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三千世界・終熄(13)

第三話「Disagreement about the dictator」

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 響く暁闇の大地 クウェール草原
 モータル・グラッジとは打って変わって、非常に肌触りのよい穏やかな風が吹き抜ける。
「エストさん、ここが件の草原ですか?」
 レメディが訊ねると、エストは笑顔で返す。
「そうよ。あのね、言っておきたいことがあるの」
「はい、なんですか?」
「宙核の下へ行こうとするなら、エラン・ヴィタールが目的地でしょ。でもあそこには、何重にも結界が張られているの。それを解除する方法が……」
 遠くで蒼雷が轟き、強烈な振動が一行の下へ届く。
「あっちに行けばわかるわ」
 エストの言葉に従い、一行は雷の下へ走る。

 響く暁闇の大地 雷激の死闘場
 先程までは青空が広がっていたのにも関わらず、丘陵の頂点、落雷の場所へ辿り着くと突然夕陽が現れ朱に染まる。
 一行の眼前にて黒い何かしらの肉塊を破壊して佇んでいたのは、叛王龍シュンゲキだった。彼はレメディたちに気付くと、そちらへ視線を向ける。
「てめえが特異点か。待ってたぜ」
 シュンゲキは体ごと一行に向き直り、頭部の角を瞬かせる。
「俺の名前は叛王龍シュンゲキ。バロンを守護する役目にある、五王龍の一人だぜ」
 右翼の爪で一行を指差す。
「誰が相手だろうが構わんが、まぁここは特異点を出すのが常道だろ。なあ、天象の鎖」
 会話を振られたロータはため息をつく。
「かもね。バロンのとこまで戻れば、少しは休憩できるだろうし。二人とも」
 促されたレメディとヴィルはそれぞれ竜化しつつ並ぶ。
「本物の王龍とまた戦う……今日はとんでもねえ日だよな、レメディ?」
「ふふっ、そうだねヴィル。僕たちの目標の一つまで後少しだ」
 閃剣と機槍を見てシュンゲキが全身の電撃を励起させる。
「いい面じゃねえか。俺の好きな、変革と叛乱をもたらす力が見えるぜ……ここを生きて抜けられるかは別だがなァッ!」
 シュンゲキは飛び立ち、全身に電撃を迸らせて急降下する。機槍が光線を撃つが、シュンゲキは高速回転して弾き返し、電撃を青く変色させて突っ込む。閃剣は飛び退くが、機槍は敢えて真正面で受け止める。
「いいじゃねえか特異点!だがな、俺の真雷をその程度の守りで凌げると思うなよ!」
 シュンゲキは大きく打ち払って機槍を怯ませ、大上段から右翼を叩きつける。強烈な一撃を受け止めると、猛烈な衝撃で草が舞い上がる。素早く左翼を振り上げ、素早くガードするも打ち上げられ、右翼による刺突を繰り出される。機槍は時間障壁を踏み台にして頭上へ瞬間移動し、そこで待機していた閃剣と手を取り合い、回転しつつ幻影剣を放ってシュンゲキを牽制する。そして機槍が閃剣に跨がり、二人のそれぞれの得物に力を込めて突進する。シュンゲキは頭部の角に極大の真雷を通電させて巨大な刃を産み出し、叩きつける。両者の大技が激突して爆裂し、着地しつつ機槍は閃剣から降りる。
「悪くねえコンビネーションだ。竜化も単なる荒療治で終わってねえんだな」
 不意打ち気味に再び刃を産み出して振り下ろす。当然二人はそれぞれの方向に躱すが、間髪入れずに放ったブレスが驚異的な軌道を描き、二人の前を塞ぐように回り込んでくる。閃剣はギリギリでブレーキをかけ、素早いサイドステップから再びシュンゲキへ突進する。機槍は立ち止まることなく瞬間移動ですり抜け、一足早くシュンゲキへ到達する。先に穂先から無明の闇を発して振り上げることで牽制し、素早く引き戻して連撃を放つ。右翼で防がれ、左翼の叩きつけを呼び水として、真雷を纏った翼撃のラッシュが放たれる。全て防ぎきるも、最後の一撃を受けて甚だしく吹き飛ばされる。そのまま角から刃を産み出すが、バックステップで軸を取り直し、直前まで迫っていた閃剣に振り下ろす。
「くっ!?」
「読みが甘いんだよ!」
 咄嗟に閃剣は尾で抜刀し、刃を受け止める。絶大なエネルギーが刀身を凄まじい速度で削り、閃剣を徐々に押す。
「ならこれはッ!」
 閃剣は決死の覚悟で竜化を解き、刃をギリギリで躱してから竜化し直し、長剣の刺突を放つ。シュンゲキも素早く上体を起こすが、あえなく左肩口に食らい、強烈なタックルを顎に受けて後退させられる。両者体勢を立て直し、そして閃剣に機槍が並ぶ。
「やるじゃねえか。てめえらみたいなガキに、ここまで攻撃を往なされるたァ、正直予想外だ……」
 シュンゲキは力み、更なる電撃を迸らせる。二人が身構えると、シュンゲキは笑う。
「ふん、俺も本気でてめえらとぶつかり合いたいところだが……バロンに会わせるに値するかどうか、てめらの力を試すのが、五王龍の役目だからな」
 全身の電撃を収め、元の状態に戻る。
「進め特異点。どうあっても迷うんじゃねえぞ、絶対にな」
 シュンゲキはそう告げると、空へ飛び立つ。二人は竜化を解き、先へ進む。ロータたちもそれに合わせ、先へ進んでいく。

 ちはやふる神代の泡河
 豊かな緑と水に包まれ、所々から紅葉が舞い落ちる。巨大な泡がまるで一個の生命のように多々浮かんでおり、木漏れ日を透かして輝く。
「アンタたちが特異点ねえ」
 木々の狭間から現れたのはしっとりとした毛に覆われた優美な竜だった。
「アタシの名前はミヤビ。もしくは……品がなくて嫌いな名前だけど、天王龍ヤソマガツ」
 ヤソマガツはレメディとヴィルへ視線を向ける。
「なるほど、覚悟に満ちたいい目をしてるわねえ。アタシたちの大将みたく、使命に突き動かされてる……ってワケじゃないのね。純粋に未来を、自分達の力を信じてる無垢な瞳だわ」
 彼は閉じていた瞳を、右だけ開く。
「瞳と言えば、アタシは大昔に左目をやられたのよね。そりゃ、王龍なんだから自力で治せるのはそうなんだけどぉ……」
 潰れている左目から真炎が立ち上る。
「人が物事を忘れるように、王龍もまた、色々なことを忘れていくもの……だからアタシは、あいつに……シュンゲキに付けられたこの傷の恨みを永遠に忘れぬよう、敢えて治していないの。わかる?」
 二人が構えるのを見て、ヤソマガツはまだ余裕を持って笑む。
「そう、つまり……あいつのことが本気で憎くて、何度もぶち殺そうと思うくらいには、大好きってことよ」
 ヤソマガツは尾を振り抜き、無数の泡を飛ばす。二人は竜化し、閃剣が幻影剣を飛ばして泡を割ると、それは爆発する。タールのような液体が撒き散らされ、引火して炎上する。機槍が瞬間移動で踏破し、先手を打ってヤソマガツは右前足を叩きつける。機槍が槍でそれを受けて弾く。ヤソマガツは空中でとぐろを巻いて尾を振り抜き、竜巻を放つ。時間障壁を産み出して踏み台とし、大きく後退すると、竜巻を打ち破りながらヤソマガツが中空で螺旋を描きながら突っ込んでくる。
「ヴィルッ!」
 閃剣の掛け声に合わせ、機槍は無明の闇を放つ。瞬間、閃剣が地面につけた傷跡から魔力の壁を産み出す。放たれた無明の闇に、壁が膜のように纏わり、ヤソマガツと正面から激突する。両者激突し爆発するが、なんとヤソマガツはそこで更に飛び上がり、背面から二人を押し潰すように急降下する。機槍が受け止め、閃剣が強烈なタックルでヤソマガツを突き飛ばす。だがヤソマガツはなおも空中で尾を振り抜く。だがちょうど追撃に振った長剣がちょうど激突する。
「チッ、さっさと死ねばいいのに……」
 ヤソマガツは苛立ちを隠さずに告げる。
「さっきから随分と感情が乱れてるみたいですけど、大丈夫ですか?」
 尾と長剣が激しい競り合いをしているにも関わらず、両者の動作の安定感はまるで異なっていた。
「鬱陶しいクソガキ風情が!はよ死ね言うてんねや!死ねや!」
「そうですか」
 閃剣が押し切り、ヤソマガツが先に着地し、強烈な咆哮と共に全身が朱に染まる。
「ぶち殺したるわァ!」
 まさに次の攻撃をせんとした瞬間、突如として現れたシュンゲキに彼は吹き飛ばされる。
「おいこらミヤビ!てめえはほんとすぐ目的を忘れやがって!」
 すぐに受け身を取ったヤソマガツはシュンゲキへ吠え散らす。
「特異点!さっさと先進め!こいつはすぐ頭に血が昇るんだよ、俺が相手しといてやるから!」
 閃剣は頷き、仲間を伴って先へ進む。
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