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三千世界・黄金(12)

第一話「濃い味の集団」

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 次元門
 急降下している遺跡の内部で、レメディたちは次の事態へ構えていた。
「アミシス、どこに出る予定?」
 ロータが落ち着き払って訊ねると、アミシスも冷静に返す。
「恐らくWorldB、ニブルヘイム上空です」
 ロータは顎に手を当てる。
「WorldBは先の戦いの最中に消滅したと思うんだけど、いったいどうやって復元したの?」
「WorldBは、宙核とヘラクレスとの契約によって成り立っています。ヘラクレスは前の世界での戦闘によって、ウル・レコン・バスクの内部に吸収された……」
「なるほどね。バスクとバロンさえ生きていれば、何度でもここを作り直せる……ってこと。兄様」
 レイヴンの方を向く。
「どうした」
「バロンからこの世界を作った話とか聞いてる……」
「いいや。旦那曰く『……次元門を使って転移させるならば、近場にあるWorldBを目的地としているだろう。あの世界ほど、遠慮なく戦える舞台もないからな』って聞いただけだからな」
 レイヴンがバロンの声真似をしつつ答えると、ロータが思案顔になる。
「アミシス、WorldBでレメディたちに何をさせるつもりなの」
 彼女の返答より先に、次元門が終わりを告げる。

 ニブルヘイム
 空に放り出された遺跡は、平地の雪原に向けて急降下する。程なくして強烈な衝撃が迸り、壊れかけの遺跡は壁がほとんど崩れ落ちる。
「この世界では――」
 全員が落ち着いたところで話を続けようとすると、一行は夕日の射す方角から強大な気配を感じ、そちらを向く。砕けた壁の向こうから、マントを携えた白騎士が歩んでくる。
「貴様が話す必要はない、水都竜神」
 白騎士はレメディとヴィルへ視線を向ける。そして全身をくまなく見る。
「若いな。だが既に人とは思えぬほど、死の匂いが漂っている」
「あなたは……」
 レメディが反応を返すと、白騎士は右手を広げる。
「俺はユウェル。〈終幕の白騎士〉、王龍ユウェル・ニストルモだ」
 ユウェルは腕を組む。
「貴様たちを待っていた。アルヴァナの命により、貴様らは俺たち、ゴールデン・エイジと戦ってもらう」
「……!」
 構え、力むレメディを見て、ユウェルは首を横に振る。
「まだ戦うわけがないだろう。いくら貴様たちが魔人を打ち破り、ここまで来たとしても、真性の王龍と打ち合うにはまだ力不足。後ろを見ろ」
 言葉のままに振り返ると、雪原の向こうに古びた城と、それに突き刺さった超巨大な塔が見える。
「あの城は、ミンドガズオルム。刺さっているのはサハスララだ。貴様たちはこの世界を旅し、更なる実力を手にしなければならない。強さの証明がつけば、貴様たちはあの塔で俺たちとの戦いを終え、始源世界へ辿り着ける」
 レメディがユウェルへ視線を戻す。
「僕たちが、あなたたちと……」
「俺たちも当然、俺たち以外の兵力を保持している。そしてこの世界でのこれよりの戦いを好機と見て、多くの勢力が乱立することだろう」
「それでも僕たちは前に進みます」
「そうだ、それでいい。魔人共と違って、俺たちは本気で貴様を殺す」
 ユウェルはマントを翻し、夕日に向かって去っていった。
「ふむ」
 エストが何とも言えないという風に唸る。
「どうしたんですか、エストエンデさん。……というか、随分消耗してるみたいですけど」
 レメディが心配混じりに訊ねると、彼女は笑みを返す。
「私は大丈夫よ。ユウェルと言えば、人間寄りの古株の王龍ね。私は人間が感情を手に入れてから生まれたけど、彼はそれよりも前……人間が、まだ獣《ヒト》だった頃の生まれだから」
「ゴールデン・エイジというのは、そういう古株の実力者を集めた、ってことなんでしょうか」
「さあ……流石にお姉さんでもそこまではわからないなぁ」
「行けばわかる、ってことですね」
 レメディがロータの方を向くと、ちょうどいいとばかりにロータが顎でアミシスを使う。アミシスは行儀よくレメディにお辞儀をする。
「水都竜神、アミシス・レリジャスです。訳あって、あなたの旅の供をさせてもらいたく、着いてきたわけですけど……」
 言葉尻が弱まるが、レメディはすぐに頷く。
「構いませんよ。僕は先へ進むだけですから」
 レメディは夕日へ向かって歩き始める。
「行きましょう」
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