過ごしてくれる人もな。俺は命を使い潰したいんだ。二度と蘇りたくないからな。んで、どうせ命を使い切るなら、宿敵と決着をつけたいだろ」
「あちらはあなたのことなど見えていませんよ、器様。ソムニウムは、初めからあなたなど眼中にない。そしてきっと、どんな力をぶつけても器様では、ソムニウムに勝てない。恐らく、一方的に叩きのめされるのが関の山でしょう。それで、あなたが望むように死ねるのですか?」
「当たり前だろ。何事もやってみなきゃわからねえ」
「そうですか。コラプスとの戦いは一進一退、千代さんとの戦闘では随分と被弾が多くなっていましたが。それに、我が主との戦いでは文字通りの瞬殺の憂き目にあっていたではありませんか。隷王龍ソムニウムは、我が主を遥かに上回る化け物なのですよ」
 明人は大剣を生み出し、切っ先を向ける。
「そろそろ黙れ、メラン。何を言われようが俺はお前を倒して進む」
「いいでしょう、器様。私はあなたに蹂躙されるのが何よりの喜びです。しかし――たまには攻守を入れ替わるというのも、マンネリから脱するのに必要です」
 脇差が引き抜かれ、ゆっくりと構えられる。
「この世から絶やしてならぬのは、性への探求、生への執着、精への慈悲……さあ、参ります」
 メランがふわりと浮き上がり、異常に鋭い角度で斬り込んでくる。明人は軽く弾き返し返す刃を強烈に弾く。それだけで鈍い音が響いて脇差を取り落とす。だがメランは一歩踏み込み、明人の右腕を掴んで背面に投げ飛ばす。そして左手に脇差を呼び戻し、倒した明人の右脇に突き刺し、右足で腕を抱え込み、左足で頭を挟み込んで固める。反撃に籠手が装着された左腕でパンチを放つが、メランは手から赤黒い電撃を放って弾き、右手刀で彼の股間を強打する。続く電撃で焼くが、明人は強く反動をつけて下半身を持ち上げ、瞬間左拳をメランの腹に極め、両足で彼女の頭を掴んで力任せに抛る。メランは粘ろうとはせずに、投げられてから受け身を取り、脇差を右手に戻す。明人も傷を癒しつつ立ち上がる。
「まさか金的で来るとはな。だが……効くと思ってんのか」
「うふふ。これで見納めとなると寂しくて……単純に器様の本尊に触りたかっただけですよ。器様も、私のむちむちの太ももを押し付けられて幸せだったでしょう?」
「ふざけんなよ、メラン」
 明人は大剣を消し、蒸気を発しながら素早い右ストレートを繰り出す。メランはその腕を掴んで引き流し、彼の背中に脇差を突き刺し、すぐに引き抜き、足を払い、勢いのまま体を捻りつつ回転して足で明人の頭を捉え、翻って地面に叩きつける。メランが離れると同時に明人は具足から蒸気を放ちながら足を回転させて反撃するが、当たるわけはなく牽制に留まる。籠手から蒸気を放って飛び上がり、大剣を呼び出して急降下しつつ斬りかかる。その余りにも大振りな動きは脇差で受け止められ、体ごと弾き返されて着地する。
「器様だけの力など所詮はそんなもの。大人しく我々の肉バイブになってくださいませ」
「ここで諦められるなら千代姉を殺したりしねえんだよ」
「もちろんわかっていますよ。でもこれでよりはっきりしましたね。器様って本当は……強引な方が好きなんですね?」
「もう好きにしろよ」
 明人は大剣を振り、巨大な真空刃を放つ。アクロバットな跳躍で飛び越え、そこへやたらめったらに振り回した大剣から飛んでくる小さな刃の弾幕が注ぎ込まれる。メランは高速回転して刃を弾きつつ着地し、左手から放った電撃の盾で凌ぎ、その場に留まる。続けて明人は竜巻を生み出して飛ばし、全力で力み、周囲の瓦礫を空中へ持ち上げる。刃の切れ目に竜巻が激突して更にメランは釘付けにされ、そこに瓦礫が次々と激突する。彼女の体は吹き飛び、追撃にピンポイントで落とされた瓦礫に撃墜され、下敷きとなる。だが即座に竜化して瓦礫を破壊し、飛び上がる。
「器様、あなたも気付いていないかもしれませんが、私も実は興奮しているんですよ」
「お前はいっつもだろ」
「いえいえ……そうではありませんよ。ここが正念場、どれだけ自分の命を無駄にしてもいいわけです。それはつまり、どんな無茶な作戦をも許容できると言うこと……」
 メランは翼についた長い鉤爪で地面を抉り出し、翼の一閃で砕いて礫を放つ。明人も即座に竜化し、それに伴う衝撃波で全て破壊し、長めの構えから両腕を繰り出し、そこから細い衝撃波を届かせる。メランは旋回しつつ上空へ飛び上がってそれを躱し、右足に極悪なほどの電撃を蓄えて急降下する。無謬は後ろに下がるが、その程度の後退など無意味なほどの絶大な衝撃が着地と共に迸り、続けてメランの口から放たれた赤黒い極太のビームが叩き込まれる。だが彼女の頭上から魔力の槍が注ぎ、突き刺さり、そのまま拘束する。
「これは……アルファリア!」
 気付いたメランが即座に戒めを破壊するが、駆け寄ってきた無謬の強烈なラリアットを受けて吹き飛び、そこへ重ねて衝撃波が叩き込まれ、辛うじて受け身を取ったところへ特大の魔力塊を叩き込まれ、その爆発で地面に叩きつけられる。
 畳みかけるように無謬は片腕ずつ振り抜いて衝撃波を走らせ、続けて両腕を地面に叩きつけて特大の衝撃波を叩き込む。メランは攻撃を受けつつも強引に飛び上がり、全身に赤黒い電撃を纏いつつ降下し、着地と共に解き放つ。莫大に過ぎる電撃が大地を走り、瓦礫が融解していく。
「なんだ……」
 無謬が困惑する。白が中心だったメランの体は赤黒く染まっており、鱗が剥離しては焼け焦げて消える。急にメランは右翼を振り抜く。それだけで、おぞましいほど大量かつ超高出力の電撃が扇状に放たれる。無謬は後退して範囲から逃れるが、メランは鉤爪を突き刺し、高速で接近しつつ噛み付く。口に蓄えた莫大なエネルギーを嚙み砕くことで、自分もろともに痛烈な爆発を無謬に叩き込む。
「がふっ……!」
 思わず呻いた無謬に、左翼の一閃を叩き込み、続く鉤爪で彼を巻き取り、空中へ放り投げる。そのまま錐揉み回転で彼を貫き、上空を高速で旋回して無数の雷撃を注ぎ込む。高く打ち上げられた無謬は空中で体勢を立て直し、上を向いてメランを捉える。
「!」
 無謬が目にしたのは、既に大技の準備に入っていたメランの姿であり、遅れて注がれる雷撃が行動を阻んでくる。次の瞬間、天空から莫大なエネルギーを纏った光線が降り注ぎ、無謬へ叩きつけられる。余りにも強烈な出力に抵抗できず、彼は光線と共に着地し、そのまま足場と光線の板挟みになって喰らい続ける。次第に地面が溶解し、無謬もその溶けだした沼に沈み込んでいく。光線の撃ち終わりに盛大な爆発が起こり、無謬はそのまま沼に押し込まれる。
 程なくして、ふらつきつつメランが着地する。鱗は殆ど焼け落ちており、呼吸も見るからに浅い。
「私の勝ちです、器様……」
 メランは霞む視界の向こうから、灰色の蝶が飛んでくるのを見止める。
「夢見鳥……!」
 素早く構えて細い光線を撃つが、蝶はひらりと躱す。気を取られていると、鈍い音と共に無謬が沼から抜け出してくる。いや、正確には、天に掲げた右人差し指を、三本の魔力の槍で支え、持ち上げている。融解していない地面に着地し、無謬は自分の腹に左手で触れる。そして離し、掌を見る。
「……」
 既に体表は溶け出しており、ヘドロ状になった自分の表皮だったものが、指の隙間から地面に落ちる。
「さすがはマジの王龍ってところか、メラン……」
「アルファリア……」
 メランは心底恨めしそうに視線を向ける。無謬の右肩近くに浮かぶ、アルファリアへ向かって。
「クライシスの時に死んでいればよかったものを……」
 そして視線を無謬へ向ける。
「器様、一つだけ言っておきます……あなたと彼女は、見ている相手は同じでも、抱く感情は違う……あくまでも同志であって、味方ではないのです……」
 崩れ落ち、その体が粒子に変わっていく。
「お慕いしております、器様……身も、心も、何もかも……あなたの、傍で……」
 一気に光へと変わり、そして跡形もなく消え去る。
 無謬は人間に戻り、アルファリアと共にメランが居た場所まで歩く。
「なるほど、今度はそちらで来たか。余力も残さぬ、文字通りに全身全霊の一撃を以てこちらに打撃を与え、そして自ら消え去ると」
「自決の手段を全員が保持してるってわけか。随分と準備がいいな……まさか、超越世界に蘇ってからすぐ計画されてたりするのか……?」
「恐らくはな。あの千代と言う女、あそこまで格闘技術があったか?」
「いや……俺の知ってる限りじゃ、千代姉は運動音痴だったはずだぜ」
「ならば、汝の知らぬ場所で誰かが奴に戦い方を仕込んだのだろう。ヴァナ・ファキナとの戦いでアリアたちが妙に合流が遅かったのも、汝の力を余分に消耗させるためと考えられるな」
「まあいい。俺とお前の力だけで、零さんと戦うことになっても……負けるつもりはない」
「当然じゃ。まだ先は長い、疾く行くぞ」
 二人はその先の足場へ駆ける。
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