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三千世界・黎明(11)
第五話「フォーマイ・バレンタイン」
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翌日――
蒼空都市イ・ファロイ 空港
都市西部の海岸沿い、そこには連日多くの旅客機が飛び交う巨大な空港があった。南部未開発地区を作り上げていたファンドが作り上げたものだが、その解体と共に公有の物件となっている。
レイヴンがスーツケースを持って、入り口前の柱に寄りかかっている。気だるそうに欠伸をすると、そこへソフトクリームを食べながらアーシャが現れる。
「レイヴンさんは何か食べないんですか?」
「荷物を見とけって言ったのはお前さんだろ。それにこっちは朝食は抜くタイプなんだよ」
アーシャはソフトクリームを頬張ると、笑む。
「えへへ、こうしているとまるでデートみたいですね」
「ま、たまにはこれくらい平和ボケしてても悪くねえのは、確かだな」
「そうです。なんかいつも言ってる気がしますけど、イチャイチャ出来るときにしておくのが一番ですから。平和な日々が終わるのは惜しいですけど……終わるからこそ、平和が恋しくなるんです。そうじゃないと、夫婦なんてものはお互いを慈しむ心を簡単に……はむっ、忘れてしまうものです」
ソフトクリームを大口で食べ、今の雑談の内に殆ど食べ終わっていた。
「人生は刺激がないと腐っちまうからな。散々セックスし過ぎて慣れると飽きるのと同じこった」
「ちょちょちょ……!往来で何を言ってるんですか!」
「こんだけ周りに居りゃ、雑踏で聞こえねえよ普通」
確かに、空港は夥しいほどの人間たちが行き交っている。
「そうですけど……まあいいです。本題なんですが……」
「ああ」
「魔人とは、黒皇獣となった人間の総称です。私たちが遺跡で戦ったギルガメスやエリナ、アルヴァナの手足であった黙示録の四騎士……彼らのことを言います。それはわかってますね?」
「まあ、バロンの旦那が言うにはそうらしいな」
「魔人は……アルヴァナの死出の旅支度をするための眷属です。言うなれば、その自殺願望の具現……大いなる力を持つがゆえに人間を捨てた、人の姿をした獣です」
「ホワイトライダーにはロータが遭遇したらしいな」
「ええ。黙示録の四騎士は、魔人の中でも最強格です。いわばアルヴァナの側近たる彼らがこの世界に居るということは、やはり……」
「旦那が作ったこの世界が大事ってこったな。まあ、前の世界であいつらがしようとしていたことを考えれば当然っちゃあ当然だが」
「とは言え、アルヴァナを打ち倒せるような化物が生まれるかどうかは、結局は運次第なので……」
「何にせよ、魔人との戦いは避けられねえ。しかも俺たちと同じように、狙いはあいつらだ」
レイヴンが視線をやった方にアーシャも向くと、レメディとヴィルが向かってきていた。
「そうですね……だからこそ、彼らには強くなってもらう必要があります。でも……」
「ああ。この大会に魔人が来るんじゃねえか、そう言うことだろ?心配すんな。あいつらは死なねえと思うぜ?二人とも悪運が強そうな面してるからな」
「レイヴンさんが言うんだから間違いありませんね」
妙な括りで話が終わると、二人がレイヴンの前に辿り着く。
「おはようございます、先生」
レメディの丁寧な挨拶に、レイヴンは砕けて返す。
「おう。ロータとアストラムは買い物に行ってるぜ」
「えっと、僕たちが乗る便は……」
「あと一時間後だな。ま、そんなに急がなくても大会自体は明日だ。今日中に乗れりゃ、間に合いはするだろ。体調は整わないかも知れないがな」
そこへ、ロータとアストラムがやってくる。
「二人とも、遅い……」
ロータが若干呆れながらそう言うと、ヴィルがおどける。
「いやあ、ごめんなさいっす。二人ともキンチョーしちゃってっすね……」
「ふん、まあ間に合うからいい。兄様」
会話をレイヴンへ振り、彼は腕を組んだままロータへ向く。
「どうした?」
「二人のことは責任持って見守るから……兄様も仕事をサボらないように。アーシャはお目付け役みたいに振る舞ってるけど、すぐ折れるクソザコだから、私が釘を刺しておくから」
「わかってるわかってる。当たり前だろ」
「じゃあ行ってくる、兄様」
「あいよ」
ロータがスーツケースを持って踵を返し、空港内へ歩く。アストラムとレメディ、ヴィルがそれに続く。四人を見送って、レイヴンはため息をつく。
「ったく、俺たちはこれからが重労働だってのに……」
アーシャが隣で笑う。
「ふふ、人生は刺激がある方がいい、ですよね?」
「はっ、言うようになったじゃねえか。まあいいが、そろそろ仕事に移るとしようぜ、〝相棒〟」
「そうですね、〝相棒〟」
二人は揃ってその場を去る。
蒼空都市イ・ファロイ 空港
都市西部の海岸沿い、そこには連日多くの旅客機が飛び交う巨大な空港があった。南部未開発地区を作り上げていたファンドが作り上げたものだが、その解体と共に公有の物件となっている。
レイヴンがスーツケースを持って、入り口前の柱に寄りかかっている。気だるそうに欠伸をすると、そこへソフトクリームを食べながらアーシャが現れる。
「レイヴンさんは何か食べないんですか?」
「荷物を見とけって言ったのはお前さんだろ。それにこっちは朝食は抜くタイプなんだよ」
アーシャはソフトクリームを頬張ると、笑む。
「えへへ、こうしているとまるでデートみたいですね」
「ま、たまにはこれくらい平和ボケしてても悪くねえのは、確かだな」
「そうです。なんかいつも言ってる気がしますけど、イチャイチャ出来るときにしておくのが一番ですから。平和な日々が終わるのは惜しいですけど……終わるからこそ、平和が恋しくなるんです。そうじゃないと、夫婦なんてものはお互いを慈しむ心を簡単に……はむっ、忘れてしまうものです」
ソフトクリームを大口で食べ、今の雑談の内に殆ど食べ終わっていた。
「人生は刺激がないと腐っちまうからな。散々セックスし過ぎて慣れると飽きるのと同じこった」
「ちょちょちょ……!往来で何を言ってるんですか!」
「こんだけ周りに居りゃ、雑踏で聞こえねえよ普通」
確かに、空港は夥しいほどの人間たちが行き交っている。
「そうですけど……まあいいです。本題なんですが……」
「ああ」
「魔人とは、黒皇獣となった人間の総称です。私たちが遺跡で戦ったギルガメスやエリナ、アルヴァナの手足であった黙示録の四騎士……彼らのことを言います。それはわかってますね?」
「まあ、バロンの旦那が言うにはそうらしいな」
「魔人は……アルヴァナの死出の旅支度をするための眷属です。言うなれば、その自殺願望の具現……大いなる力を持つがゆえに人間を捨てた、人の姿をした獣です」
「ホワイトライダーにはロータが遭遇したらしいな」
「ええ。黙示録の四騎士は、魔人の中でも最強格です。いわばアルヴァナの側近たる彼らがこの世界に居るということは、やはり……」
「旦那が作ったこの世界が大事ってこったな。まあ、前の世界であいつらがしようとしていたことを考えれば当然っちゃあ当然だが」
「とは言え、アルヴァナを打ち倒せるような化物が生まれるかどうかは、結局は運次第なので……」
「何にせよ、魔人との戦いは避けられねえ。しかも俺たちと同じように、狙いはあいつらだ」
レイヴンが視線をやった方にアーシャも向くと、レメディとヴィルが向かってきていた。
「そうですね……だからこそ、彼らには強くなってもらう必要があります。でも……」
「ああ。この大会に魔人が来るんじゃねえか、そう言うことだろ?心配すんな。あいつらは死なねえと思うぜ?二人とも悪運が強そうな面してるからな」
「レイヴンさんが言うんだから間違いありませんね」
妙な括りで話が終わると、二人がレイヴンの前に辿り着く。
「おはようございます、先生」
レメディの丁寧な挨拶に、レイヴンは砕けて返す。
「おう。ロータとアストラムは買い物に行ってるぜ」
「えっと、僕たちが乗る便は……」
「あと一時間後だな。ま、そんなに急がなくても大会自体は明日だ。今日中に乗れりゃ、間に合いはするだろ。体調は整わないかも知れないがな」
そこへ、ロータとアストラムがやってくる。
「二人とも、遅い……」
ロータが若干呆れながらそう言うと、ヴィルがおどける。
「いやあ、ごめんなさいっす。二人ともキンチョーしちゃってっすね……」
「ふん、まあ間に合うからいい。兄様」
会話をレイヴンへ振り、彼は腕を組んだままロータへ向く。
「どうした?」
「二人のことは責任持って見守るから……兄様も仕事をサボらないように。アーシャはお目付け役みたいに振る舞ってるけど、すぐ折れるクソザコだから、私が釘を刺しておくから」
「わかってるわかってる。当たり前だろ」
「じゃあ行ってくる、兄様」
「あいよ」
ロータがスーツケースを持って踵を返し、空港内へ歩く。アストラムとレメディ、ヴィルがそれに続く。四人を見送って、レイヴンはため息をつく。
「ったく、俺たちはこれからが重労働だってのに……」
アーシャが隣で笑う。
「ふふ、人生は刺激がある方がいい、ですよね?」
「はっ、言うようになったじゃねえか。まあいいが、そろそろ仕事に移るとしようぜ、〝相棒〟」
「そうですね、〝相棒〟」
二人は揃ってその場を去る。
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